いかがなものか…

ネック折れの修理で補強を入れることがあります
ウチの場合は「下駄の足」のような形に入れますが、ボリュートを付け加え補強とする工房もあります。上画像、黄色線で囲まれた部分が付け加えられたボリュートです。
お客さんの予算が足りなかったのでしょう。塗装はされていません
で、このネックですが、横から見ると…


あらあらボリュートごと剥がれてますねぇ(^_^;)
ただ、この作業をしたリペアマンがいい加減な仕事をしたから剥がれたとは私は言いません。なぜならこのボリュート自体は綺麗に接着成形されています
一枚目の画像を見てもらえば分かりますが盛り上がった三角錐の頂点もキッチリセンターにあり変な歪みもありませんからこのあたりの木工技術は結構ある方ではないでしょうか
(ただボリュートごと剥がれた部分の接着はちょっと甘かったのかもしれません…)
それから今回折れた所は前回とは別な所で折れており(上画像黄色矢印部分が前回の折れた面)ネック折れの接着自体もキッチリした作業をされていたと言えます
ではなぜ折れたのか?
それは「ネックが折れるような衝撃を加えたから」です
ウチの補強方法を含めこの様なネック折れの補強は「ネックが折れなくなる」ような物ではありません。補強が入っていても倒したりすればこの様にまた折れてしまいます
ではそんな補強と言うにはたいした意味も無い物をなぜわざわざ入れるのか?です
当店では折れ面が綺麗に復元出来るような折れ方の場合には補強加工はしません
折れ面が綺麗に合わされば普通に接着するだけで元の強度を取り戻せます
折れ面が合わないなどそのまま接着しただけでは元の強度を取り戻せないと思われる場合にのみ補強加工を加えます
あくまでもマイナスをゼロ、或いはちょっとばかりのプラスに転じる物だと考えています
このレスポールの場合、今回の折れは一回目の折れ面とは違う所から折れているくらいなので普通に接着しただけでも十分に元の強度を取り戻せていたと思われます
何もこんなに凝った加工をお金をかけてする必要は無かったのです
ひょっとするとこれはお客さんからのリクエストで入れたのかもしれません
(このギターは楽器店経由で持ち込まれた物なので直接お客さんとはお話できていません)
しかし、リペアショップによっては折れ方の状態を問わず
ネック折れには必ずこう云った補強加工を入れる所もあるようです
でもそれって悪戯に修理代を嵩上げするだけなんじゃ無いでしょうか?
当店でも時々「もう2度と折れないようにガッシリ補強してくれ!」と言われる事がありますが
これには「もう2度と折れるような扱いはしないでくれ!」と言い返します(^_^)
例えば鉄板なんかで挟んでガシガシに補強したとしましょう
でもうダーン!と倒したりしても大丈夫!  でしょうか?
多分、今度は鉄板の付け根の所から折れると私は思います
(或いはジョイント部から折れるか指板が剥がれるか)
70年代のギブソンレスポールカスタムはボリュート付のメイプルネックで
ごっつい頑丈!な感じの仕様ですが、実際こいつでも倒せば折れます
(運が良ければヒビで済みますが、ヒビも折れも修理方法は同じなので結局は同じダメージと云う事になりますね)
リペアマン自身はこう云った補強加工が有効な物だと本当に信じてやっているのかもしれません
が、本当に必要な物なのか?もう一度考え直してみてはどうでしょうか?
何でもかんでも補強を入れてしまうのはいかがな物かと私は思いますよ
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