ご質問箱


 ご質問箱続き


4月30日のご投稿B
Q:「ネックのソリ調整」について、踏み込んだ解説をいただければと思います(調整の方法、メリット、怖さ、意図的な調整の効果など)
A:「踏み込んだ」ですか…難しいですねぇ(^_^;)
まずネックの反りとは?と云う所はググってもらえばいくらでも出てきますのでここでは割愛させて頂きますが、踏み込んだ解説をしますと「反りの状態にも好みがある」という事があります
あまり多くはありませんがごく稀に結構大きく順反った状態が好みという方がいらっしゃいます
以前「どこの楽器店にメンテナンスを依頼しても必ず気に入らないセッティングになって帰ってくる」と仰られるベースのお客様が来店されました。あっちの楽器店に持って行ってもこっちの楽器店に持って行ってもダメでと、楽器店を転々と回られて全部ダメで、結局自分でトラスロッド調整して弾き易くしていたそうです。で、やっぱり楽器店ではダメかと初めてリペアショップに持ち込まれたのが当店でリペアマンと直接話をするのも初めてだったそうです
当店では1時間以内で出来る作業であればカウンター越しにその場で修理作業させて頂きますのでこの時もその場でまず状態のチェックをさせて頂いて、ネックがかなり反っておりましたのでトラスロッドを調整して反りを修正して、弦高の好みをお聞きして弦高を調整させて頂きました
で、その場でお渡しして試奏していただいたところ、「ダメです、これだと弾き難い」と。
ベースの場合、やや順反り気味の方がビビりが出難く音のメリハリも出やすいので特に指定が無ければまずやや順反り気味に調整してそれを試奏して頂いてお客様の感想に合わせて微調整します
ですのでここでダメ出しされるのは普通にある事ですのでこれで弾き難いと云う事はもう少しネックを真っ直ぐ方向になる様にと再調整してから再度試奏して頂いたところ、「さっきよりも更に弾き難くなった」と…
ん〜??「ひょっとして、今ここで調整させて頂いてからよりも持ち込まれる前の状態の方が弾き易かったですか?」とお聞きした所、「はい」と。
「ひょっとして〇〇さんはネックが順反った状態が好きなんじゃないですか?」とお聞きすると「え〜!?そうなんですか!?」とかなり驚かれました
このお客様は自分は順反ったネックのセッティングが好きであると云う自覚が無かったようで、みんなこんなセッティングで弾いていると思っておられたようです
どうりでどこにメンテナンスに出してもダメな訳です
楽器店にメンテナンスに出すと「はい、メンテナンスですね」と好みも聞かずに受け付けて、楽器店のリペアセンターや外注の修理店に引き継ぐだけですので、引き受けたリペアマンも一般的なセッティングにするしか術がありません
ですので今回の様に反っていれば修正して返すしか無いので今までメンテナンスしたリぺアマンの腕が悪かったわけでは決してありません
どんなに腕の良いリペアマンでもこう云ったケースの場合、お客様と対面して会話しないと分かりようの無い事なんです

かなり順反った状態がお好みであることが分かりましたので今度は調整前の大きな順反りの状態に戻して試奏して頂いたのですが、その好みの反り具合と云うのがかなりストライクゾーンが狭いと言うかピンポイントな様で、調整しては弾いて頂いて、調整し直しては弾いて頂いて、を繰り返すのですがストライクゾーンを外れて行ったり来たり…
幸いこのベースはミュージックマンでネックを外さなくてもトラスロッド調整出来る機種でしたのでまだ良かったですがそれでも1時間ほど行ったり来たりを繰り返した挙句ギブアップしてしまいました。
始めにいつもご自分でトラスロッド調整されているとお聞きしていましたので情けないんですが「申し訳ございませんが他人の私にはストライクゾーンが分かり兼ねますので後はご自分でお願いできますでしょうか?」とギブアップさせて頂いたんです
これを読まれている方は「無責任じゃないか!」と思われるかも知れませんが
1時間近く四苦八苦してもトラスロッド調整はトラスロッド調整、頂くお代は1,000円です。勘弁してやってください(土下座

