<一年B組、山田明夫のその日>

 僕は、学校に向かって歩いていた。
「山田君!」
 後から僕を呼ぶ声がした。振り返ると、矢沢先生が歩いてきた。黒い髪に、黄色のスーツ、タイトスカートから伸びる足。胸の辺りは、ふっくらと膨らんで大人の魅力っていうやつを強調していた。
「おはよう!」
 先生が僕に向かって言った。
「あ・・・おはようございます!」
 僕は、あくびをこらえながら挨拶をした。
「フフフ・・・」
 先生は、そんな僕の態度がおかしかったのかこっちがちょっと恥ずかしくなるような笑いを残して歩いて行った。僕は、そのまま大きなあくびをした。


 学校に着くと、僕は教室に向かって廊下を歩いた。
「おはよう!」
 先生達とすれ違った・・・なんだか、違和感を感じる。
(あれ・・・あんな女の先生いたかなあ・・・)
 しばらく考えると、先生の名前が頭に浮かんできた。
「おはよう!」
「あ・・・おはようございます。」
 また、女性の先生とすれ違った。
(おかしいなあ・・・こんなに女の先生ばかりだったっけか・・・)
 僕は、まだ寝ぼけている頭で考えながら廊下を教室に向かった。そして少し考えて思い当たった・・・。
「そういえば、うちは元女子高だから、理事長から教師までみんな女だっけ!」
 僕は、思わず口走りながら教室に入った。しかし、やっぱり何かがおかしい・・・。
「おはよう!」
「おう!山田!おはよう!!」
 みんなが挨拶をしてくれた。席に着くと矢沢先生が教室に入ってきた。
「皆さん・・・おはようございます!」
 先生が、挨拶をした・・・いつもと変わらない風景だったが、僕は、なんだか違和感を感じていた。
 いつものように、数学の授業が進んでいった・・・先生が問題を黒板に書いていった。
 僕たちの担任の矢沢先生のしゃべり方は、はっきり言って眠い。僕にとってはさっきからほとんど聞こえていないに等しい。
 あまりの眠さに、僕は諦めて寝ることにした。これで起きていろというのはムリがある。机にもたれると、僕は目を閉じた。すぐに気が遠くなる。
「じゃあ・・・この問題を・・・山田君!」
 なんか遠くで名前を呼ばれた気がする。
(!?)背中を何かがつついている。ッと待て、そう言えば今授業中だったっけ!ということは・・・・
「・・・ハイ!!・・・」
 僕は慌てて立ち上がった。
 僕の座っていた椅子が、後ろの中谷の机にあたって大きな音をたてた。
 ハハハハハ、みんなが一斉に笑い出す。先生は、呆れたような顔で言った。
「山田君・・・また居眠りをしていたの?うーん・・・困ったわねえ・・・補習をするから、放課後に職員室に来てね」
 そういうと、先生は苦笑しながら授業に戻った。僕も席に着く。
 早速呼び出しらしい・・・でも、やっぱりこの授業は眠い。


 放課後、僕は職員室に行った。矢沢先生が、僕を待っていた。
「それじゃあ、始めましょうか?」
 僕は、矢沢先生と教室に行くと、数学の補習を始めた。先生と並んで座ると、いい匂いが鼻から伝わってくる。それに惹かれるように、僕の視線は先生のふっくらと膨らんだ胸元や綺麗に締まった脚に行ってしまう。
「こら・・・どこを見ているの?」
 先生は、笑いながら僕の鼻をつんとつついた。
「すいません・・・」
 窓の外は、すっかり暗くなっている。
「山田君も・・・女の子だったら、こんな風になるわよ」
 矢沢先生が、微笑みながら言った。
「じゃ、補習はこれで終わり・・・山田君、行くわよ」
「え、どこにですか?」
「付いて来ればわかるわ」
 先生が席を立った。僕も先生に付いて行く。先生は校舎を出ると、礼拝堂に向かって歩いて行った。
(礼拝堂?でも確か・・・)
 僕の足が止まった。先生が振り替える。
「どうしたの?」
「いえ・・・この先は礼拝堂ですよね?」
 僕は、おずおずと言った。
「そうよ。それがなにか?」
「礼拝堂は男子禁制じゃ・・・」
「いいのよ・・・山田君も礼拝堂でお祈りをして帰ってね」
「え、でも」
 矢沢先生が、僕の手をしっかりと握った。すべすべした感覚に、僕はどきり、とした。
「気にしないの。山田君も、これから素晴らしい人生が送れるわ!」
 矢沢先生が、にっこり笑いながら言った。
 僕は、先生に手を引かれて礼拝堂に連れて行かれた・・・


