足の指の間が痒くなる心意気

2002年10月10日(木) 「山の贈り物」

 くどいようだが、ワタクシの職場は山の中。そしてこの時期になるとスタッフの目の色が一様に違うのだ。山がプレゼントをくれるのである。

 秋の山の贈り物。そう、マツタケさんである。ウチのスタッフである程度のベテランになってくると、自分のテリトリー(以下「畑」という)を山の中に確保するようになる。もちろんその場所は誰にも教えない。いくら仲の良い友人だとて、いくら上司の命令だとて、そればっかりは教えない。教えないからこそ起こってしまう悲劇、というモノもあるのだが。

 「畑」を得るには、禅譲、買収、追跡など様々な手段があるのだが、やはりその王道であり、かつ大半を占めるモノはたゆまぬ努力である。仕事の合間や出勤時間を2時間も3時間も自主的に早め、山へと分け入り、そうした苦労の末に見つけた畑に、持ち主は格段の愛情を注ぐのも当然と言えよう。

 マツタケが採れる山、というのは実は痩せた山なのである。

 ガスや石油燃料などを手に入れる前は、日本人は薪や炭を主な燃料として使っていた。また田畑の肥料にする堆肥の原料の一つは落ち葉や枯れ草だった。そういうモノは全て山にある。人々は生活や農作業に必要なモノを得るために山に入っていく。薪を拾い、下草を刈り、落ち葉をかき集める。すると山の地表は当然痩せていく。そういう山に、マツタケは生えるのである。
 つまり化石燃料中心の生活を手に入れてしまったことで、薪や炭などを生み出す山は荒れ放題。かくて、マツタケは異常とも言える高級品と化してしまったのである。北朝鮮で山ほどマツタケが採れるわけが、コレで判りやすくなったのではないか?

 さて、苦労して手に入れた畑を、一生懸命手入れするMさん。毎年秋が近くなるとせっせと畑に通い、落ち葉を掻き集め、下草を刈って、と手入れに余念がない。今までもう十数年以上、自分や家族、友人達に季節の恵みをもたらしてくれた大事な大事な畑。決して人にその存在を知られることなく守り通してきた畑。Mさんの畑にかける愛情の深さは計り知れない深さと広さを持っていることは、一目瞭然であった。

 ある年の夏、新しいハイキング道を開削することになった。業者を入れ入念な計画の元、バラスを敷き詰めた立派なハイキング道の工事は無事完了した。そんなある日のこと。

 Mさんが顔面蒼白になってオフィスに駆け込んで来た。

「だ、だ、だれや! 俺の畑に道通したヤツは!」

 毎年秋の前に畑を見に行くMさんが、「『畑』だった場所」で見たモノは、一面バラスを敷き詰められた、それはそれは歩きやすいハイキング道に変貌を遂げていたのである。Mさんは部署が違ったため、新ハイキング道の計画の詳細を全く知らなかったのであった。もちろんそこがMさんの畑だとは、Mさんのトップシークレットであっただけに、誰一人知る由もなかったのである。怒りにうちふるえるMさん。しかしもう、どうしようもない。幸いにも畑の一部は、道路計画から免れることが出来たそうであるが…

 ココまで育ててきた畑をほとんど失い、そしてわずかに残った畑も白日の下にさらされる結果となってしまったMさん。その怒りと哀しみの表情は、今でもこの季節になると、マツタケの香りとともにワタクシの胸によみがえってくるのである。

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片言隻句

マツタケの 雫払って 栗いじる
今夜は宴 食べ放題♪
朔月さま


秋の味覚に アワビはないか?  3太郎
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