ごく稀な事ですがこの様な方もいらっしゃいますので、これからご説明するトラスロッドの調整の仕方はあくまでも手順でしかありませんからあえて「どの様であればベスト」と云った様な確信を付く説明をする事は致しません
迂闊に何がベストだ!なんて言ってそれに当てはまらなかった人に「O2Factoryは偉そうに言うくせに全然わかってない」とか言われたくないですから
先ほどのエピソードのお客様もどこにメンテナンスに出してもむしろ弾き難くなって帰ってくるので「日本のリペアマンはどいつもこいつもアカンわ」と思われていたそうです
ちなみに日本のリペアマンは世界的に見て優秀な方だと思います
少なくともアメリカのリペアマンよりは優秀な人が多いと思います
最近「日本人は凄い!」と外国人を連れてきては言わせて悦に入っているテレビ番組が目立ちますが、あれも気持ち悪いですがギターの世界では日本はアメリカより下と云うよく分からない自虐(と云うかそういう風に言う人は自分が日本人である事を忘れてるんでしょうけど)もこの業界に長らく居て悔しく悲しい思いにさせられます

毎度エピソードトークが長くて申し訳ありませんがここからやっとトラスロッドの調整の仕方をご説明いたします
一般には「トラスロッドは素人は触ってはダメ」と言われると思いますが、私はいつも出来ればご自分で出来るようになって下さいと言っております
ではなぜトラスロッドは素人は触るなと言われるかと云うと、トラスロッドが効かない構造だったり、トラスロッドの調整代(ちょうせいしろ)が無くなるまで締まり切っていて、調整ナットが固くて回らないのを力任せに回わそうとしてトラスロッドを折ってしまう事があるからです
トラスロッドを折ってしまうと一般的にはトラスロッド交換となり当店では10万円以上の工賃が必要になります
この様な危険性があるので触るな!と言われるのですが、であれば折らない様に節度を持ってチャレンジしてみれば良いのです

ネックは気温や湿度で狂いが出て反ります
その感度は同じメーカーの同じ機種であっても個体差があり、多少の湿度変化でも全然状態が変わらなかったり、雨が降っただけで状態が変わる物もあります
一般的に乾燥すると順反りに、湿度が高いと逆反りになる傾向にありますが、私が今まで調整したギターの中では1週間以内に酷い順反りからローポジションで音が出なくなるほどの酷い逆反りに転じた個体もありました
この様に感度の高い(狂い易い)個体はその都度自分で調整出来るようになっておかないと下手をすると数日おきにリペアショップに出向かないといけない事になってしまいます
ただ、ヴィンテージフェンダータイプの様にネックを外さないとトラスロッド調整出来ない構造であったり、弦を緩めないと調整出来ないような楽器の場合は残念ながら一般の方にはトラスロッド調整は難しくなりますので経験のあるリペアマンにお任せされた方が良いかも知れません

まず、トラスロッド調整に取り掛かる前にネックの現状を知る必要があります
現状を知るという意味では「別に今どっかでビビりが出る訳でもないし弾き難い訳でも無いんでネック調整する必要は無い」と思われる方も現状があなたにとってベストなんであればどう云った状態が自分にとってベストなのか知る機会になると思います

ネックの反りを見る時にヘッドから、もしくはギター(ベース)をひっくり返してネックを覗き込み、ネックのサイドのラインを見ると云う方法がありますが、いったいネックサイドのどこを見るのか分からないし見ても反っているのかどうか分からないと言われるが多くいらっしゃいます
そう云う方に簡易的にネックの反りをチェックする方法があります

