アコースティックギターのブリッジ交換

ギブソンの古いモデルにLG-Oという機種がありますが、当時の廉価モデルと云うもので
廉価モデルとは言え独特のポカーンと云う音はそれはそれで魅力のあるもので私は大好きです
ヴィンテージ物としては比較的手に入れやすい価格で流通しているようでヴィンテージ市場でも結構人気があるようですね
ただ、やはり廉価モデルですから各所にコストダウンが図られており必ずと言って良いほど問題が出るのがプラスチック製のブリッジです
手元の資料によると製造開始当時の1958年からローズウッド製のブリッジに変更される1968年までのモデルには途中形式変更はあったものの基本的にはプラスチック製のブリッジが使われていたようで、このブリッジがプラスチック素材特有の経年変化とボディトップのドーミング(弦の張力でアーチドトップ状に膨らむ現象)で著しく変形し上画像のようになってしまいます


これは内部から覗いた画像ですがブリッジはこの様に4本のネジで裏側から固定されています
それから弦のボールエンドがブリッジプレートと言われる板に食い込んでいるのが確認出来ますが、特に4,5弦は酷く、ブリッジ・ブリッジピンの変形と相まってボールエンドがトップ板を突き抜けてしまいチューニングもままならないような状態でした


プラスチック製ブリッジの内側はこの様に空洞なっています
この様な構造ですのでボディトップに接着する事は出来ずネジだけで止まっている訳です
これと同じ症状のギターで、接着剤でブリッジ浮きを修理しようとした形跡のある物を見かけますが、空洞構造では接着しようがありませんよね(^_^;)
ブリッジ裏側に突き出たポッチがネジで止められる部分なのですが付け根にヒビが入っているのが分かりますか?一個はギリギリ付いているような状態だったらしく、オーナーさんの前でブリッジを外した時には折れてはいませんでしたがこの撮影のためにもう一度取り付けたときに画像矢印のように折れてしまいました


こちらももう折れる寸前ですね

このような場合はもうブリッジを交換するしかありません
ネジ止めのブリッジですからオリジナルと同じ新品があれば簡単に交換できると思われるでしょうがトップ板がドーミングしていますので付いたところで無理やり曲げて取り付けるようになりますから同じ空洞構造では取り付けた途端に変形してしまうでしょうし、取り付け部にも無理が掛かりますのですぐに折れてしまうかもしれません
ですのでここはちゃんと木製で作り直す事にしました


材は手持ちの中からオーナーさんに選んでいただきました
エボニー材もありましたがなんだかブリッジだけ高級感が出て浮いてしまうので適度なチープ感と云うことでローズ材を選んで頂きました
まずはオリジナルブリッジを基にボディトップに付いたブリッジ痕を隠す為に0,5ミリほど外周を広げた型を作り(ブリッジピン穴の後ろ側はオリジナルがあまりにも狭すぎ接着強度に問題があるので1,5ミリほど広げました)これに合わせてローズ材を削り出し、サドル溝とブリッジピン穴を開けます
この時点では画像のようにブリッジはまだ平らな板ですのでドーミングしたボディトップにはフィットしません



そこでまずブリッジ底面をドーミングしたボディトップに合わせて逆アーチ型に削ります
画像はただボディの上に乗せているだけですがクランプせずとも乗せただけでこの様にフィットするまでブリッジを成形します。削っては乗せ、削っては乗せとこれが実に大変な作業なのです
リペアマンによっては平たく作ったブリッジや既製品のブリッジをそのまま無理やり貼り付ける人も居ますが、無理に曲げて張られたブリッジは後に反発力でハネて剥がれてしまう可能性があります。実際にそうなってしまったギターを何本か修理した事があります
ドーミングしたトップ板を直してからブリッジを張った方が良いんじゃないのか?と思われるかもしれませんが、一旦ドーミングしたトップ板はそう簡単には戻せません。熱を与えて戻すと言う方法もありますがこれも一時的なもので時間が経てば元に戻ってしまいますのであまり有意義とは言えません。ドーミングを直す画期的な方法が見つかれば私もそうするでしょうが現時点ではこの様にブリッジの方を合わせる方法を取っています


底面が出来ましたら最終的な成形をし接着となります
このギターの場合3枚目画像で分かるようにトップ板のブリッジ下にも塗装がされていますので確実に接着する為にブリッジの形に塗装を剥がしてから接着します


