「ジェイムズ・スチュワートかく語りき」(6)


左からフランク・キャプラ、ウィリアム・ワイラー、ジョージ・スティーブンス、サミュエル・ブリスキン


LM:
映画の撮影後はどんなことがありましたか?
JS:
映画の完成後、フランクと一緒に試写会に行きました。それから一般公開されましたが、残念ながらこの映画は利益を稼ぎだすことができませんでした。フランクはジョージ・スティーブンス、ウィリアム・ワイラー、サム・ブリンスキンらと一緒にリバティ・フィルム社を作りましたが、この映画の興行成績がその存続を妨げました。みんなこの映画がお金を稼ぐことを頼りにしていたのにそれができなかったので、リバティ社はパラマウントに吸収されたのです。フランクはその後何本も映画を作りましたが、この映画の興行成績の不振は彼を落ち込ませたと思います。フランクは後に大学へ講義しに行くというアイデアを思いつきそれを実行しました。個人的にはフランクは私が知っている他の誰よりも映画産業に貢献した人だと思ってます。彼は映画の文法でなく、スクリーン上でどのように自分を表現するかということを人々に紹介したのです。どうやって物語を語っていくか、フランクが書いた本はハリウッド映画について書かれた本の中で一番の良書だと思います。フランク・キャプラという人物がどうやって監督としてのぼりつめていったのかがわかるでしょう。
LM:
「素晴らしき哉、人生!」に対する批評家達の評判はどうでしたか?
JS:
当時批評家達が何を言っていたのか覚えていません。手元にたくさんの批評文を残していれば私もいろいろ調べてきたでしょうが、あいにく見つけることができませんでした。批評はあまりいいものはありませんでしたね。悪いものもありませんでした。まあまあという評価だったのではないでしょうか。
LM:
完成した映画を初めて見た試写会の夜、どんな感じだったか覚えてますか?
JS:
ええ、覚えてます。たくさんの人がそこにいました。クラーク・ゲーブルもいました。観客はとても映画を気に入ってくれたようで試写会は大成功でした。でもみんなフランク・キャプラが再び映画を作ったということにだけ喜んでいたように思います。それが試写会での主な関心事だったのです。
LM:
公開当時の一般的な反響についてはどう思いますか?
JS:
戦争が終わった後、人々がこのような物語を欲していなかったのは私にとっては興味深いことでしたね。みんな戦争中に非日常的なやりすぎの出来事が頻繁起こってる生活を過ごしてきたので、荒っぽいスラップスティックコメディや西部劇みたいのものを欲してました。そういった国民全体の感情が落ち着きを取り戻すのには少し時間がかかって、そのしばらく後に私達は家族やコミュニティ、家族に対する責任や仕事について考え始めるようになったのです。
LM:
この映画の失敗はあなたを傷つけましたか?
JS:
ええ。私に対してキャラクター作りが未熟だという人もいました。私はこの映画にベストを尽くしたのですが。
LM:
長い間あなたのフェイバリット作品が「素晴らしき哉、人生!」だと聞かされてきましたが、それはこの映画が再び人気になる前のことでした。この映画が再び見直されるようになったのはテレビの影響によるところが大きいと思います。この映画に対する人々の興味が年月を経て次第に強く安定したものになってきてるとあなた自身も感じることはありますか?
JS:
今でもかなり多くのファンレターをもらうのですが、その95%は「素晴らしき哉、人生!」に好意を示すものです。みんな15回から20回もこの映画を見たと言ってます。「ウィンチェスター銃’73」「リバティバランスを撃った男」「Shennandoah」について書いたものもたまにありますが圧倒的多数の人が私のベストフィルムを「素晴らしき哉、人生」だと言っています。みんなクリスマスのシーズンになるとツリーに飾りをつけるような感じでこの映画を見るのです。ツリーを飾りつけた後、人を集めてみんなでこの映画を見るというのが今やクリスマスの恒例行事のひとつになっています。このことは私にとってもうんと多くの感慨を感じさせてくれます。フランクにとってもきっと感慨深いものでしょう。だってフランク自身も本の中でこの映画をフェイバリットだと言ってたのですから。
LM:
映画の撮影中、どの辺がうまくいっていて、どこがそうじゃないかってわかりましたか?
JS:
そんなことはとてもわかりません。不可能です。この映画の現場は映画ビジネスに関わって得た経験の中でも素晴らしいことのひとつです。最近の映画ビジネスにおいては1本作ってそれがヒットすると6ヶ月後にはその続編が作られます。私はそれを賢明な行為だとは思えません。ルイス・B・メイヤー、ハリー・コーン、ワーナー兄弟といった大物達がどんな風に仕事をしていたのか考えてみてください。彼らは観客がどんなものを好きになるかを自分達でジャッジし、チャンスを得るためにはなにものも恐れませんでした。それは今日の映画ビジネスに失われているものでありおそらく今後も続くでしょう。
LM:
「ハーヴェイ」を作ってヒットしたら「ハーヴェイ2」を作らなければならないという具合ですね。
JS:
(笑いながら)ええ。でも確かなことですが、この「素晴らしき哉、人生」の続編を作ろうなどと誰も提案しませんでした。この映画での経験はがどれだけ素晴らしいものだったか!私達はただ自分達が正しいと思うこと、いいと感じることだけをやってそのためにベストを尽くしました。そしてフランク・キャプラがそれを助けたのです。私のキャリアの中で最も素晴らしいことはフランクがどのようにスクリーンに魔法をかけていたのかを間近に見れたことです。
LM:
彼はどのように魔法をかけていたのですか?
JS:
説明するのは難しいです。フランクが人生に、仕事に、責任感に、そして家族の真の絆に価値を置いて映画を作っていたことを見直してほしいと思います。郷土への愛、神への愛、フランクの持っていたそういったものに対する価値観はとても強く、彼は説教を説くことなくそれらをスクリーン上に表現できたのです。これがフランク・キャプラのやり方でした。彼の天賦の才、彼の魔法、それがフランク・キャプラだったのです。


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