画像の様に片方の手で1フレットを押さえ、反対の手の小指で最終フレットを押さえて指板中央辺り(レスポールの場合12フレット付近)での弦とフレット頂点の距離を見ます。弦とフレットの隙間が開いているか良く分からない時は画像の様に、手を大きく開いて人差し指をできるだけネック中央寄りに伸ばして弦をピンッピンッとタップしてみて弦動くかどうか確認してみて下さい
この時ほんのわずか(コピー用紙1枚程度)に弦が動くことが確認出来る程度であればネックはほぼストレート、反りほぼ無い真っ直ぐに近い状態です
低い弦高が好きな方はこの状態が良いと思います
人差し指でタップしなくても分かるくらい弦とフレット頂点の距離が離れている場合は順反り
反対にタップしても弦が全く動かない場合は逆反りしています
これを1弦と6弦でチェックしてみてください

もし弦高が高くて押さえ辛いなぁ、とかミドル〜ハイポジションでビビりがあると感じていてこのチェックで弦とフレットの距離が遠かったらならネックの順反りがそれらの原因の一つですので順反りを修正すれば解消されます

もし、ローポジションでビビりが出ていて、弦高を上げても直らなくて、上のチェックをしたら弦とフレットが接触してタップしても動かなければネックは逆反っていますので逆反りを修正すれば解消されます

今が自分にとってベストな状態だ、と思われる方は上のテストでの弦とフレットの距離がどれくらいあるのか記憶しておいてください
そうすればネックが動いて押さえ難くなったり、ビビりが出た時にトラスロッド調整で元の位置に戻す事が出来るようになります
ただ両手が塞がっているので弦とフレットの距離を定規で測って数値化するのが難しいので目視の感覚で覚えるか、誰か他の方に手伝ってもらうかする必要があります

また、これを1弦と6弦でチェックした場合、弦とフレットの距離が1弦と6弦で違う事が多々あります
むしろ全く同じの事の方が少ないくらいです
この場合はどちらかが逆反りにならない様にして置くのが無難です

これが簡易的にネックの反りを見る方法なのですがこの方法には欠点がありまして、ネックが波打ちしていたり腰折れ(ハイ起きとも言う)を起こしていた場合はこの方法だと正確にネックの反り状況を判断出来なくなります
(ネックの波打ち・腰折れとは何ぞやと思われた方、すいませんググって下さい
ここで書くと更に長文になってしまいますので…)
ですので、一度はリペアショップでネックを見てもらって波打ちや腰折れが無いかその個体の癖を把握しておくと良いでしょう

なお、アコギやフルアコはトラスロッドが利く範囲は1フレット〜ジョイント部分までですので、この場合片側の手で1フレットを押さえ、反対の手の小指でジョイント辺りのフレット(大抵のアコギは12か14フレット)を押さえてチェックしてください

ネックの状況を確認していよいよトラスロッド調整ですが、まず大事なのはトラスロッドを折らない事、折らない様に調整するにはどうしたら良いかですが

トラスロッド調整ナットに専用パイプスパナをしっかり奥まで差し込んだら画像の様に
指先3本でつまんで回してください
指先3本の力で回せるくらい軽く回るのであれば無理な力でトラスロッドを折ってしまう事もありませんので一般の方でも危険を冒さずトラスロッド調整をする事が出来ます
指先3本の力では回せないくらい固かった場合は無理せず諦めてリペアマンに任せましょう。くれぐれも無理は禁物です
「俺は指先でリンゴを潰せるぜ!」と云う怪力自慢の方は親指と人差し指の2本でつまんで回してください。その際気持ちは弱気で、くれぐれも負けん気は発動しない様に!

スパナを回す方向ですが順反りがあった場合はトラスロッドに向かって時計回りに回せば順反りが修正され、逆反りがあった場合は反時計回りに回せば逆反りが修正されます
逆反りがあって反時計回りに回しても逆反りが直らず、どんどん回して行くとトラスロッド調整ナットが空回りしたと云う場合は残念ながら逆反りが酷くてトラスロッドの調整範囲を越しても直らない状況ですのでリペアマンに相談された方が良いでしょう

ひとつ注意点ですが、ごくごく稀に上記の逆方向にトラスロッドが利く物があります
フェンダーやギブソンで逆の物に出会った事はありませんが、個人工房の物やワーウィックの一部の機種で逆回りだったことがありました
調整しようとする楽器が珍しい物であった場合は念の為、どちらに回せばどちらに利くのか確認した方が良いでしょう

