「フランク・キャプラかく語りき」(3)




生徒:
キャプラさん、次の質問は各監督達のアプローチを比較する目的で毎週されているものです。俳優達を刺激してうまく演じさせるためにあなたは脚本と俳優達に対してどのようなアプローチを行っているのでしょうか?
キャプラ:
うーん、そうだな。脚本に対するアプローチに関してだが、私はすべての脚本にずっと関わっていて映画を作るときは完全にそこに書かれていることに依存している。それに脚本は最終的には私がリライトしてるから自分の作ったものとして考えている。その脚本にあと何が付け足されるかもすべてわかってるので、映画を作る時には脚本自体もう必要としない。監督である私がその脚本に書かれていることをフィルムの中で語らなければいけないし、各シーンを俳優達の表現力でもってうまくつなげて一つの物語にするのだから、たとえ他人が書いた脚本でもすべて私自身の表現となるわけなんだ。キャステングはもちろんメインのキャラクターはあらかじめ決められているけれども、その他の脇役を決めるときに、私はスクリーンテストを行わないようにしている。憶えているかぎり、スクリーンテストをしたことは一度もないはずだ。スクリーンテストは俳優達にとって、とてもアンフェア(不公平)なもので、未熟な俳優達はテストの緊張感で能力を発揮できないこともあるので、なにもわからない。だから私はスクリーンテストの代わりに俳優達の話を聞くためにインタビューをする。インタビューしててその人物に何かあるって思った時、「君こそこの役にふさわしい人物だ」と言ってそこで配役が決定し、その後「ありがとう、さようなら」って具合にインタビューを終えてしまう。キャスティングは100%直感によってなされるものなんだ。言い換えれば私はその人物を俳優としてではなく、語るべき物語の1部分として見なくてはならないということで、ぴったりあった役者に出会った時、私にはこいつだってわかるんだ。それがどうしてなのかはうまく説明できないが・・。演技はいま一つという役者もいるが、そんなことは気にしない。だって演技ができないほどのひどい役者なんていないんだから。そんな役者を映画で見ることがあればそれは役者ではなく監督が悪いんだ。これで君の質問の答えになっているかな?それともまだ部分的にしか答えていないかな?
生徒:
まだ部分的です。さらに踏み込んでお答えして頂きたいのですが、撮影前のリハーサルをどの程度やられるのでしょうか?そしてその時俳優達との相互作用を生み出すためにどのようなアプローチをされるのでしょうか?
キャプラ:
どんなアプローチをするかより、リハーサルについて話をした方がこの質問には多くのことが答えられそうだな。私は撮影前にリハーサルというものを実際にはほとんどしない。君は俳優と物語の相互作用について知りたいのかな?それとも俳優と私の間の相互作用なのかな?この話を始めると何時間もかかるし、時間をかけて話しても絶対に答えは出てこないだろう。この相互作用について話すのはとても難しいからね。これは監督の仕事の一つであって、監督はこの相互作用がいつ起こるのかをわからなければならないんだ。これが相互作用を生み出すものだなんて、噛み砕いてうまく言い表すことはできない。でももし君が監督ならそれがいつ起こるのかを知ることはそう難しいことではない。監督は俳優にとっては唯一の観客でもあるわけだ。君がその唯一の観客である監督だったら、その相互作用が起こった時、すなわちそのシーンがリアルに感じられる瞬間をわからなきゃいけない。私はこういう方法を実践している。一度ハリー・コーンを出し抜くトリックをかましたことがあって、ハリーはそれぞれのシーンの1テイク目だけをプリントさせたがっていた。ここにいる皆さんがご存知の通り、映画では1シーンに1テイクだけでなく3テイクから4テイク撮ることもあって、そのすべてのテイクを記憶して、その日の終わりにハリーの言う通りにプリントするための1テイク目をつなげてラッシュ用に1本作るわけだが、1テイク目が他のテイクよりも出来が悪いこともあるので、ベストのテイクが保管室の使われなかったフィルムの中にあるんじゃないかってずっと心配しなきゃならないし、それは厄介な作業だった。それぞれのテイクには撮った順番に番号がふられるわけだが、私はハリーをからかうために、テイク1と前置きして4回同じシーンを俳優達に演じさせたんだ。4テイクでなくテイク1が4回っていう風にね。(場内笑と拍手)ワンテイク目だけが何度も繰り返されるんだからハリーも面白がって、このジョークを気に入ってくれたよ。でもこのずるがしこいジョークのおかげで私はたいてい2テイクか3テイク、あるいは4テイク目の俳優達の演技には緊張感がなくなってることがわかったんだ。興奮しながら演技を続けていくと、セリフや仕草を気にすることを忘れて、汗をかいて髪の毛を乱して役柄に没頭し始める。セリフを読む俳優から現実の人間へと変わっていくんだ。だから私はイライラしてる俳優や、お決まりの演技しかしない俳優にはこのやり方を使うようにしている。くつろいだ雰囲気を作るために、君達の言う役者と演技との相互作用を生み出すために、監督の仕事の一つとしてこの方法を実践してるんだ。他の監督達とは違った特殊なやり方かも知れないが、もしそのシーンにリアルさが欠けているようだったら、私がリアルだと感じるまでこのやり方を続けるだろうね。君達の言う相互作用について説明するのはとても難しいが、役者達にベストの演技をさせるために、監督は皆それぞれ相互作用を生み出させる方法を持ってる。私のやり方は役者達を発奮させて決まり切った仕草やセリフを変えることなんだ。セリフを完全に覚えてきている俳優に対しても、最後のセリフを途中で切らしたり、その場で新しいセリフをつけ加えたりする。俳優達は事前に鏡の前に立って一人で練習したりしてるから、本番の時は少し機械的な演技(Mechanical Way)になる。私はそれをこのやり方でつまずかせるんだ。俳優達が自分でやってきたやり方を忘れさせ、他の俳優達と一緒にさせることで興奮させる。多くの俳優はこのやり方を好きではなかった。だってすでに自分の時間をさいてすべてのリハーサルを済ませてるんだからね。でも彼らが事前に自分でリハーサルをやってくれたからこそ、興奮状態の中でいい演技を引き出すことができるんだ。さてこれが相互作用の質問に対する私の答えだが、機械工学(Mechanical Engineering)の話ってなるともっと時間が必要だろうね。(笑)


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