「フランク・キャプラかく語りき」(6)
生徒:
これまでリアリティを表現するための描写方法、技巧などをお話になられました。映画に登場する黒人はたいていステロタイプなキャラクターとして描かれていますが、この映画の最後の数シーンにおいて、黒人女性がお金を寄付している場面があり、そこには黒人男性もいました。これはあなたがリアリティを描くために意図して行ったのかどうかお聞きしたいです。というのは私にはとりわけこのシーンからリアルな日常生活がうかがえたからです。またこのことが当時の映画製作ではまったく公平で普通のやり方だったのかもお聞きしたいです。スタンリー・クレイマーは黒人を映画の中に登場させてそれを自分の手柄のように誇ってますが、あなたはそれに対してどんな風に思われますか?
キャプラ:
そうだな。私は映画の中に黒人を登場させることを自分の手柄のようには思わない。みなさんご存知の通り、私は黒人も他の登場人物同様に扱ってきました。彼らも単なる人間であって、ただシーンの一部を担ってるにすぎません。私が黒人を映画に使うときはいつもただそのシーンに必要だからなのです。意識的に彼らを使おうと思ったことはないし、また使わないでおこうと考えたこともありません。私の最も好きな俳優はクラレンス・ミューズで、何度もクラレンスのショーを見に行ってますが、彼はいつも間違いなく私を笑わせてくれます。彼を黒人として考えたことはないし、素晴らしい俳優だと思ってます。どうして登場人物に黒人がいるのかという君の質問だが、別に意識的にそうしたつもりはなかった。
生徒:
もしあなたがこの映画をもう一度作り直すとことがあるとすれば、どんな風に変わると思いますか?
キャプラ:
もう一度この映画を作るならどんな風に変わるかだって?私は2度とこの映画を作るつもりはない。それだけだ。決して自分自身の作品を繰り返すな!新しいものを作れ!それこそが私の変わったところだ。(拍手) この映画は過ぎ去ったもので、終わった後に撮り直しするのは好きではない。やっと呪縛からとけた映画をやり直すなんて気が進まないし、私自身その映画の作業から抜け出てる状態なんだ。私にとっても俳優にとってもやり直しなんてただの厄介な作業だよ。やり直したとしてもすべてのシーンがひどい出来に見えてフィットしないにちがいない。私は撮影の時にリテイクが必要だと思ったシーンはその場で撮り直してる。だって次の日になって撮り直すなんて、昨日の新聞をもう一回作ってるみたいで面白味のない作業だからね。
生徒:
撮影前にシーンのカメラの動きを考えながらセットの中を歩くことはありますか?もしそうじゃなれけば、この撮り方が一番いい方法だと決める基準はどこにあるのでしょうか?
キャプラ:
私がセットを歩く時にはその日一日に何をするかがほとんど頭の中に入っています。監督はすべてのことにおいて俳優や裏方のスタッフに先んじてなければなりません。俳優を使ってすべてのシーンのリハーサルをしますが、それは単なる馴らし作業みたいなものです。リハーサル中にすべてをすっかり変えてしまうこともありますし、一部分だけを変えることもあります。ワンショットで撮るかクローズアップでまとめるかもリハーサル中に決まることがあります。俳優達の演技がとてもよくなってきて、カメラアングルの方が気にかかる状態になると、そこではじめてカメラのリハーサルに入るのです。どういう風に撮ってどうつないでいくかを考えるために、一度俳優達をセットから出して、裏方スタッフだけを残して定位置につかせカメラや他の器具の動きをレイアウトします。それが済むと照明をつけて細かいところまで仕上げます。それからもう一度俳優達をセットの中に入れ、ざっと通して演技をさせて各裏方パートの最終リハーサルを行い、そのシーンの撮影に入るのです。私は技術的な作業は先に済ませておいて、俳優達がいい状態になったと思った時すぐに撮影に入ることにしています。いったん俳優達の調子が上がってきたら、ずっとその状態を維持したいので、誰であってもセットには入らせないし、物も動かしたくありません。撮影に入れるかどうかもすべて現場の俳優達次第なのです。だから役者達がシーンを作り出していくような雰囲気になれば他のことで悩ませないようにします。そこからが彼らの見せ場なのですから。
生徒:
私にはあなたはカメラの配置や俳優達の動きの演出を決定するにあたって特に基準も持ってないように思えるのですが、それはあなたのセンスだけによってなされるのですか?
キャプラ:
そう、ただの直感です。バイオリンを演奏する時のような感じです。そういった直感は自然に湧きおこってくるものだということをわかって欲しいのですが、その直感はすぐに自分のものとなって映像を心の中のスクリーンに描くようになり、その心の中の映像を実現すべく撮影を行うのです。
メニューへ戻る/
前頁へ/
次頁へ/