スパナを回した時のネックの動き方・反りが修正される量と云うのはその楽器のトラスロッドの形式や仕込み方により変わりますので、一度にどれくらい回せば良いのかは楽器によって違いますが、どっちにせよ画像の様に弦が邪魔になって一回に回せるのは30度ほどに限られます
もし軽く回るようでしたら初めの1回目は一気に30度回しても良いと思いますが、一度回したら反りがどれくらい修正されたかを確認して2回目からは微調整するように回して行けば良いと思います

トラスロッドを調整する時、弦を緩め無いとダメと言う人がいますが、調整ナットが軽く回るのであれば弦は緩める必要ありません
弦を緩め無いといけないのは調整ナットが固くて回り難い時で、この場合弦の張力が掛かったままだと順反り方向に弦の張力が加わりトラスロッドに負担となって、場合によってはトラスロッドを折ってしまうかも知れないからですが、そもそもここでは指三本の力で軽く回す事が出来る場合の調整方法をご紹介しておりますので弦を緩めないといけないくらい固かった場合はご自分で調整しない事です

スパナで無く六角レンチで調整する楽器もあります

これはマーチンタイプのアコギですがアコギはサウンドホールから六角レンチを差し込んで調整する物が多く、エレキもフェンダーのヘッド側にトラスロッド調整穴があるタイプは同じく六角レンチを穴に差し込んで調整しますが、この場合も要領は同じでレンチをしっかり穴の奥まで差し込んで指先3本でレンチをつまんで回してください

このタイプで特に注意が必要なのはフェンダーアメリカンスタンダードシリーズなどの細い六角レンチを穴の中に差し込んでトラスロッドの調整ナットを回すタイプで、このタイプは調整ナットの六角穴と六角レンチがしっかり噛み合っているか確認し辛い上に、付属の専用レンチを無くしてしまうと一般のインチ六角レンチでは長さが足りず調整出来なくなる事があり、また調整ナットの六角穴がなめ易いのに構造上簡単には調整ナットの交換が出来ませんので十分に慎重な作業を求められます
またそのギターが中古品であった場合は前のオーナーが六角穴がなめる寸前にしてしまっている事もありますので、あなたがトドメをさしてしまう可能性もあります
正直私でもアメスタのトラスロッド調整はドキドキしますし、差し込んだ六角レンチがグラグラ左右に遊ぶような時はかなり六角穴が痛んでなめる寸前である兆候ですので状況を説明して調整をお断りする事もあります

トラスロッドを回す方向をトラスロッド調整ナットの位置によってまとめさせて頂きます

ヘッド側で調整するタイプ(ギブソン、フェンダービレット、フェンダーアメスタ、テイラーなど)
スパナ又はレンチを差し込んで
6弦側に倒せば(回せば)順反りが修正される
1弦側に倒せば逆反りが修正される


ネックのボディ側で調整するタイプ(マーチンなど多くのアコギ、ミュージックマンなど)
スパナ又はレンチを差し込んで
1弦側に倒せば順反りが修正される
6弦側に倒せば逆反りが修正される

差し込んだスパナやレンチの倒す向きがヘッド側とボディ側の時で逆になりますが、トラスロッドの調整ナットを先端から見るようにした時に時計回りか反時計回りかと云う見方では同じ事になります

トラスロッド調整の裏ワザとして、ほとんどのアコギにはエレキの様に弦高を調整する機能がありませんので簡単に弦高調整出来ませんが、初心者の方など今はまだローポジションのコードしか押さえる機会が無くて、弦高を下げる為のご予算が無いと言われる場合はわざと逆反りに調整して差し上げる事があります
この場合ローポジションはグッと弦高が下がりますがミドル〜ハイポジションの弦高はあまり下がりませんので、課題曲が簡単な間のその場しのぎである事をお伝えした上でそうさせて頂きます
この方法は極端に弦高が高い場合にのみ使える裏ワザで元の弦高によってはローポジションにビビりが発生する事がありますし、トラスロッドに負担をかけて逆反らせますので一般の方はご自分の判断で真似しないようお願いします
真似してトラスロッドを折っても責任は負えませんので悪しからず



