「フランク・キャプラかく語りき」(1)


フランク・キャプラ(1968)


1968年11月2日。フランク・キャプラ氏はディレクターズ・チョイスというセミナーに出席するために映画芸術科学アカデミーシアターに現れました。ハリウッドの非凡な才能を持つ監督達が自作の中からフェイバリットの1本を選び、聴衆の前でその映画が上映され、上映後にその映画に関する質疑応答が交わされるのがこのセミナーの主旨です。このセミナーにおけるキャプラ氏の発言のいくつかは彼の自伝の中にも記されており、「素晴らしき哉、人生!」をついての彼自身の考察を知る上での大切なマイルストーンになっています。ぎっしりと詰まった満員の会場の鋭い鑑識眼を持った聴衆達の歯切れのよい質問に答えながら、キャプラ氏は自身のフェイバリットでありおそらく監督としてのキャリアの最高到達点であったこの作品を20年ぶりに振り返り、明解な視野でもって彼自身の感情と考察を述べています。この発言の転載を許可してくれたアカデミーに感謝を捧げます。
キャプラ:
お集まり頂いてどうもありがとう。まずはじめに私がなぜこの「素晴らしき哉、人生!」をこの日のために選んだのかを説明しなければなりません。この作品は約5年間の従軍期間の後に作った最初の映画でした。従軍期間中、私はレンズを覗き込んだり俳優の演技を見ることもなかったのです。あまりにその期間が長かったので私はステージフライト(舞台恐怖症)になっていました。それはまったくおそろしいものでした。そんな時、RKO社の経営者だったチャーリー・ケナーが「フランク、俺はあんたにうってつけのアイデアを持ってるんだ」と言ってきたのです。もちろんみなさんご存知のように、この時代は誰もが私にうってつけのアイデアの一つぐらいは持っていました。でもこれはそういったものとは別のものでした。「あんたにこれを読んでもらいたいんだ」「何だい、これは?」「物語さ。この物語をベースにして俺はマーク・コネリー、ダルトン・トロンボ、クリフォード・オディットの3人それぞれに脚本を作らせたんだ」「どうして3つも脚本があるんだ?それにどうして今まで映画にしなかったんだ?」「3つともこのオリジナルの物語ほど良くなかったからさ」「そのオリジナルの物語っていうのはどういうものなんだい?」「それは1通のクリスマスカードに書かれた物語なんだ」チャーリーがこのクリスマスカードに私の注意を引こうとしているのは見え透いていましたが私は「クリスマスカードが元になってるアイデア?」と尋ねてみました。「そう俺はそれを買ったんだ。4つの名前を持つ一人の男からね。この男はNYでこのクリスマスカードを書いたのだが、それがまさにあんたにうってつけのものだったというわけさ」「そのカードを見せてくれないか」私はそのクリスマスカードを読みました。男が友人達に宛てて書いたその小さなクリスマスカードの中にこの映画のすべてのアイデアがあったのです。「このカードにいくら支払ったんだい?」私はチャーリーに尋ねました。「もしあんたがこのカードの元の値段を支払ってくれるって言うなら、俺は3つの脚本をあきらめたっていい。あんたの好きなようにしてくれていいんだよ」おそらく3本の脚本のために50万ドルは支払ってるはずです。3つの脚本を読んでみた限り、元のクリスマスカードにあったスピリッツがどれも反映されていませんでした。だから私は自分でもう一度いちからやり直してこの映画を作り出したのです。これがまずこの映画をフェイバリットに選んだ理由のひとつで、他にもう一つの理由があります。
この映画が上映されてから一年後のことです。私はロープで結ばれた巨大な郵便物を受け取りました。サン・クエンティン刑務所から送られてきたもので、そこにはたくさんの手紙がぎっしりと詰め込まれていたのです。「親愛なるキャプラさんへ、私は1年ほどの間にこれだけの手紙を受刑者たちから受け取りました。約一年前、毎日曜日に刑務所内で行われる上映会であなたの作品を上映しました。その後この映画が受刑者の間でものすごい評判になったので私は上映直後の週の半ばにラウドスピーカーを通じてこの映画について手紙を書いてくるように伝えました。そしたら1500通の手紙が送られてきたというわけです」それらの手紙はトイレット・ペーパーからきれいにタイプ打ちされた紙やらあらゆるものの上に様々な英文で書かれていましたが、そこにはすべて同じことが書かれていました。みんなこの映画を見て突然自分が生きていることに理由があることがわかったのです。「ああ、自分がタリーおばさんのところへ行ってれば、ひどいことをしちまうことはなかったんだ」みんなそれぞれの書き方で自分はとても意味のある人生を生きているという事実を手紙の中で表現していました。この映画は受刑者達に大きな救いの手を差し伸べたようなのです。皆さんがこれらの手紙を読めばジーンとくることでしょう。おのおのの人間が自分自身の物語を語っているのですから。
というわけで、私自身がこの映画が大好きだということもありますが、これら2つの理由もあってこの日のための一本に「素晴らしき哉、人生!」を選びました。さあ質疑応答を始めましょうか。


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