「ジェイムズ・スチュワートかく語りき」(1)




聞き手:レオナルド・マルティン(LM)
LM:
今日は「素晴らしき哉人生!」にまつわるあなたの思い出をあれこれとお聞きしたいと思っています。最初にお尋ねしたいこと、それはフランク・キャプラがはじめてこの映画の話を持ってきた時のことについてなのですが、あなたはその時のことをよく憶えていますか?
JS:
ええ、まるで昨日のことのようによく憶えています。私が戦争から戻った時、MGMとの7年契約は切れていて、エージェントだったレランド・ヘイワードはもう特定のスタジオとは契約しないように助言してくれました。私はその助言を聞き入れましたが、丁度その時ハンク(ヘンリー)・フォンダもそんな感じで行く宛もなくフラフラしていたので、二人で座って話をしました。ハンクも仕事のない状態でしたが、そのことも私を不安にさせました。4年半もの間私は仕事から離れていたのですから、みなさんおわかりのように、どうやって演技をすればいいのかすっかり忘れていたのです。MGMで学んだ素晴らしい経験はすべて消え失せていただろうし、そこで鍛錬して得た技術もその4年半の間にどこかにいってしまったにちがいありません。
LM:
軍隊から離れたのはいつですか?
JS:
1945年の9月か10月だったかな。その当時のことはよく覚えています。フランクから電話がありました。「フランク・キャプラだが・・」って。その時私は「Hip-hip hurray!」って大喜びで叫びました。フランクは「物語にしたいアイデアがあるから、それを聞きに家まで来てほしい」って言ってきたので、家まで行ってそのとりとめのアイデアを聞かせてもらいました。それは小説や劇作でなく実際に起こった出来事に基づいて作られた話で、フランクは友人からもらった2通の手紙からアイデアを得たようでした。主要なテーマは2つあって、そのひとつは「生まれつきの失敗者はいない」、もうひとつは「友達のいる人に貧しい人はいない」というもので、フランクはすべてを話した後で「わからない。私にはわからないんだ」って言い出したのです。だから私は言ってあげました。「大丈夫だよ、フランク。僕は素晴らしいアイデアだと思うよ。で、いつから始めるんだい?」って。それからフランクはそのアイデアをハケットとグッドリッチに委ねて、それまで映画界において素晴らしい仕事をしてきたこの二人の脚本家は約3週間で一本の脚本に仕上げ、フランクは1ヶ月半かけてキャスティングをしました。1本の映画を通じてこんなに素晴らしい人達と一緒に働けて、貴重な経験とこの上ない喜びを味わったことはありません。戦前にもライオネル・バリモアとは仕事をしたことはありましたがドナ・リードとは初めての共演でした。みんな言葉では言い表せないほど素晴らしい人達でした。これほどまでにすべてのことがフィットしてうまくいった映画はないでしょうね」
LM:
あなたがはじめてキャプラから話を聞かされたとき、彼は良き語り手でしたか?
JS:
いや特にそうは思いませんでした。でも話を聞いて「フランク、その映画をやらせてほしい」って決心しました。たとえプロのサッカー選手役を割り当てられたとしても引き受けたでしょう(笑)。本当に幸運だったと思います。フランクは1篇の短い物語を話してくれました。やや混乱気味な口調だったけどそれはまったく気にならなかった。「映画の中での君は小さな町に住んでるけど、町を出て何事かをなしえたいって夢を持ってるんだ。君の父親は金融業を経営してるけど、町の大物が町中に家を建ててとんでもない賃料でそれを住人達に貸していて、君の父親の仕事を奪ってる」そんな感じでキャプラは話し始めました。「それから君はさらなる困難に陥って事態はますます悪くなり自殺することを決める。そして君が橋の上から飛び降りようとしたそのとき天使が降りてくるんだ。天使の名前はクラレンス。天使だけど翼はもってない。君が水の中に飛び込もうとした時、彼の方が先に飛び込んでしまった。でも彼は泳げない。だから君が彼を助ける。そして、う〜ん、君は彼を助け上げた後、服を乾かしていて、そこにはクラレンスもいる。クラレンスは君にとっては見知らぬ人間だが、彼との会話の途中で君はこう言うんだ。『もし自分が生まれなかったら・・』そして言ったことが本当に起こるんだよ。」それからフランクは突然こう言いました。「う〜ん、ところで君はここまで話を聞いてどう思う?」「フランク、もし僕を自殺しようとしている男か翼のない天使クラレンスに起用したいなら、僕は何でもあなたの言う通りにする。どんなことでもさせてもらうよ」


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