前回の終わりで次回はトラスロッドの調整方法に関してお答えしますと書きましたが、前回の回答がイラストを書いたり長文だったりで疲れてしまったので今回はサラッと書けるご質問に変更させて頂きます
楽しみにしていた方はごめんなさい
4月30日のご投稿A
Q:デッドポイントの解説をして頂き、大変参考になりました。
人から聞いた話しですが、ギターは構造上、6弦4フレットがデッドポイントで音が伸びないと言われました。自分で試してみたら、音が若干詰まったように思えるのですが、これは本当でしょうか?
矢継ぎ早ですみません。関連した質問ですが、ギターを試奏するとき、「ここが大事!」というポイントは何でしょうか?また、岡村さんが試奏するとき、どんなフレーズを弾いていらっしゃいますか?
ぶしつけな質問ですみませんが、よろしくお願い致します。
A:まず6弦4フレットのデッドポイントの方ですが、実は私このポジションでデッドポイントを感じたことがあまりありません
と言うかたまたま私がそのポジションあたりであまりロングトーンを使う事が無かっただけなのかと思いますが…
私の愛器トーカイレスポールで確認してみましたがそこにデッドポイントは感じませんでした
私がほとんどのギターで感じるデッドポイントの位置は一番下のご質問の回答にも書いておりますが3弦の12〜14フレットあたりで、私のトーカイレスポールでは3弦13フレットにデッドポイントがあります
で、3弦13フレットと云うとG#…
そう!6弦4フレットもG#ですよね!
ギターはこの辺りの振動周波数で振動干渉を起こす傾向にあるんだと思います
私のトーカイレスポールでは6弦4フレットでデッドポイントを感じなかったのは、元々このレスポールはボディ・ネックがあまり振動しない個体で3弦13フレットのデッドポイントも比較的出方が軽い為、6弦では感じるほど出無かったのではないかと思います

次にギターを試奏する時の「ここが大事!」についてですが、あります!
すごく大事なんですが、すごく難しい事が!
それは「平常心」です!!!!
ギター好きの皆さんは楽器店に行くだけで興奮してしまいませんか?
まして「よし!今日は買うぞ!」と意気込むだけで興奮レベルが5くらい上がるでしょ?
で、実際にギターを手に取った時、更に興奮レベルは5上がってもう判断力はレベルマイナス10!
楽器店で「これめっちゃイイ!」と興奮して買ったギターが家で弾くとそうでも無かったなんて経験したことは無いですか?
なので、ギターを試奏する際に一番心掛けるべき事は「平常心」だと思います
だけど、興奮するな!なんて難しいですよねぇ、出来ないですよねぇ〜
そこで判断力を出来るだけ正常に保つ方法としては、これはアコギでもエレキでも同じ何ですが、いつも使っているギターを持って行って購入候補と比較しながら試奏する事です
これは音の点でもそうですし、弾き易さの点でもそうですが比較対象がある事で判断基準が定まりますので失敗し難くなると思います
例えば購入候補の楽器はいつも使っている楽器の不満点を補えているか?もし補えていないのであれば購入する意味がありません
また今使っている楽器とは方向性の違う楽器が欲しい場合はどれくらい方向性の違いを感じるか?あまり感じなけれ購入する意味がありません
失敗したく無いのであればこの様に減点法で比較すれば冷静を保てると思います

更にエレキの場合は出来ればいつも使用しているアンプを持っていく事です
エレキの場合、楽器とアンプの相性も重要になります
アンプの個性はメーカーや機種により大きく異なりますから、店頭の試奏用アンプといつもお使いのアンプが全く違うタイプであった場合、判断にズレが起きる可能性が大きくなります
普段、アンプシミュレーターでヘッドフォンでしか使用しない方は見得張らずにいつも通りの機材を持って行ってヘッドフォンで試奏するのもアリでしょう

