君と一緒に歩きたい
「君の家にも,頭を下げに行きたかったのだけど,……できなかったね.」
苑田君は,にこにこと笑っている.
「き,気持ちの悪いことを言わないで! 行こう!」
美津子さんは,彼氏の腕を引っ張った.
けれど彼氏は,彼女の手を引き剥がす.
「俺はお前が妊娠しても,責任を取らないからな!」
ひどい,そんな言い方をしなくても…….
「何よ……,」
美津子さんの顔が崩れる.
そうよ,ひどい,ひどすぎる……!
私は,つかつかと三人の間に入った.
そして美津子さんの彼氏の頬を,ぱぁーんと平手で打つ.
「は,はぁ? なんで?」
驚いて,怒ることもできないでいる,馬鹿な彼氏.
「あんたって最低ね!」
正義の怒りが,私を動かしていた.
「確かに美津子さんは,悪いことをした悪い女性だけど.……仮にも付き合っている彼女に向かって,そんなことを言うなんて!」
ついで,二発目もお見舞いする.
苑田君が,ぽかんと口を開けて,呆然としていた.
美津子さんも,呆気に取られている.
そのとき,「そのちゃん!」と叫んで,竹村が走ってやって来た.
「竹村,思いっきり殴っていいわよ!」
私は,美津子さんの彼氏を指差して叫んだ.
「へ?」
竹村は,目をぱちぱちさせる.
「世の女性のために,天誅を,」
すると,ぽんぽんと肩を叩かれた.
「何よ.」
振り返ると,渋い顔をした警備員のおじさんが立っている.
「修羅場なら,よそでやってくれないか?」
「修羅場じゃありません!」
私は,おじさんをにらみつける.
「これは,正義の戦いです!」
――END(正義)
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