スカーフジョイントの問題点

上の画像は「スカーフジョイント」と言われるヘッド接合方法を用いたネックです
赤い矢印で指されたブーメラン状の黒い線がヘッド部分とグリップ部分の接合面です
このスカーフジョイントを良く見るようになったのは20年くらい前からでしょうか
当時はネック折れしやすいヘッド角度付きネックの強度を上げる手法と言われていました
なぜこれでネック折れしにくくなるかと言うと以前のコラム「ネック折れの補強加工」で述べていますが
従来のヘッド角度付きネックは製造時の木取りの都合からネック折れを起こしやすい木目になってしまう
と云う事があるのですがスカーフジョイントはヘッド部・グリップ部を分離し
木目の入り方を替える事(下図のような木目の入り方になる)でネック折れがしにくくなると言う理屈です
あと、ヘッド部分が指板とグリップ部分にV字に挟まれたように接合される為ガッチリと接合され
弱いヘッド付け根辺りの強度が上がるなんて言うちょっと??な理屈もありましたね

赤矢印で指された部分が接合部となります
木目の向きから見るとなるほどこれなら木目に沿って折れるような事は少なそうです
しかし!です レスポールのように簡単に折れないにせよ強い衝撃を受ければ
どこかにその皺寄せがくるはずでスカーフジョイントの場合は指板が剥がれたり
このように接合部が剥がれたりしますので強度確保と云う意味合いは余りありません
では何故このような事をするのか?まぁ、たいていの人は分かると思いますが…
そう、材木の節約ですね

一枚の角材からヘッド角度付のネックを切り出そうとすると
上図の様に木取りをする必要があり端材がかなり出る事が分かると思います
これはボルトオンネックなどのジョイントヒールが低いタイプの例ですから
アコースティックのネックの様にジョイントヒールが高いものになると
木取りの効率はグッと悪くなるのが分かると思います
クラシックギターなどは昔から高い物でもヘッドとヒールを接木しているのは普通なのですが
エレキギターの世界では接木は単なる材節約にしか取られませんから
少しでも材節約以外の意味合い持たせて
コスト削減を付加価値に掏り替える為に考えられたのがスカーフジョイントかもしれません

スカーフジョイントのネックは上図のような加工のされ方をします
つまり元材はフェンダー系のように薄い材ですから
ヘッド角度付でも材コストは角度無しと同じで済みます
もちろん加工コストは掛かりますが材コストと加工コストを天秤にかけた時に
材コストの方が重かったということでしょう
その差は何十円かもしれませんが量産ギターは何円単位でコスト計算しますから
手間が掛かったとしても総生産コストが安い方を選ぶのが当たり前です
しかしです。コストだ何だと言うとしみったれた話に聞こえますが
これを単に「材木節約」と云う事だけクローズアップすれば決して悪い事ではないハズです
むしろ私は「材木節約は良いことだ!」と大声で訴えます!!
当然環境保護の観点からもそう言えますし、例えばとても素性の良い材木があったとして
ヘッド角度付のネックを1ピースで木取ると2本しか取れないところを
スカーフジョイントのような方法だと3本取れるかもしれませんから
より多く良い製品を作り出す事が出来るからです
しかし、スカーフジョイントは接木する場所が悪かった…

材木を接木すると接着面を境に双方で別々な変形を起こします
これは一本の材木を2分割し再び同じ形に接木しても少なからず起きる現象です
これもクラシックギターのようにヘッドの中心辺りで接木していれば
たとえ変形が出てもヘッドが少し反るくらいで演奏上は何ら影響しませんが
スカーフジョイントの場合、上図のように指板下で接木をされている為
変形が起きると演奏上支障をきたす部分が変形してしまうわけです
上図にマウスポインターを合わせてみて下さい
これは分かりやすくするためにかなり大げさに表現していますが
このように接合部(指板上の矢印)を境に逆ぞりを起こす例が非常に多いのです
スカーフジョイントの場合は上の加工工程解説図のように
ヘッド部を上下裏返して貼り付けますし、「ネック折れしにくい」と云う根拠になる木目の向きが
ヘッド部とグリップ部の変形の仕方を変える原因となりこういった現象が起きやすくなります
こうなると2フレットに対して1フレット、ナットが低くなり
1フレットや開放弦でビリつきが出るようになります
普通の逆ぞりであればトラスロッドで調整する事が出来るかもしれませんが
トラスロッドはこの様な局部的な反りには対応できませんから
修理するには指板修正するしかありません
これがスカーフジョイントの問題点です
先にも述べたように私は材木節約には大いに賛成です
その私が見て感動したのはテイラーのこの接合方法…

よ〜く見て下さい
ナット真裏辺りでギアが噛み合った様に接木されているのが分かりますか?
フィンガージョイントと言われる両手の指を組み合わせたような接合方法で
木製の引き出しの角などの接合に良く使われる接合方法ですが
接合面積を多く取る事が出来、強固な接合面を作る事が出来ます
しかもタイラーのネックの場合かなり細かくフィンガージョイントされており
かつ隙間などは全くありません!
ここまでビシッと接合されていればココから外れると云うことはまず無いでしょうし
接合位置もナット裏辺りで接合変形が出ても影響も少ない場所で接合しています
(「しかしテイラーにはすごい職人がいるもんだなぁ〜」と思ったあなた
これをした職人さんはロボットさんです
テイラーは高度に機械化された設備を持っておりその精度は驚くばかりで
ネックのボルトオンジョイントなんかは外してみてその精度に感動〜!)
ここまでちゃんとやっていれば「材木節約」をポジティブ要素に出来ると思うのですが
この手法を取られているのはテイラーでも下級機種(中級から下かも?)のみで
上級機種は1ピースネックで作られています
やっぱり高い機種を買うような人には「材木節約」という事を
良いように理解できないと云うことでしょうか?
「1ピースじゃないと音が云々…」とか言うんでしょうねぇきっと…(^_^;)
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