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イギリスについての映画


このページでは、イギリスの歴史に取材した代表的な映画をいくつかご紹介します。現代に限らず古い時代も対象にしています。もちろん映画はフィクションです。歴史を描いていても、必ずしも事実を忠実に描いているわけではありません。ここで紹介している映画にも、史実からずいぶん離れたものがあります。でもあくまでもフィクションであることを念頭におけば、イギリスのことを学ぶ上で、映画は私たちの想像力を刺激し、その時代の雰囲気を理解するうえで大事な役割を果たします。ここでは、いわゆるコスチューム・ドラマを中心にご紹介します。さしあたり数編だけですが、暇を見つけて順次充実してゆくつもりです。

●映画ではありませんが、以下のドキュメンタリーは、いずれもイギリスの歴史を学ぶ上でたいへん有用です。アマゾンUKから注文できます。普通のDVDプレーヤーでは地域のコードがひっかかって再生できませんが、PCならみれますので、是非どうぞ。

Andrew Marr, The Making of Modern Britain BBC(20世紀初頭から第二次大戦まで)
Andrew Marr History of Modern Britain BBC(第二次大戦後2000年まで)
Simon Shama A History of Britain BBC (通史)
The David Stanky Collection Channel 4(歴代国王のプロフィールを描いたシリー

● マーガレットサッチャー鉄の女の涙
同時代の人物伝記を映画にするのは難しい。短い映画で、人物の多面的な性格や複雑な軌跡を要約し、しかも前提知識のない観客にクリアーカットな印象を与えることは、脚本家にとっても監督にとっても困難な挑戦だからだ。特に政治家については毀誉褒貶が激しいだけに、リスクは大きい。サッチャーのような論争を呼ぶ対象は、中でも最も映画にしにくい素材ではないだろうか。
この映画は、そういう難しい対照を、引退後のサッチャーの混濁した意識の中の、夫との幻覚との対話という形をとることで、巧みにヒューマンドラマに仕立てている。サッチャーの一方的な視点で描かれる数々の政治ドラマー保守党の中のウエットとの対決、フォークランド紛争や炭鉱労組との激闘、そしてIRAのテロ、裏切りによる失脚ーは、もうろうとした意識と薄れつつある記憶の中で、明確な脈絡を欠きながら、一人称の視点で美化され、あるいは恐れられる。
同じように憎まれた政治家ニクソンをアントニー・ホプキンスが演じた映画は、重苦しくやるせない印象を残した。これに対してこの作品は、アルツハイマーに侵され、悔悟と自己正当化の間で揺れ動く老いさらばえた鉄の女の視点から、戦いの日々を解雇する形で描くことによって、サッチャーを蛇のように嫌うような観客からも、ある種の憐憫の情を引き出すかもしれない。
もちろんそうした効果を引き出すことができたのは、ひとえにストリープの見事な演技のたまものである。ストリープはイギリス英語の発音はもとより、頑迷を通り越してパラノイアとも思えるサッチャーの性格を鬼気迫る形で再現している。
楽しい映画ではない。サッチャー現象を人に還元してしまう危険もある。とはいえ、ブラス!のような炭鉱府の視点からみた映画をあわせてみれば、妥協をこととしてきた紳士の国が左右に引き裂かれた1980年代のイギリスを理解する上で、重要な映画であろう。

    


● 英国王のスピーチ

エドワード8世が、シンプソン夫人と結婚するために退位したため、思いもかけず国王になったジョージ6世(エリザベス女王の父)が、どもりを克服してナチスと戦う歴史的なスピーチを成功させるヒューマンドラマ。アカデミー賞を総なめしただけに、コリンファレルの素晴らしい演技が光る。だが、国王を人間的な観点で描いた見事な脚本がそれ以上に称賛されるべきだろう。吃音治療の詳細は、創作であり、チャーチルの退位についての姿勢などは、史実そのもではない。とはいえ国王の吃音治療を行ったローグは実在のオーストラリアの人物であり、女王自身がこれを見て、感動したというのだから、細かい演出はともかく、国王が重圧に挑戦したドラマの本質は、歴史的な真実を含んでいというべきだろう。オーストラリア人のイギリス王室への少しくだけた、しかしなお敬意を示す態度をうまく描いている。

