かがくののおと 7
化学結合
化学結合
分子は, 複数の原子からなる.原子と原子を結びつけているのは,なんであろう.登場人物は,原子核と電子だけであり,注目するべきは,原子核の周りの,軌道と軌道のエネルギー準位である.
原子核と原子核を結び付けているのは,電子である.電子が1つの原子核に属するときよりも,2つの原子核に属するときの方が,エネルギー準位が低い軌道ができるのである.
化学反応では,反応により新しくできる原子と原子の組み合わせが,より低いエネルギー準位の軌道をつくるとき,(普通は)反応が進行し,発熱する.この発熱が,(だいたい)エネルギー準位の差である.
(かっこのなかの表現は,分子の集団の場合に扱う別の量があることを含めているが,とりあえず気にしなくてよい)
分子軌道
原子や分子の軌道は,電子存在の様子を示すものである. 分子における軌道も,原子軌道の場合と同様に,本来は, 波動方程式を解くことで求められる.残念ながら,分子の電子の挙動を,厳密に解くことはできない.
とはいえ,現在では,コンピュータの発達によって,現実に近い結果が得られるようになっており,様々な方法で,分子軌道が求められている.
ここでは,より簡単な方法をみてみる.原子軌道をもとに,分子の軌道を作るのである.これは,簡便法であるが,現実の分子をよく説明することができる.つまり,同じエネルギーの2つの原子軌道から,エネルギーの低い軌道と高い軌道の,2つの新しい軌道として再構成する. 原子には,多数の軌道が存在するが,ここでは,電子が1つ入っている軌道に注目する.
十分遠い距離にいる,2つの水素原子を考える. 軌道は独立している.接近すると,2つの別の軌道に変化する.異なる2つの軌道は,同じ空間を占有できな いので,異なった広がりを示す.もともと同じであったエネルギー準位は,異なる 2つのエネルギー準位に分かれる.一つは,元のエネルギー準位より低いエネルギー準位,もう一つは,元のエネルギー 準位より高いエネルギー準位である.
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図 7.1 水素分子の軌道. 2つの水素原子が近づくと,それぞれの電子の所属する,2つの同じ状態の軌道両方がなくなり,異なった2つの新しい軌道が生まれる.新しい2つの軌道は,エネルギー状態も2種類できる.もとのエネルギー状態より低いエネルギー準位を持つ軌道を,結合性軌道とよび,高いエネルギー状態の軌道を,反結合性軌道と呼ぶ.(s 軌道どうしの場合,反結合性軌道は,符号の異なる2つに分かれているが,2つ一組で1つの軌道である.反結合性軌道の符号は,電荷の+と-ではなく,軌道関数の符号である.間に節があることを示している.表と裏の方がよければ,それでもよい.) |
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図 7.2 水素分子の軌道 2. 新しい2つの軌道,結合性軌道と反結合性軌道は,2つの原子核の周りに重なっていることに注意すること.水素原子の軌道において,s 軌道と p 軌道がおなじ原子核の周りに重なって位置しているのと同じである. |
分子の軌道についても,原子の軌道における電子配置と同じことがいえる.
2つのそれぞれの水素原子に所属する,2つの電子は,新しくできた,低いエネルギー 準位の軌道に入る.このとき,元のエネルギー準位と新しい低いエネルギー準位のエネルギー差が,結合 エネルギーである.
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図 7.3 水素分子の電子配置 |
2つの1s 軌道から,再編成された 2つの軌道のうち,エネルギー準位の低い方を,結合性軌道 ( σ) とよぶ.これは,もとの軌道より低いエネルギー準位に電子が移り,エネルギー的に安定化したことによる.もう一方の,エネルギー準位の高い方を,反結合性軌道 (σ* ) とよぶ.
2つのヘリウムを結合させた,2He について考えてみる.あたらしくできた2つの軌道,結合性軌道と反結合性軌道に,電子4つを配置する.この場合,結合しても,エネルギー的に安定化しない.2つの He が結合している,He2 は,実際は存在しない.
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図 7.4 He2 分子の電子配置 |
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