冷静を保てている状態で閃きに近い「ハッ」とするような感覚を感じたのであればそれは買いだと思います
実のところ、私自身20年以上楽器店でギターを購入していません
そもそも今持っているギターはエレキが2本にアコギが1本で一番最近買ったギターは10年くらい前に楽器店の下請け修理で入ってきたシグマのOOOタイプで、これは楽器店が下取りで買い取ったギターのネックに問題があったので当店で修理してから店頭販売するつもりだったのを修理が終わりサウンドチェックした時に「ハッ」っとしたので楽器店にお願いしてこちらに売って頂いた経緯があります
もちろん価格もお手頃でしたので(^^)
これって一般の方には全く当てはまらない状況で全く参考にはならないと思いますが、私はギターやベースに触れるのが仕事で日常です。ちょっとやそっとのギターやベースでは興奮しません
モノホンの'59バーストのフレット交換をした時は興奮どころか恐怖しかありませんでした。時価20,000,000円の代物ですから(^_^;)
作業自体はこれの1,000分の1の価格のギターと何ら変わらないし意気込みも同じなんですが万が一盗難されたりしたら家を売る羽目になってしまうので。
ま、保険に加入してから持ち込んで貰いましたがそれでも怖いですよ
無事仕上がってサウンドチェックをした時は安堵したからか冷静にサウンドチェック出来ましたが。
この様に私はギターに対して常に冷静ですし冷静で無いと大事なところを見落としてしまいますので冷静で居るよう心がけていますが本当に稀に数年に一回あるかどうかの確率で「ハッ」とする事があります
そう云った理屈や事前知識とはかけ離れた「感動」を感じたらそれは買いだと思います
もちろん予算も絶対条件になりますが。

あと弾き易さに関しては割と後からでも何とかなりますので、弾き易いけど音がもう一つと思う楽器と弾き難いけど音はイイ!と思う楽器で迷えば音が好きな方を選ばれた方が失敗し難いと思います
ただ、ネックが好みよりも太い場合は削れば細くする事が出来ますが、好みより細い場合は太くする事は出来ませんので注意してください
ただし、ネックグリップを細くする事は出来ますが大きく削るとトラスロッドが露出してしまうかも知れませんし、あまりに太さが変わるとネックの振動の仕方が変わり結果、音も変わってしまう可能性がありますので好みより極端に太いと思われた場合は候補から外した方が良いでしょう

それから私が試奏する時どんなフレーズを弾いているか?ですが、まず人のフレーズは意味無くて、それこそ「平常」。ご自身が常日頃弾いているフレーズをいつものように弾いてみるのが良いでしょう。その上でいつもより感動を感じられたら買う価値があるかも知れません
普段ハードロックしか演奏しないのに楽器店の店主がブルース推しな雰囲気を醸し出してるんで日和ってブルースフレーズ弾いたりしても意味ないですよ
私が修理前後のサウンドチェックをする時、まず弾くのはオープンコードのEです
ウチの常連さんならもうお気づきかも知れませんがこれワンパターンです
でも、件のシグマのアコギはこの「E」一発ジャーンで「ハッ」っとしたんですから本当に直感的に感動出来る楽器は「E」一発で感じるもんだと思います
それにEには意味がありまして開放弦で入念にチューニングした上でEをジャーンで気持ち悪ければどこかに問題がある事が分かります
続けてG、D(5,6弦はミュートせず)と弾いて気持ち悪かったり、押弦し難い感じがすればナットの弦溝が高い事が予想されますのでナットのチェックをします
オープンコードは押弦した弦と開放弦が混ざりますのでナットの弦溝が高いと開放弦と和音にズレが出て気持ち悪い響きになります
E、G、Dと弾けば全弦で押弦と開放弦の組み合わせが完結しますので例えばE、G、Dと行ってGだけ気持ち悪ければ6弦の弦溝が高い事が予想されます
まぁ購入時の試奏でこれやって気持ち悪かったとしてもナットの弦溝調整で直す事が出来ますけどね。
後は、フレットの状態チェックの意味でペンタトニックの平凡なフレーズですね、演奏はヘタクソなんで(^_^;)
参考にはなりませんね
ではまた!