 僕は、礼拝堂の中に連れてこられた。大きな礼拝堂の中には、たくさんの生徒と、教職員が集まっていた。しかし、そこで起こっている光景を、僕は理解することが出来なかった。
「先生、これは・・・・」
 たくさんの女子生徒が、両端に寄るように整然と並んで祈りを捧げている。その間で、何人もの生徒達が、祈りでない声を上げながら横になって呻いていた。そして、一番奥には、聖母様の像が立っており、その腹部からは、たくさんの紐のようなものが、その呻いている生徒達の方へ延びていた。不思議なことに、その横になっている生徒達は、男子か女子かわからない。というより、その時僕は見てしまった。詰め襟の制服が、まるで映画のモーフィングのように紺色のブレザーに変わっていくのを。これは一体・・・
 呆然と立ち尽くす僕に向かって矢沢先生が言った。
「ひざまずいて、祈りなさい・・・」
 僕は、理解できないまま仕方なく床に膝をつくと両手を合わせた。
 突然、聖母像が光った。僕は目が眩んで床に手をついて体を支えた。僕の腹に何かが当った・・・聖母像の腹部から僕の臍のあたりにチューブのようなものが繋がっていた。それは、横になっている彼らと同じだった。
「なんだ!こりゃ!!」
 僕は、呆然と僕の腹と聖母像をつなぐチューブを見つめた。
「それは、聖母様の臍の緒よ・・・聖母様の愛が伝わってくるでしょう・・・あなたも、みんなと同じように生まれ変わるの」
 矢沢先生はそう言うと、自分もお祈りをはじめた。周りにいる女子達も、みんなで聖母像に祈っていた。僕は理解した。転がっている生徒達はみんな男子だ。彼らは今、元男子になろうとしている。そして僕の体も、おかしくなっていく。
 胸とお尻がむずむずして膨らんでいくと同時に、ズボンのウェストが緩くなっていく。二の腕に柔らかい感触が当たるので見ると、それは僕の胸だった。同時に胸からも、今まで経験したことのない心地よい感覚が上がってくる。
「ううぁぁ!」
 言葉にならない悲鳴が聞こえる。それは、僕の声だった。そして唸るようなその声のトーンも徐々に高くなっていった。礼拝堂の中に響く祈りの声は、大きくなってきている。
「ああ・・・・」
 お腹から何か暖かいものが体の隅々にまで広がって行く・・・それはとても心地よく、僕は、ずっとそのまま気持ちよい中にいたいと思った。
 長く伸びた髪が、視線の端に入ってくる。腕や脚が柔らかく細くなっていき、色は白くなっていく。でもそんなことはもうどうでも良かった。体だけでなく服装までが変わっていっても、気持ちがいいことのように感じる。ズボンはいつのまにか膝丈のブルーのチェックのプリーツスカートに、詰襟の学生服は、紺色のブレザーに、カッターシャツは、柔らかい肌触りの白いブラウスに変わってしまった。そして、その肌触りは、今までに経験したことのない快さを僕に感じさせていた。
 気が付くと、変化は終わっていた。僕は、どう見てもみんなと同じ、女子高校生の姿に変わってしまっていた。僕だけではなく、礼拝堂の中には、誰一人として男性はいなくなっていた。
「それじゃあ・・・気を付けて帰るのよ」
 矢沢先生が笑顔で僕に言った。僕は・・・・女の子だった。いや、どうして僕なんて言っているのだろう・・・わたしは、女の子だ。
 わたしは、お祈りを終えて他のみんなと一緒に礼拝堂を出た。


<一年B組:中谷 光彦>   <一年B組:高橋 佳一>

<一年B組担任・数学科:矢沢 詠子>

<翌 日>