君と一緒に歩きたい
「事情を説明してよ!」
竹村は,なぜかバーガーショップに居座り続けた.
何も答えない竹村に,私はむなしい質問攻めをしている.
「メールを,送り間違えたの?」
竹村はむすっとした顔で,私から顔を思い切り背けた.
――図星か.
意外に,そそっかしい人みたい.
しばらくすると,
「たけぽん!」
眼鏡の男の子が,走りながら店内に入ってきた.
「そのちゃん!」
竹村は大きく手を振って,男の子を呼び寄せる.
店内の人々の好奇の視線が,再び突き刺さった.
「そのちゃん,遅いよ!」
「たけぽん,美津子(みつこ)のことは,もういいよ!」
たけぽん,そのちゃん,……辞めて,そんな恥ずかしいあだ名で呼び合うのは.
私の祈りが通じたのか,そのちゃんが私の存在に気づいてくれた.
「……誰?」
「たけぽんの彼女です.」
しれっと答えると,竹村がにらみつけてくる.
そして私はやっと,そのちゃん,こと苑田幸平(そのだこうへい)君から事情を聞くことができた.
さっき逃げた女の子は,野々村美津子(ののむら)さん.
苑田君のモトカノらしい.
「ある日,いきなり妊娠したって言われたんだ.」
苑田君はポテトをつまみながら,とんでもない台詞を吐いた.
「それで僕は産んでほしいと言った,彼女は産みたくないと言った.」
こんなファーストフード店で,こんな重い話をしていいのだろうか……?
しかし苑田君は美津子さんを説得できずに,彼女は中絶をすることになった.
苑田君は中絶費用の二十万円を,泣きながら彼女に渡したのだけど……,
「全部,嘘だったんだ!」
竹村が,吐き捨てるように言った.
「あの女は遊ぶ金ほしさに,そのちゃんを騙したんだ!」
竹村の目には,怒りの炎が踊っている.
妊娠も中絶も,全部嘘.
苑田君とその家族は,――中絶費用を工面したのは苑田君の両親らしい,彼女の演技にすっかり騙されたのだ.
私は,苑田君にかける言葉が見つからなかった.
苑田君は美津子さんを大切に想っていたのに,彼女にとっては違っていたのだ.
けれど苑田君は穏やかに,私に微笑みかける.
――あぁ,そっか.だから竹村は……,
――苑田君は,強い人だな.