確実にガッシリとクランプ


で、この様に仕上がります
最後にオイルフィニッシュで風合いを付けています
写真を撮り忘れましたがボールエンドが食い込んでいたトップ板内側には薄いメイプル材で裏打ちしてありますのでこれでちゃんとチューニングが出来るようになりました

さて、ここで何度も出ている「ドーミング」ですが、ドーミングとはトップが盛り上がる事な訳ですからブリッジが始めの位置より高い位置に持ち上がり弦高が高くなると云う事になります。ですので今回のギターのようにプラスチック製のブリッジの場合にのみ問題が出る物ではなく普通の木製ブリッジのギターにも影響のあるものです。場合によってはサドルを削り切ってもまだ弦高が下がりきらない状態になり演奏性に影響が出ます
では何故ドーミングが起きるのかと言えばこれは弦を張りっぱなし(チューニングしたまま)で放置した結果起きるのです
ギターを弾き終えた後にそのまま保管するのか?、弦を緩めてから保管するのか?といった議論がありますがこれには諸々説があり、絶対これが正しい!と言ったような説は見つかっていないと思います
で、これはあくまでもO2Factory説として説明させて頂きますが
ギターやベースは弾いている時間より弾いていない時間の方が長いのが普通です(1日12時間以上弾いている人は例外です(^_^))であれば弾いていない時に弦が緩んでいるとネックがその状態に慣れてしまい、チューニングされた途端不安定な状態になると云う事になります
チューニングしっぱなしで放置すると初期ではネックに反りが発生するでしょう。しかし、限りなく反ると言うことは無くどこかの点で止まるはずです。この止まった所でトラスロッドを調整し適正な反りに修正すれば後は極端に動く事は無いでしょうし、テンションに対してバランスの取れたネックに成長すると思います
このようにネックだけの要素で考えると弾き終わった後に弦を緩める必要は無く、むしろネックに一定のテンションをかけておくことが必要と私は考えますが、アコースティックやフルアコギターの場合はテンションをかけ続けることでボディトップのドーミングやトップ落ちが起きる可能性があり重大な弊害となる場合があります。ここで「ネックの為に」と「ボディの為に」を天秤にかけると、トラスロッドや指板修正などで矯正する事が出来るネックよりも、そう簡単には矯正出来ないボディの方が重くなると私は思いますのでアコースティックやフルアコギターは完全に弦を緩めて保管する事をお勧めしています
ではどの程度緩めるのかと言えば、トップの変形を考えるとほとんどテンションが掛からなくなるくらい緩めるのが良いのではないか。と私は思います
ただし、3弦が巻き弦の場合、何回も緩めたり張ったりを繰り返すとすぐにペグポストのところで弦が切れてしまい3弦のストックを沢山持っておかなければならなくなりますので、妥協策と云う事で3弦のみチューニングを残しそれ以外を全部ベロンベロンに緩めておく事を私はお勧めしています
一方ソリッドボディやセミアコなど弦のテンションによりボディに変形が起き難い構造のギターやベースは基本的に張りっぱなしで保管する事を私はお勧めいたします
ただし、60年代後期から70年代のフェンダーなどはネック材がメチャメチャに柔らかい場合がありトラスロッドを締め込むとトラスロッド自体がどんどんネックに食い込み、指板に割れが生じる物もあります、この様な場合はチューニングしっぱなしにしていては問題が出るかもしれません
とは言えこの様な楽器はどの様に保管するか以前の問題であり、弦を緩めて保存しようがどうしようがトラスロッドが効かない事に違いはありません
こう云った柔らかいネックの見分け方ですが現状で酷い順反りが無ければまずOKです
現状で気になるほどの順反りがある場合は一度完全に弦を緩めてテンションゼロにしてネックの状態を見て下さい。ネックが極端に逆反りしていればトラスロッドがかなり締め付けられている状態でしょうから、トラスロッドが十分に効いているにもかかわらずネックが弦張力に負けてしまう=ネック材が柔らかいと言う事になります
このテンションゼロとフルチューニング時のネックの反りの差がネック材の柔らかさと云う目安になりますので60年後期〜70年代のフェンダーを買われる時は参考にされると良いかと思います
チューニングすると弓のように順反るのに弦を緩めると錦帯橋のごとく逆反るジャズベを何本も見てきましたので…(^_^;)
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