「フランク・キャプラかく語りき」(2)


RKOスタジオの敷地内に建てられた屋外セット


生徒:
私はこの映画のユーモアにすっかり魅了され、細かいところも楽しませてもらいました。警官が銃を撃ったとき、遠くの道路の標識の一文字がなくなるという面白いシーンについてお聞きしたいのですが、監督のあなたはああいうギャグのアイデアにまで関わっているのですか?それともあれは誰かの入れ知恵ですか?
キャプラ:
あれはアクシデントだったんだよ(笑)。あなた方もご存知の通り、アクシデントというのはときどき起こる思いがけない偶然でもあるんだ。
生徒:
ええ、でもこのギャグは意図して映画の中にくっつけられたように思いましたが。
キャプラ:
でもこのシーンは本当にアクシデントだったんだ。それこそ二級天使のクラレンスが私達のためにやってくれたんだろうね。
生徒:
この物語の元となったクリスマスカードがどうやって見つけられたのか知りたいです。まだそれを見ることができるのでしょうか?私はこの映画を素晴らしい作品だと思います。ハリウッドはもっとこのようなタイプの映画を作るべきではないでしょうか。(場内拍手)キャプラさん、あなたはこのようなタイプの映画をたくさん作ってきましたが、これまで作られた物語の中でもっともお気に入りのものをひとつ挙げるとすればどの映画になりますか?
キャプラ:
この「素晴らしき哉、人生!」が最も好きな物語ですが、それは私自身これは普通でない物語だと思っているからです。ある一人の男を過去の世界へ連れてゆき、彼が生まれていなかったら世の中はどうなっていたかを見せるというのは異常なアイデアとも言えました。私が扱った脚本のテーマとしては最も奇想天外なアイデアだったと言えるでしょう。
生徒:
架空の世界から男が戻ってくるというテーマはあなたの作品の中で何度も繰り返し使われています。時間通りに町に戻る男、「愛の立候補宣言」で最後に戻って来る男、それはあなたのすべての作品に刻印された第2の人生というべきテーマであり、あなた自身が元の世界に戻ってくることを好んでいるように見受けられます。このように同じテーマが何度もあらわれるのもアクシデントなのでしょうか?
キャプラ:
もし君がテーマを選ぶ立場に立ったとしたら、自分好みの題材を選ぶはずです。それはおそらくまったくの偶然ではない。いやそれはある特定のアイデアに取り憑かれた内なるなにかに影響されるのかもしれないが、私自身はまったくそのような観点でものを考えてなかった。
生徒:
私は小さな田舎町から出てきたのですが、この映画では小さな町で生活している人々がどのように町と関わりながら暮らしているかということを実にうまく表現しているように思いました。ロサンジェルスのような大きな町ではこんな風にはいかないでしょう。町のセットはとても大きなものと見受けられますが、どのようにして作り上げたのですか?
キャプラ:
あの通りはサン・フェルナンド・バレーにあるRKOスタジオの敷地内に建てられたもので、屋外に建てられたセットでした。
生徒:
あなたが仕上げた脚本と他の3つの脚本ではエンディングに違いはありましたか?ライオネル・バリモアの演じたキャラクターは他の脚本ではどのように扱われていたのでしょうか?
キャプラ:
ライオネル・バリモアのキャラクターは他の3つの脚本にはなかった。他の脚本とは互いにわずかに触れるぐらいしか接点がなかったんだ。共通の特徴はまったくなかった。1本は政治についての話、もう1本が商人についての話、そしてもう1本が小さな町についての話だった。少年が毒薬を送りかけた薬屋を救うという短いエピソードはクリフォード・オディットの脚本にあったものだ。3つの脚本は全然違う話で、小さな町についての話もアイデアを拝借しただけで実際に映画にした物語とはちがうものでした。
生徒:
ではあなたが自身が作られたというライオネル・バリモアのキャラクターはすべてこの映画の中に反映されているのでしょうか?脚本には書かれていたのにカットされたシーンはありますか?お金を持ってるけど町の他のみんなが持ってるような人間的な感情を持ってないという彼のキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?
キャプラ:
あのキャラクターは実を言えば撮影中に浮かんできたんだ。私達は撮影しながら脚本を書いていた。どういう風にあのような男を扱おうとしたかというと、ただ彼を映画の中でひとりでいさせたんだ。自分の仕事にだけ専念するような男としてそこに置いただけだ。変化を望まない男であり、実際なんの変化もしなかった男として。だからただ彼をそこに置いて、興味の対象を主にジョージ・ベイリーに何が起こるかというところに持ってきたんだ。ライオネル・バリモアのキャラクターはあまりにも無愛想で老獪な男で、私達はただ彼のしたいようにさせただけなんだよ。

ポッター氏を演じるライオネル・バリモア(手前)

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