あとがき




アメリカン・クラッシックな映画、クリスマス映画の定番として日本でも馴染みの深い「素晴らしき哉、人生!」ですが、その広い認知度にもかかわらず日本ではこの映画に関連した書物がほとんど出版されていないこともあって、長い間この素晴らしい映画がどのように作られたのかずっと興味を持っていました。だから1年程前アマゾン・コムで「IT'S A WONDERFUL LIFE BOOK」(Jeanine Basinger著)という本が出版されているのを見つけた時はうれしくてすぐに購入し、面白そうなところを辞書片手にじっくり時間をかけて読んで、キャプラとすべてのスタッフがこの映画に並ならぬ時間・労力・情熱を込めて作っていたことを知って、あたらめてこの映画の魅力にとりつかれました。このウェッブ・サイトではこの本からフランク・キャプラを招いた映画芸術アカデミーのセミナーの部分とジェイムズ・スチュワートのインタビューを引用して紹介しています。

「フランク・キャプラかく語りき」
晩年大学で映画の講義をしていたということもあって、キャプラが生徒達の様々な質問にジョークをまじえて面白おかしく話しているのはおわかりになるかと思います。ここで私にとって興味深かった質問はマーク・トゥエインの「不思議な少年」を意識していたかという質問で、キャプラは関係ないとは答えていましたが、晩年の作品「不思議な少年」で人間の存在を皮肉を込めてペシミスティックに描いたトゥエインと、この「素晴らしき哉、人生!」以降、戦争の後遺症で人間不信に陥り、思うように撮ることができなかったキャプラとは奇妙に重なるところがあって、この質問で創作活動を止めてさっさと引退してしまったキャプラの気持ちはどんなだったんだろうかと考えて、ちょっと彼にシンパシーを感じました。戦前のロバート・リスキン脚本の全盛期の作品と戦後のそのリメイク作品を較べると後者の方に深いペシミズムがたたえられているような気がするのは読みすぎでしょうか。それとこの映画の元になったクリスマスカードの話が出てきましたが、そのクリスマスカードに書かれた「The Greatest Gift」という物語もこの本に収録されてます。短い物語ですので興味のある方はぜひ本を入手して辞書片手に読んでみて下さい。
「ジェイムズ・スチュワートかく語りき」
俳優という立場から見たキャプラ像がわかるインタビューで、上のキャプラの発言とあわせて読むと、キャプラの演出の仕方がより具体的にわかるかと思います。それにしても声を枯らすために医者に行ったというエピソードはすごいですよね。キャプラからかけられたプレッシャーも大変なものだったと思いますが、それに見事に応えるガッツというか役者根性。ロバート・デ・ニーロもすごいかもしれませんが昔の役者さんではそれくらいのことは当たり前だったんでしょう。あとこの本には各配役の候補者リストがあったのですが、最初から決まってたのはジェイムズ・スチュワートただ一人で、ドナ・リードのやった役はもともとジーン・アーサーだったのですが舞台の都合で出られなくてオリビア・ディハヴィランドが第一候補者に挙がってたようです。そそっかしいビリー叔父さん役にはウォルター・ブレナンの名前もあって彼が演じたらまた面白いだろうなとちょっと興味をかき立てられました。完成祝いのピクニックの写真の話が出てきましたが、このページの上下2枚の写真がそうで、上の写真の左端、下の写真の右端に二人が写っています。

クリスマスになるとアメリカのどこかのTV局で必ずこの映画が放映されるらしいし、ヨーロッパのロンドン・パリ・ミラノといった大都市の小さな映画館では年末になるとこの映画が上映されていると聞いたことがあります。みんな映画の中のジョージ・ベイリーや二級天使クラレンスに会いたくなるのでしょう。かくいう私も何度もこの映画を見ていますが、最初の薬屋のシーンで必ず泣かさられるし、ジョージが元の世界に戻ってうれしくて凍った道をツツッーっと滑って走るシーンにはジーンとこみ上げてきてウルウルくるし、キャプラが言うところの感情を思いのままにコントロールされまくっていますが、それが気持ち良くもあります。生まれてこのかた一度も自分のやりたいことができず、街の外にも出れず、ただじっと周りの人間のためだけに耐える人生を過ごしてきたジョージ。身内の失敗から命まで落としそうになって天使のおかげでなんとか助かっても、まだポッター氏がいる。実はかなりビターな話かもしれない、見終わった後そう思う時もあるのですが、よく出来た物語なんでやはりまた無性に見たくなる時が来るんですね。そういう麻薬的にこの映画にとりつかれてしまったしまった人にとって、映画をより面白く見てもらうための一助となってくれればこのウェッブ・サイトをつくった甲斐もあったというものです。相変わらずの読みづらい訳出を最後まで読んで下さってどうもありがとうございました。
Every time a bell rings an angel gets his wings.    1999/12/24 sneeze

Remember no man is a failure who has friends.

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