「ジェイムズ・スチュワートかく語りき」(4)




LM:
「素晴らしき哉、人生!」は順番通り撮影されましたか?
JS:
フランクは順番通り撮りました。順撮りにとてもこだわっていました。順番通りに撮るというのはとてもお金のかかることなのです。この映画では夜間のシーンもたくさんありました。ところが、ある静かな真夜中の屋外シーンの撮影の時、突然小鳥がさえずり始めたのです。フランクは「カット!」と言って「誰かが小鳥の真似をしているのか?それとも本物の小鳥の仕業か?真夜中に小鳥がさえずってるなんてありえないぞ!」もちろん誰も小鳥の真似なんてしてません。それは本物の小鳥だったのです。次の夜、フランクは二羽のカラスを連れてきて木の上に登ってカラスを放しました。小鳥はカラスに怯えて逃げ去り一件落着となったのです。」
LM:
映画の中で若者を演じなければならないことで不安を感じたことはありましたか?
JS:
そのことについてはフランクに相談しました。「君に任せる。もし若者を演じるシーンでなにかやってもらわなければならない場合は君に伝えるよ」フランクはそのことをまったく問題にしていませんでした。実際私も気にしなかったし、楽しんでやってたので特に不安に感じることもありませんでした。
LM:
撮影に入ってからキャプラは頻繁にシーンに変更を加えることはありましたか?シーンそのものを変えてしまうようなアイデアやセリフを思いついたりしていましたか?
JS:
フランクは脚本通り厳密にやるタイプではありませんでした。脚本から離れて少しセリフを変えることも気にせずにやっていました。でもシーンそのものを大きく変えることはありません。フランクは念入りに準備をしていて、撮影現場に来るまでに完全なイメージを持っていたので、あまり多くを変える必要はなかったのです。
LM:
キャプラは現場ではどんな感じでしたか?また現場の雰囲気はどういう風でしたか?
JS:
ごくごく普通の現場でした。スタッフをはじめみんながそれぞれ自分の仕事をしていて、静かにするべき時をわかっていました。大きな口笛を吹いてはいけない時、だまっているべき時をわきまえて、それぞれ仕事をこなしていました。騒々しさとちょっとした緊張感がありましたね。フランクはいつも起こったトラブルの解決役です。「スミス都へ行く」ではリンカーンセンターの前での撮影があったのですが、そのとき一人の警官がやってきてフランクに言いました。「ちょっとお伺いしたいのだが、そのカメラマンは彫像と一緒にそこにいる男の人を撮ろうとしているのですか?」「そうだ」「それは違法行為です」警官は言いました。「でもここでの撮影はすでに許可済みだ」「撮影は許可されていても、人間と彫像を一緒に撮るのは法で禁じられているのです。」「それはどんな法律なのかね。」「強制的なものです。だからみんな子供をリンカーンの膝の上にのせて写真を撮ります。」「私はこの男をリンカーンの膝の上にのせるつもりはない。彫像の前に立たせて撮るつもりだ。」「そんなことをしたらどうなるか。それはやってはいけない違法行為です。」「わかった」フランクは言いました。それは昼すぎの出来事でした。警官が去った後、「内緒で撮るぞ」と言って、すぐにセンター内の警備員達の詰所に話をしに行きました。そしてスタッフたちは静かに素早くカメラや照明器具などすべての機材を警備室の隅に置きました。警備員達がその夜それらの機材を監視してくれる事になったのです。ホテルに戻る車の中でフランクは私に言いました。「ジム、明日は早起きしてもらう。5時起きだ。」次の朝、夜明けの頃、私はアブラハム・リンカーンの前に立っていました。すべての機材を運び出して私達は撮影を行なったのです。あの警官はそんな風に撮影されたことをまだ気付いてないでしょう。」
LM:
「素晴らしき哉、人生!」の中で体育館の床が開くシーンがありましたが、あのシーンはどこでどのように撮影されたか覚えていますか?
JS:
ビバリーヒルズ高校だったかな。確かそうだったよ。そこの体育館はバスケットボールのコートになってて床下が開いてスイミングプールになる仕組みだったんだ。フランクがどうやってそこを見つけたのかはわからない。でもビバリーヒルズ高校だったはずです。
LM:
一緒にいた他の俳優のことについてお聞きしたいのですが、車椅子に座っていたライオネル・バリモアはどうでしたか?
JS:
彼の演技を見るのは刺激になりました。セリフから何からすべてのことがぴったりと役柄と一致しているのです。先ほども言った通り、彼がくれた励ましにはいつまでも感謝し続けることでしょう。それは本当に素晴らしいものでした。実際フランクはいつだって私とバリモアが一緒にいるシーンを楽しんでくれたし、フランクもどうやってバリモアがシーンのある瞬間をものにするのか不思議がってたのを覚えてます。この映画には他にもたくさんのいい人達が出てました。トミー・ミッチェル。フランクは彼をただそこにウロウロさせて好きなようにさせてた。町中の銀行が営業停止して建築ローンに投資していた人みんながやってきて自分達のお金を引き出そうとしたシーンのことをよく覚えています。ドナ・リードと私が新婚旅行へ出かける前で、私達は手持ちのお金をできるだけ多くの人に分配することを決めたのです。そしてみんなの前でスピーチしました。「どうかすべてのお金を引き出そうと思わないで下さい。そうすれば私達がなんとかしますから。」だから私はお金を持って、列を作って待っている一人一人に尋ねました。「お金はどれくらいいりますか?入り用の額だけおっしゃって下さい。」「75ドルほしい」「どれだけ入り用ですか?」「60ドル、それで十分です」そしてエレン・コービーがやってきました。フランクはエレンにはどんなセリフを言うのか伝えていましたが、私は何も聞かされてませんでした。映画を見ればわかるように、彼女は背が低く、カウンターからは見えません。彼女はこう言ったのです。「12ドル80セント」私はこの言葉に心から感動して、カウンターを乗り越えて彼女の頬にキスしました。これがフランクの仕事のやり方です。私達みんながキャプラを助けるような形で作品を作り上げていくのです。


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