● ブーリン家の姉妹
イギリス宗教改革のきっかけとなったヘンリー8世のアンブーリンとの結婚を、妹のメアリーブーリンを背景に描いた映画。メアリーは実在の人物でヘンリー8世の愛人だったのは事実のようだが、、妹か姉かははっきりせず、メアリーの子供がヘンリーの息子だったかどうかもはっきりしないようだ。しかし一説にはメアリーの方がさらに美しかったともいわれており、この二人の姉妹の物語が原作者グレゴリーの想像力をかきたてたのであろう。その歴史的な正確性はさておき、チューダー朝の陰湿で暗く残酷な宮廷を見事に映像化しており、アンブーリンの処刑は、圧巻である。ナタリーポートマンとスカーレット・ヨハンセンはいずれも見事な存在感を示している。

● ヴィクトリア世紀の恋

ヴィクトリア女王がアルバート公と結ばれてゆくまでのドラマを描いた映画。アルバート公が撃たれたのは事実ではなく、またメルボルン公はもっと年老いていたはずであるのだが、だいたいは歴史的史実に比較的忠実に描かれているようだ。ヴィクトリアが母親の支配から独立するというのも史実として有名だ。だが、映画としては、やや盛り上がりに欠ける。ヴィクトリアの女性としての成長をもう少し掘り下げることができれば、さらに印象的になっただろう。




●『クイーン』
ダイアナ妃の事故死をきっかけにしたイギリス王室の危機を描いた再現ドラマ風の作品。 ブレア首相レアも、クイーンも、実在感たっぷりで見事な演技をみせている。なによりクイーンの夫であるエジンバラ公が、いかにもそれらしくて、笑ってし まった。バルモラル城の広大な敷地での鹿撃ちや、クイーンのジープ運転、クイーンマザーの頑迷ぶりなど、ロイヤルファミリーの生活を覗き見する興味もたっ ぷり。だが、首相や女王が、ファミリードラマのコメデイタッチで軽く描かれ過ぎている気がしないでもない。ダイアナ妃をめぐる確執やイギリス王室をめぐる 陰惨な歴史などを、もう少し書き込んで、王冠の重さを、深い陰影をもって描いてくれたらとも思う。

●『エリザベス ゴールデンエイジ』
前篇は、一人の女性が過酷な政治に翻弄されながら、女王として生きることを決意するをまでを描いていた。今後は、同じケイト・ブランシェットが、国家存亡 の危機に立たされた女王の苦しみと葛藤を体当たりで演じている。もちろんかつての名画『無敵艦隊』と同じく、スペインの無敵艦隊アルマダが怒涛のごとく攻 め寄せてくる国難が題材。だがこの映画では、女であることを捨て、メアリースコッツを処刑し、女王としてイングランドの国民と自由を守るために生きること を選ぶ姿に焦点があてられている。マシンガムを演じるジェフリーラッシュも、ウオーター・ローリーを演じるクライブオーエンも、なかなかいい味を出してい るが、なによりも、前編にまけずおとらない大がかりなチューダー朝の宮廷を再現した舞台装置や衣装が圧巻。前作の方が心理描写に深みがあり、今回はどうし ても海戦スペクタクルものに傾斜しているが、とはいえ、チューダー朝のイギリスを感じるには、悪くない娯楽作品だろう。

●『ミスポター』
ユアンマクレガーとゼルビガーの競演。物語自体は、少し盛り上がりに欠けやや淡い印象が否 めない。だが、惜しげもなく画面に繰り広げられる湖水地方の美しい風景には圧倒される。かつてアメリカの南部なまりでジュードロウとからんだゼルビガーさ んが見事にイギリスなまりの英語をあやつり、芸の広さを見せるのも見ものである。ピーターラビットに登場する愛らしいキャラクターが飛び跳ねる場面もあ り、愛好者にはたまらないだろう。ユアンマクレガーのファンには、型にはまったイギリス紳士になっているのが少し物足らないかもしれないが。

●『麦の穂を揺らす風』
アイルランド独立戦争とその後の内戦を、兄弟愛とからめて描く。リーアム・ニーソンの 『マイケル・コリンズ』もなかなかリアルな映画だったが、これはまた大英帝国に抑圧され、深刻な内戦に引き裂かれたアイルランドのやるせない歴史を知るに はいい映画だろう。最後にでてくる火をつけられてぼろぼろになった農家が象徴的。

