転生おばあちゃんの孫は、タンテイ王子
―婚約破棄からの毒殺未遂事件と少年探偵団―

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  問題編2 婚約破棄された侯爵家令嬢  

 カミラは、とある子爵家の令嬢だ。王都で産まれ育ち、王都から出たことがない。子どものころから体が弱くて、家から出ることも少ない。
 けれど成長して、体が丈夫になった。十六才になったカミラは、社会勉強も兼ねて城のメイドになった。つい数か月前の、二月上旬のことだ。
「メイドは激務だろう? 体は大丈夫かい?」
 カミラの話に、僕は口をはさんだ。彼女は、にこっとほほ笑む。
「はい。平気です。私は案外、力持ちなのです。お気づかい、ありがとうございます」
 僕たちは部屋を移動して、客室で話をしていた。僕とカミラは、向かい合ってソファーに座っている。テーブルの上には、カミラが持ってきたお茶とお菓子。
 僕はエドウィンにも、座るように勧めた。でも頑固な彼は、僕の背後に護衛として立っている。エドウィンも、とある伯爵家の令息なんだけど。
「それで、先週のことですが、――私は調理場の者たちから、フルーツのたくさん入った大皿を、この客室に持っていくように頼まれました」
 今、僕たちがいる部屋のことだ。この部屋で、毒殺未遂事件は起きた。カミラは思い出しつつ、しゃべる。
「オレンジ、イチゴ、サクランボ、モモ、――そして、私の知らないフルーツもありました。あとで料理人たちから聞いたのですが、遠い異国の果物だったそうです」
「よく覚えているね」
 僕は感心した。それから、クッキーをひとつ食べる。ドライチェリーの入った、おいしいお菓子だ。
「はい。私は昔から、記憶力がいいのです」
 カミラはうれしそうに笑って、お茶を飲む。本来ならば、王子とメイドが同じテーブルで飲食することは許されない。けれど僕はそれを、カミラに許した。なので彼女は今、遠慮なくカップに口をつけている。
「私はこの客室に、フルーツの盛り合わせを持っていきました。部屋にはドミニク殿下とヴァレンティナ様がいて、今のアイヴァン殿下と私のように向かい合って座っていました」
「ひとつ疑問があるのだけど」
 僕はまた、カミラの話を止めた。
「ドミニクお兄さんとヴァレンティナは、なぜこの部屋に一緒にいたのだい? 今年の一月に、彼らは婚約を解消した。今はふたりとも、別の人と婚約しているのに」
 僕には、ふしぎだった。あのふたりにかぎって、復縁するとは思えない。ならばなぜ、ふたりきりでいたのだろう。しかも城の客室にいたということは、ヴァレンティナはわざわざ城までやってきたのだ。
 カミラは言いづらそうに黙った。答を知っていそうな雰囲気だ。僕は黙って、カミラがしゃべるのを待つ。しばらくすると、彼女は話し出した。
「それに関しては、メイドたちが知っています。はずかしいことですが、メイドたちはこの手の醜聞が好きですから。ヴァレンティナ様はドミニク殿下に、自慢をするために城へ来られたのです」
 僕は首をかしげた。何を自慢するのだろう? カミラは話し続ける。
「城の大広間で開催された新年のパーティーで、ドミニク殿下はヴァレンティナ様に、はじをかかせました。ヴァレンティナ様という婚約者がいるにもかかわらず、別の女性をエスコートしたのです」
 知っている話だったので、僕はうなずく。新年のパーティーは、格式の高いものだ。王族ほぼ全員が出席する。王族以外の参加者はたいてい、侯爵か伯爵。つまり身分の高い人ばかりが集まる。
 そんな改まった場所で、ドミニクは婚約者以外の女性をエスコートした。当然、許される行為ではない。ヴァレンティナは青ざめた顔で、ドミニクを責めた。するとドミニクは、大きな声で彼女をののしったのだ。
「君は俺を愛していない。俺が王子だから、婚約者をやっているだけだ」
「俺は、真実の愛に目覚めた。君と別れて、この女性と結婚する」
「人を愛することのできない君は、一生誰とも結婚できないだろう」
 ドミニクの暴言に、ヴァレンティナの心は傷つけられた。彼女は、責任のある南の侯爵家のひとり娘だ。だが、まだ十六才の子どもでもある。ヴァレンティナは体を震わせて涙を流し、彼女の両親は激怒した。
 僕のお父さんとお母さんは、きつくドミニクをしかりつけた。ヴァレンティナに謝罪し、パーティーから出ていくように命令した。しかしドミニクは、自分は悪くない、悪いのはヴァレンティナと主張した。ドミニクのせいで、パーティー会場は大騒ぎだった。
 そうそう。話し遅れたけれど、僕はそのパーティーに出ていない。王子とはいえ、まだ十才の子どもだから。来年か再来年には、出席させてもらえると思うけど。パーティーに行ける子どもは、王族か侯爵家の子どもぐらいさ。
 とにかく僕はパーティーの後で、お父さんとお母さんから話を聞いて驚いた。ヴァレンティナに同情し、自分勝手なドミニクに怒りを覚えた。
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