4月30日ご投稿@
Q:Fが押さえられない、綺麗な音が鳴らくて、才能がないと思って辞めてしまう人が沢山いるようですが、ギターを調整してもらうことで弾き易くなるのでしょうか?
A:初心者「あるある」ですよね
初心者で押弦する力やコツをまだ得ていないと云う事もあるでしょうが、以下の3点を調整する事で各段に弾き易くなり挫折しないで済むかも知れません
その3点は以下の通り
@ネックの反り
ネックが順反っていると弦高が高くなり押さえ辛くなりますのでまずネックが反っていないか確認します
反りが確認出来たらトラスロッドで調整すれば弦高は下がり押さえ易くなります

Aナット弦溝の高さ
多くの既製品、特に大量生産物のナットの弦溝は高めに切られています
これは製造時にナットの弦溝をヤスリで切る時にうっかり削り過ぎて低くしてしまうと開放弦でビビりが出てしまいそのまま出荷すると不良品になってしまうからです
「うっかり」が防げるマージンを稼ぐとナットの弦溝は高くなってします
ナットの弦溝が高くて押さえ辛いと云うだけでは明確な不良案件とは言い辛いですし、購入された方は「自分が下手だから押さえられないんだ」と思ってしまう事が多いと思います
また一部のメーカーでは予め弦溝が加工された樹脂製のナットを取り付け、弦溝の微調整をせずにそのまま出荷すると云う所もあります
この場合もナット取り付け部分の製造誤差から弦溝が低くなってしまわない様にマージンを取ってナットを取り付けられます
また、ナットは消耗品ですから使っているうちに摩耗して低くなりいずれ開放弦でビビりが出てナットの交換が必要になりますが、「新品なので寿命が短すぎない程度に弦溝を高くしている」と云った言い分もあるかも知れません
これは大いに一理ありますが、そう云った言い分も通じないくらい弦溝が高い物もあります
ちなみに「弦溝の高さ」を勘違いされておられる方がいらっしゃいますのでイラストで説明いたします

この様に弦がナット表面から飛び出している物を弦溝が高いとか、逆に深く入り込んでいる物を弦溝が低いと言われる方がいらっしゃいますが、これはナット表面の高さに対する高低であって本当の「弦溝の高さ」とはフレットに対する弦溝の高さの事です
弦溝の高さは以下方法で測ります

この様に3フレットを押さえた時の1フレット頂点と弦の距離が弦溝の高さを表します
この距離が遠い程、弦溝が高くなり押さえ難くなります
逆にこの距離が近い程、弦溝は低くなり押さえ易くなりますが、弦とフレットが接触してしまうと弦溝が低過ぎて開放弦を鳴らした時に1フレットに当たりビビってしまいます
通常は上のイラストの様に3フレットを押さえてから1フレットの上で弦をチョンチョン突いて弦がどれくらい動くかで微妙な高さをチェックしますが、一般の方では分かり難いと思いますので簡単なチェック方法をご紹介します
基本的には上のイラストのように3フレットを押さえると云う所は同じなのですが、この状態で1フレットと弦の間にコピー用紙(0.1ミリ厚)を差し込んでみて下さい

この様に。
これを1弦から6弦まで全弦でチェックしてみて下さい
この様にして、コピー用紙が1フレットと弦の間に抵抗無く入ってコピー用紙から手を離すとコピー用紙は挟まったままになれば初心者にとってはベストな弦溝の高さです
コピー用紙が入らなければ弦溝は低過ぎる可能性があります
ただ、この状態でも弾いていてビビりを感じなければそのまま使用しても大丈夫です
弦溝が低過ぎるくらいなのにビビらないのであればそれは極限の低さの弦溝高で、押さえ易さと云う点では極限に押さえ易い状態と言えます。が、そろそろナットの寿命が途絶える時期ですのでナット交換の為に貯金を始めた方が良いでしょう
ちなみに当店のナット交換工賃は工賃自体は5,000円、ナット素材代金が素材により違い400〜1,200円です。貯金するほどでもないですね(^^)
で、もし差し込んだコピー用紙がパタパタと上下に動くような場合は1フレットと弦の距離が遠いと云う事になります
あなたがFコードが押さえられなくて挫折しそうになっていたならこの様にしてチェックしてみて下さい
もし差し込んだコピー用紙がパタパタと動くようでしたらそのギターを弾き易く調整出来る可能性です
ナットの弦溝を調整しただけで楽々Fコードが押さえられるようになるかも知れません!
またまたちなみに当店でのナット溝調整工賃は1か所辺り500円ですので全部の弦でコピー用紙がパタパタしたのなら6か所で3,000円になります