● 『英国万歳』

大ヒットした舞台劇"The Madness of George III"の映画化。イギリスの名優Nigel Hawthorneが国王ジョージ3世を演じる。18世紀末の国王ジョージ3世は、アメリカを失った国王として有名だが、王位を狙う皇太子などが暗躍する中、次第に気が狂ってゆく。狂気と正気を揺れ動く国王が哀れ。


●『ブレイブハート』 メル・ギブソン主演。1995年アカデミー賞作品賞、監督賞を受賞。スコットランドを支配しようとするイングランドのエドワード1世と闘うスコットランドの伝説の英雄ウイリアム・ウオーレスを描いた映画。エドワード1世はウエールズ、スコットランドを残酷なやり方で支配下においていたが、イングランド兵に残忍に妻を殺害されたウオーラスは、その復讐に立ち上がる。やがて反乱は燎原の火のように広がり、ウオーラスはいつしかスコットランド反乱のリーダーとなる。しかしイングランド軍にしばしば痛撃を与えるものの、ウオーラスはスコットランド貴族の裏切りによって捉えられ、ロンドンで八つ裂きにされ、「自由を!」と叫んで息絶える。イングランド軍との壮絶な戦いが見もの。イングランド王の美しいフランス人の皇太子后イサベルを、ソフィー・マルソーが演じている。

● 『我が命つきるとも』 原題はA Man for All Seasons。 1966年。アカデミー賞作品賞、監督賞(フレッド・ジンネマン)、主演男優賞(ポール・スコフィールド)など6部門受賞。ヘンリー8世の宗教改革に反対して処刑されたトマス・モアを描く。華麗で獰猛な啓蒙専制君主ヘンリー8世は、男子を産まない女王キャサリンに愛想をつかし、宮廷の女官アン・ブーリンと結婚しようとし、離婚を認めないローマ法王と断絶。大法官トマス・モアはこれに賛成できずに辞任するが、王はモアを処刑するために反逆の証拠をえようと、密偵を放ち策略をめぐらす。モアはついに逮捕されるが、堂々と国王の非道を訴え処刑台へ向かう。権力に立ち向かう自由の擁護者としてモアが描かれている。実はトマスモアに託して、ハリウッドに吹き荒れたマッカーシズムに抗して言論の自由を擁護しようとした映画人のメッセージが込められているとも言われる。

●『エリザベス』 アカデミー賞受賞。ケイト・ブランシェット主演。エリザベス1世を描いた映画はいくつかあるが、この映画は、1人の女性が過酷な運命と男性との邂逅を経て、「プロ」の女王として自立して行くプロセスを描いている点で独特な映画といえるであろう。 もっとも映画は史実とはかなり違うと指摘されている。エリザベスがフランスやスペインの王族から求婚を受ける一方、どす黒い暗殺の陰謀にさらされたことは有名だし、女王にノーフォーク公が反乱したことも史実にそっている。だが映画では妻がいることを隠していたとされる愛人ダドリーの結婚式に実は女王は出席していたとされているし、引退したることになっているセシルは、ずっと女王を補佐し続けていた。また映画のようにウオルシンガムがスコットランドのメアリを暗殺したという証拠はないらしい。とはいえ、豪華なセットと衣装で、エリザベス王朝の雰囲気をたっぷりと味わうことができる。

●『バリー・リンドン』 スタンレー・キューブリック監督の手になる歴史映画。アカデミー撮影賞、美術賞などを受賞。18世紀、戦乱の続くヨーロッパで、イギリス社会でのしあがってゆく青年バリーの生涯を描いたサッカレーの小説を映画化。恋敵を決闘で殺したアイルランドの青年バリーは、故郷を捨てダブリンに向かうが、途中で盗賊にすべてをとられ、イギリス軍に志願する。7年戦争のさなか部隊はヨーロッパを転戦するうち、バリーは脱走するが、プロシャ軍に見つかり、脱走の罪を免れるため今度はプロシャ軍に加わって闘い続ける。やがてアイルランド人のプロの賭け事師に仕えることになったバリーは、リンドンというイングランドの伯爵夫人を誘惑するのに成功し、結婚にこぎつける。しかし結局、義理の息子と決闘になって、イングランドを追放される。この映画は、すべてが実際の建物を使い、自然光やろうそくの光で撮影され、コスチュームなども徹底的に時代考証がおこなわれたため、あたかも18世紀の絵画のような画面を作り出したことで有名。18世紀イギリスの軍隊の戦いぶりや、貴族の邸宅での生活など、真に迫る映像がすごい。

