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君と一緒に歩きたい


私は慌てて,携帯で苑田君に連絡した.
「どうしよう,苑田君!?」
うろたえる私に,苑田君は静かな声で言った.
「待ってて,すぐに行くから.」

そして苑田君は,すぐにやってきた.
……赤ん坊を連れて.
「苑田君……?」
苑田君は,にっこりと笑んで,店内の美津子さんの元へ向かう.
私は戸惑いながら,ついていった.
その赤ちゃんは,いったい何なの?

苑田君に気づいて,美津子さんの顔がこわばる.
「ひさしぶりだね,美津子.」
苑田君の声は,穏やかなままだ.
「この赤ん坊は,君が殺した僕と君の子供だよ.」
まじでーーーーー!?
「な,何を言っているのよ,頭おかしいんじゃないの!?」
美津子さんは,彼氏らしい男性の腕を掴んだ.
「妊娠なんかしていないって言ったじゃない.」
「君がどうしても中絶するというから,僕も僕の家族も泣いて,君に詫びたよ.」
苑田君たちは,店内の,いやデパート内の注目を集めている.
ありえないほどの悪目立ちだ.

「君の家にも,頭を下げに行きたかったのだけど,……できなかったね.」
苑田君は,にこにこと笑っている.
「き,気持ちの悪いことを言わないで! 行こう!」
美津子さんは,彼氏の腕を引っ張った.
けれど彼氏は,彼女の手を引き剥がす.
「俺はお前が妊娠しても,責任を取らないからな!」
ひどい,と思った,けれど同時に自業自得だとも私は思った.
「何よ……,」
美津子さんの顔が崩れる.
「こういう風に人を責めるのは,僕の趣味じゃないけれど,」
苑田君は,たんたんとしゃべり続ける.
「今回だけは特別だ,それくらいに僕も僕の家族も傷ついた.」
そのとき,「そのちゃん!」と叫んで,竹村が走ってやって来た.
「帰るよ,たけぽん,園部さん.」
「え?」
機先を制されて,竹村の足が止まる.
「こんな女,殴る価値も無い.」
苑田君の初めて出した低い声に,心底ぞっとした…….

「苑田君,その赤ちゃんは……?」
デパートに出ると,私は苑田君に訊ねた.
まさか誘拐したのでは,……苑田君なら,やりかねないような気がする.
けれど苑田君は,あっさりと答えを教えてくれた.
「僕の姪だよ.」
赤ちゃんは,よだれをたらしながら笑っている.
「君のおかげで,僕たち家族を苦しめた悪い奴に仕返しできたよ.」
赤ちゃんのほっぺにちゅっとキスをして,苑田君は初めて爽やかな笑みを見せた.





あれから……,
ひどい
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