「フランク・キャプラかく語りき」(7)
生徒:
物語の出だしが宇宙から始まるようにしたあの冒頭のシーンについてその理由を教えていただけないでしょうか?
キャプラ:
それにはとても面白いエピソードがあります。私達は観客に天国を見せるつもりで長い時間をかけてそのことを考えてました。どういう風に観客に天国を見せるか?どうやって天国を映像化するか?でも天国のイメージは各人が違うものとして持ってて、二つとして同じものがないのです。私の思う天国とあなたの思う天国とは違うし、それは他の誰とも違うものです。私が自分で思う天国を描いていも、誰も喜ばないし、おそらく私が望んでもいない笑われ方をすることになるでしょう。自分の思う天国を描いてもただ馬鹿馬鹿しいだけなのです。だからいっそ笑われるくらいなら私達が望むような笑い方でやろうということになりました。天国どどんな風に描くかってことが厄介な課題だということはわかってましたが、私はそれを星達の漫画を使うユーモラスな方法でやってみました。天使達を星で表現するというこのアイデアは長い議論の末にようやくたどり着いたものですが、そのかいもあって観客達も星達を人の姿を持つもののように受け入れてくれました。クラレンスが地上に現れる時にはちゃんとした肉体を持っているわけですが、それまでの彼をどのように見せるか?これは厄介な問題でした。こういう困難な状況になった時にはそれを面白く見せようと試みるといいでしょう。そうすれば解決の糸口が掴めてきます。マエ・ウェストのセックス・アピールもそんな感じです。みんなセックスを露骨に扱うのを畏れるけど、彼女みたいにファニーなものにすればいいのです。たとえ殺人のようにシリアスなことでも、その作業自体ははたから見ればユーモラスに見えざるをえないってこともあるのですから。だから私はユーモラスな方法で天国を描き、それは誰の感情も損なうことはありませんでした。
生徒:
演出するのが最も難しかったシーンはどこですか?
キャプラ:
最も難しいシーンというのは一般的にその映画の最も素晴らしいシーンの一つでもあると思うのですが、実際この映画で最も難しかったシーンは、ジョージ・ベイリーが家の中に入ってきて子供達に当たり散らすシーンで、ベイリーが家を飛び出して川に飛び込もうとする直前の長女がピアノを弾いているちょっとした短い場面です。この場面全体はとてもドラマティックでなおかつ笑いを伴ったものになっています。ピアノを弾いている少女もおかしいし、無邪気に質問している子供もおかしい。でもここで観客はダイナマイトを抱え込むような緊張感を味わうことになるのです。ドラマティックなシーンなのに笑いたくなり、笑いたい気持ちがあるのにドラマティックで笑えない。こういう特殊な状況はおそらく演出するのが最も難しいシーンの一つです。なぜならあまりにもおかしすぎるシーンになったらドラマティックな要素は失われて観客はドラマ自体をも笑ってしまうことになり、物語全体を笑わなければならないものだと思ってしまうのだから。そういう訳でこのシーンが私にとっては最も難しかったシーンだと思ってます。
生徒:
撮影期間はどれくらいかかりましたか?
キャプラ:
約12週間。屋外撮影がかなりありました。それも屋外の夜間撮影。さて、ここに座っているみんなに感謝したい。みんなのとても知的な質問に馬鹿げた答えをしてしまったが、今日はずっと聞いて頂いてどうもありがとう。
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