●『マイフェアレデイ』いわずとしれたオードリーヘップバーンの代表作の一つ。バーナード・ショウのピグマリオンを原作としたブロードウエイのミュージカルを映画化した作品。コベントガーデンの花売り娘イライザのアクセントを直し、上流社会をだまそうとするヒギンズ教授。もくろみは成功するが・・・実はマイフェアレデイというタイトルそのものが、ロンドンの高級住宅街メイフェアのレイデイMayfair Ladyを下町のアクセントでなまっていうとマイフェアレイデイとなるという言葉遊びになっている。ショーは、アイルランド生まれでイギリスの階級社会に鋭い批判意識をもっていたから、物語の全体が、イギリスの階級社会の風刺になっているので、イギリス社会を知る上で、まことにいい教材である。原作を甘いラブストーリーに変えてしまったところにアメリカ娯楽映画の真骨頂がある。

●『マイケル・コリンズ』 アイルランドの血塗られた歴史は、イギリスを理解するうえで欠かすことができない。アイルラン自由国設立後の内乱の中で悲劇的な最後を遂げたアイルランドの革命的英雄マイケルコリンズを描いたこの映画は、その意味で大変貴重である。IRAの軍事指導者として、イギリス軍に対するゲリラ戦争を指揮しながら、イギリスとの和平交渉に応じ、イギリス軍の撤退とアイルランド自由国の設立を勝ち取りつつも、妥協を許さないデバレラ派との内戦で命を落としたコリンズ。コリンズが交渉団の団長であったように描かれたり(実際には副団長だった)、ダブリンの二重スパイだったブロイが史実と違ってイギリスによって殺害されたことになっていたり、自動車の車爆弾など当時なかったものが使われたり、史実に忠実でない部分がいろいろあると指摘されている。だがアイルランド当地で大ヒットしたように、英雄コリンズとアイルランド独立闘争を見事に銀幕に描いた映画である。主役コリンズにリーアムニーソン。恋人キ^−ナン役にはジュリア・ロバーツ。

● 『炎のランナー』 1981年のアカデミー作品賞、脚本賞を受賞した名作。1924年パリのオリンピックに出場するユダヤ人とスコットランドの聖職者の青年を主人公に描かれたスポーツドラマ。ヴァンゲリス作曲の音楽にのせて、スコットランド人のエリックが、恍惚と走る姿があまりに有名だが、実話に基づいているだけに、20世紀初頭のイギリスの一面を知るのに好適な映画。安息日は、神様に祈りをささげる神聖な日。プロテスタント諸派の中でも敬虔なスコットランドの教会にとって、安息日の遵守は、なによりも重大な戒律の一つだった。だから、皇太子にたのまれても、敬虔なエリックは、神を冒涜するものとして安息日には断固としてオリンピックでも走らない。国王ではなく、神のために走る喜びを表現したのがあの音楽であった。そのかわりに走るのが、アングロサクソンに差別されてきたユダヤ人というのは、なんとも皮肉な展開である。スコットランドのハイランド・ゲームの様子や、イートン校で撮影されたというケンブリッジのカレッジ・ダッシュの光景、リンジー卿のスノッブぶり、ギルバート・サリヴァンのオペラ『ミカド』など、当時のイギリスの文化をものがたるものがぎっしりつめこまれている。第一次大戦のあとでも、こういう硬骨漢がいたということは記憶に値する

