「ジェイムズ・スチュワートかく語りき」(5)




LM:
ブーラ・ボンディはどうでしたか?
JS:
彼女は7度も私の母親役を演じてくれてました。いつだって彼女には敬意と愛情を抱いててまるで自分の本当の母親のように慕っています。ある時テレビの仕事で母親役が決まらなかった時、「ブーラ・ボンディがいい。彼女は私の母親役にぴったりだから」って言ったら、スタッフ達は彼女を捜してくれたけど見つけることができませんでした。当時彼女はフロリダに住んでたのですがその家にはいなくて、丁度そのとき釣りに行ってたのです。今からそんな昔のことではありません。彼女は90代になってて、イエローストーンで釣りをしてた彼女にスタッフ達はなんとか会うことができました。「いいわよ。ジムの母親を演じられるのは私しかいないもの」そして彼女はやって来て、その日一日の仕事をなんなく終えた後にこう言いました。「さよなら。私は10日ほどここで釣りしてからフロリダに戻るからね。」
LM:
ヘンリー・トラバース
JS:
ヘンリー!彼はまさにクラレンス役にぴったりの役者でした。これはフランクの才能のひとつなんだけど、キャスティングに関してすごいひらめきを発揮するんだ。クラレンス役はヘンリー・トラバースをおいて他に誰もうってつけの役者はありえなかった。彼の間(ま)、容貌、演じ方はまさにクラレンスそのものだったんだ。翼を持ってない天使でとても魅力的だった。ヘンリーの演技を見ること、一緒に演技をするのはただただ楽しかったとしか言えない。水の中に飛び込んだ後、服を乾かしてるシーンでは私はヘンリーの喋ってることにじっと耳を傾けていました。フランクが「リハーサルなしで自然な感じでやろう」と言ったので、何も考えずにそのシーンをやりました。私達がどう演じたのかは映画を見ていただければわかりますが、信じられないほど素敵なシーンになったと思います。私はあのシーンを演じはしましたが、ただヘンリーに魅了されていただけなのです。彼のタイミングにはいつもユーモアが備わってました。私とのやりとりをもう一度見直してみて下さい。もし私が生まれなかったらと言った時、クラレンスは持ち前のユーモアでそれを実現してくれました。私がすっかり魅了されたあのテイクは作り物なんかじゃありません。撮影前にフランクは「誰がこの天使役をやってくれるのだろうか」と独り言を言っていたのを聞いたことがあります。そしてヘンリー・トラバースが彼の心の中にちゃんと入ってきたのです。
LM:
父親役のサミュエル・S・ハインズはどうでしたか?
JS:
彼は良き性格俳優で私と一緒に何本もの映画に出てます。とても素晴らしい役者です。かわいい女の子だったグロリア・グラハムにとってはこの作品がデビュー作で、フランクが彼女を拾い上げました。彼女はこの役柄に当てはまった資質を持っていました。私が生まれてなければ売春婦になってたというシーンがありましたが、そのシーンも完璧に演じています。フランクは役柄にぴったりあった俳優を選ぶ天賦の才能を持っていました。
LM:
ドナ・リードのキャスティングについてはいかがですか?彼女はキャプラやあなたと働くにあたってとてもナーバスになったと聞いてます。あなた方二人は戦争のためにしばらくブランクがあって二人とも不安になってたことを知っていたからです。でもすべてはなるべくして素晴らしいものになりました。彼女の第一印象はどんな感じでしたか?
JS:
彼女には会ってすぐに気に入って、すっかり好きになりました。彼女はまわりのすべてのことを吸い寄せるような人でした。私達はリハーサルの時もずっと一緒で、私が「このシーンを一度で終わらせたいかい?」って聞くといつも「ええ、やってみましょう」と言うのです。そうあれは電話のシーンだったかな。長いシーンでしたがフランクが「一回で通してやりたいかね」と尋ねてきたから、「彼女が嫌なら別にいいです。」と答えました。そしたらドナは「いいえ、私はやってみたいわ」って言ったのです。そして私達はあのシーンを1テイクで終えました。信じてもらえないかもしれませんが、あれはリハーサルも一切ない素晴らしいテイクでした。
LM:
あなたは十分に準備する性分ですか?撮影前に家で稽古をしたりしますか?
JS:
テープレコーダーは使いませんが、私はいつだって稽古をしていきます。前日の稽古のやり方にもいろいろあって、出演者によっては一緒にシーンについて討議したがる人もいました。フランクは別にそれを気にしてませんし、私もそうです。私が言えることは、自分自身の表現でただそれを演じるということ、それだけです。もしうまくいかなければその混乱状態からはじめればいいのです。


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