●『ブラス!』
サッチャー政権下で解雇、閉山にゆれるヨークシャーの炭鉱町が舞台。イギリスではアマチュア・ブラスバンドが盛んだが、この町のブラスバンドは、実力全国一。しかしサッチャーの厳しい経済政策で、炭鉱は解雇をめぐって激しい紛争の真っ最中。メンバーも生活苦にあえぎ、1人また1人とバンドをはなれてゆく。金も仕事もなくなっていくなかで、優雅なブラスバンドをつづけることなんてできるのか。果たしてブラスバンドは全国大会にでれるのか。・苦しい中でささえあってゆくイギリスの労働者の結束を、本物のアマチュア・ブラスバンドの美しい音にのせて描く。実話に取材した物語。ハリウッドで大活躍する前のユアン・マグレガーがうぶな青年を好演しているのも見所。 

●『フルモンテイ』
1998年のアカデミー音楽賞もとった素晴らしいほろ苦いコメデイ。フルモンテイとはまっぱだかのこと。構造的な失業に苦しむイ ギリス北部の工業都市シェフィールドが舞台。食うに困った失業者が男性ストリップで稼ぐことを思いつく。だが、なかなか人にみせるような体でもなし踊りひ とつまともにできず。。。名優ロバートカーライル主演。サランラップを体に巻いて必死に痩せようとする姿に、涙が出るほど笑ってしまったが、笑うなかで失 業の苦しさ、つらさがじわじわと身にしみてくる。

●『リトルダンサー』
原題はBilly Elliot。ダラムの小さな炭鉱町を舞台に、炭鉱ストのさなか、ひそかにバレエに目覚めてそれを学ぶ少年の物語。ストの中で日々の糧にも 困り、ついにピアノをつぶして薪にせざるをえなくなるいかつい炭鉱夫の父親は、バレエをしたいという少年を最初は殴り飛ばす。しかしその才能を認め、つい にスト破りまでして息子のロイヤルバレエの受験の費用を工面しようとする。はたして少年の夢は叶うのか・・・フルモンテイなどと同じく、貧困にあえぐ労働 者の家庭がテーマなのだが、労働者でも才能をもっていれば未来が開けるという点で、絶望的な閉塞感を描いたイギリス映画(たとえば『リフラフ』とか『トレ インスポッテイング』)に比べてはるかに親しみやすい。教育による労働者の未来を強調した点で、政権の目標は『教育、教育、教育』と叫んだブレアさんの ニューレイバーの映画とみてもいいかもしれない。でもそんなことを抜きにして文句なく面白く心温まる映画。

● 『ウエールズの山』
ヒューグラントのコメデイーの中から、『ウエールズの山』をとりあげよう。イギリスという国は、実は一つの国ではなく、イングランド、ウエール ズ、スコットランド、アイルランドという四つの国の連合体ー連合王国United Kingdomである。この連合王国の形成のプロセスは、しばしば血塗られたものだった。でも早くから統一国家をもっていた日本人にはどうも、この四つの 国の葛藤はなかなかぴんとこないところがある。特にウエールズは、イングランドの西側に位置する国で、もともとウエールズ語という別の言語や独自の文化を もっているのだが、中世からイングランドに合体させられたため、合邦してから300年のスコットランドや200年のアイルランドに比べると、やや影が薄い 印象がある。そういうウエールズのナショナリズムを自嘲気味にユーモアにくるんで描いた映画が、この『ウエールズの山』である。
 ウエールズとイ ングランドの違いは、まずなんといってもイングランドがのんびりとした平地であるのに対して、ウエールズが地形的に山だということにある。だからこそ、侵 入するアングロサクソンにおわれてケルトの人々がウエールズに逃げ込んだとされているのだが、ともあれ、「山が始まるところにウエールズが始まる」という のがウエールズ人の誇りなのである。ところが、第一次大戦のころ、イングランドとウエールズの境に位置する村に測量にやってきたイングランドの測量師たち は、その村の山は数メートル高さが足りなくて最近の政府の規則では山ではなく、「丘」にすぎなくなる、という。村民たちは驚きあわてて、イングランド人に 「山」を奪われてはならないと、なんとかウエールズの誇りである「山」を守ろうと立ち上がる。つまりは、みんなで石を運んで積み上げて「丘」を「山」にし ようというわけだ・・・ウエールズの村にやってきた測量士をヒューグラントが演じ、村の娘とのラブストーリーが絡まっているのだが、実はこれ、そもそもは 実話がもとになっているというから驚きである。エンドロールで山に石を積んでいるのは、現在の村人なのだそうだ。あまり知られていないが、ウエールズ人が イングランドに対して持っている、秘められたナショナリズムを知るのに、ぜひみていただきたい映画である。

●『エニグマ』
第二次世界大戦の重要な戦場の一つが暗号であった。アメリカが日本軍の暗号を解読していたことはよく知られている。イギリスもドイツの暗号を解読してい た。エニグマとよばれる暗号機の複雑なコードを、ポーランド人の科学者が解き、ブレッチャリーというマナーハウスに集められたイギリス人数学者が、それを もとに、暗号を解読していった。その解読のために開発された装置が今日の電気的なコンピューターの原型であった。ブレッチャリーでの暗号解読には、 9000人もの人々が従事していたとされているが、その活動は戦後も30年間秘密にされてきた。(日本の暗号解読にもかかわっていたと言われている)
  この映画は、エニグマの暗号解読の実話をもとに創作されたストーリーである。映画のストーリーは、ドイツのUボートの攻撃をとめるための暗号解読と、暗号 解読の中心人物の失踪した恋人探し、そしてそれを助ける女性とのロマンスが絡んで進行してゆく。船団を犠牲にして、潜水艦から発信された信号をつかって暗 号は解読される。一方、エニグマを使って暗号を解読した結果、イギリス自身がひた隠しに隠ぺいしていたポーランド・カチンにおけるスターリンの大虐殺の情 報をきっかけにして、ポーランド人科学者がドイツ側に寝返っていたとこがわかる・・・サスペンスもあり、当時のクラシックカーによるカーチェイスもあり、 見どころの多い映画である。エニグマ暗号機や初期のコンピューターの威容も興味深い。せっかくのケイトウインスレットが冴えない従業員を演じているのはい ささかもったいないが。実際には、モデルとなったケンブリッジの数学者チューリング(のちにホモの嫌疑をうけて自殺)は、確かにコンピューターをつくって エニグマを解読したものの、ブレッチャリーにはドイツのスパイはいなかったようだ。ポーランド人の裏切り者を創作したことで映画は非難をうけた。第二次大 戦時のイギリスの意外に牧歌的な風景ととその陰の戦いを知るのに良い映画。

●『キンキーブーツ』
イギリスのコメデイでは1,2を争う秀作。キンキーというのは、「変態」という意味だが、要するに女装用のブーツのこと。ノーサンプトンの伝統的な紳士靴 工場のあとをついだ主人公は、破産に直面。なんとか生き残るために、女装用のブーツというニッチな市場に目をつけるが、古い堅気の従業員からは反発を食ら う。どうにかこうにかミランでの靴の展示会にはこぎつけるが、肝心のモデルがこない・・・・ノーサンプトンを古ボケた町と描いたことで、地元からは批判を うけたそうだが、コメデイとしては見事な出来あがり。最後のキャットウオークでのショーのもりあがりは必見。

『クイーンヴィクトリア至上の恋』
ヴィクトリア女王は、19世紀中ごろ、世界のスーパーパワーであった大英帝国の頂 点にたつ君主として君臨した。しかし夫アルバート公がなくなった後、女王は深い喪に服し、公の場に姿を見せなくなる。引きこもる女王をいやそうと、夫が最 も信頼していたスコットランド人の召使ブラウンが呼び寄せられ、女王は忠実なブラウンに次第に心を開くようになる。だが、二人の親密な関係はやがて王室、 議会をまきこんだスキャンダルに発展してしまう。映画の原題「ブラウン夫人」は、二人の親密な関係を揶揄した女王のあだ名である。しかしデイズレイリ首相 に懇請されて、公の場に姿をみせるよう女王に説いたブラウンと女王は衝突、ブラウンは女王の警護の役にとどまるものの、二人の関係は冷たいものになってし まう。
 女王をジョデイ・デインチが圧倒的な貫禄で演じる。本物の女王も位負けしそうな存在感。女性としての感状をすこしづつ取り戻してゆく女王の心のひだを見事に表現している。またスコットランドの居城バルモラル城のまわりの風景が印象的だ。





その他、イギリスについての映画や、最近のDVDについての感想に興味があれば、ムービーウオーカで、シネマフリークの名前で掲載しているレビューをご覧ください。