「コピー用紙が挟まったまま抜けない」様な状態が“初心者にとってベストな弦溝の高さ”と書きましたがある程度弾けるようになって来て自分の好みが分かるようになって来ると少数派ですが高い方が心地良いと感じる方もいらっしゃいますのでその様に表現致しました
低い弦高が好きな方は初心者で無くてもナットの弦溝は低い方が弾き易い思います
リペアマンをやっていて感じるのですがセッティングの好みも人それぞれなんです
結構違うもんなんですよ
「ナットの弦溝が高いとピッチが悪くなりますよ」などと云ったデメリットはアドバイスさせて頂きますが、高くするか低くするかはプレイヤーの方ご本人の意思で決めてもらいます
リペアマンはそう云った演奏者の好みを尊重すべきだと思います

まだまだ続きますよ!
Bサドルの高さ調整
で、ネックの反り調整、ナットの弦溝調整、とやれば少なくともローポジションに関しては弾き易くるでしょう
ローは押さえ易くなったけどミドル〜ハイポジションになるとまだ押さえ辛いとなった時に初めてブリッジ側、サドルの高さ調整となります
この順序は大切で、弦高が高いと感じるとまずサドルの高さを調整しがちですが、サドルの高さ調整をする前に必ずネックの反りのチェックをして下さい。ネックが順反ったままサドルを下げて弦高調整するとミドル〜ハイポジションのどこかでビビりが出てくる可能性が大きくなります
ですので弦高を下げたいならまずネックの反りチェックして順反っていればトラスロッドで調整して下さい。ネックが順反っていると弦高が高くなりますので、順反りを修正するだけで弦高は下がります
「弦高調整はまずネックの状態ありき」です!
それでも弦高が高く感じるなら今度はナットの弦溝をチェックです
ナットの弦溝が高いままサドルを下げて弦高調整すると押弦した時に弦高が低くなり過ぎてしまいます

上図の太い黒線は指板、緑の線は開放での弦のラインの状態で、赤線は押弦した状態の弦のライン
@の図が元の状態で、Aはやりがちなサドルだけ下げて弦高を下げようとしたパターン、Bはサドルはそのままでナットの弦溝を低くしたパターン
赤矢印の部分が12フレットとして、元の弦高が例えばここで2.0ミリだったとして、これを1.5ミリにしたいと思ってナットはそのままでサドルだけ下げて12フレット上の弦高を1.5ミリにしたのがAの図です
Aのパターンの場合、開放状態での12フレット上の弦高はBと同じなのに、押弦時ではローポジションは元の弦高とほぼ変わらぬ高さなのにハイポジションでは異常に低くなり弦が指板に接近しているのが分かると思います
弦が指板上のフレットに近付き過ぎると弦が振動して振幅が発生した時にフレットに接触しビビりになります
一方Bの方はハイポジションでの弦と指板の距離はAと比べると十分余裕がありますので更にサドルを下げる事が出来、結果ビビりが出ない範囲でAの時よりも弦高を下げる事が出来るようになります
この様にナットの弦溝の高さは弦高を決める上で非常に重要な要素なんです

あと、初心者にありがちなのは肩に力が入ってしまって肝心な左手(右利きの人の場合ね)の手のひらに力が行かなくなってしまっているパターンです
その人が持っている力が10として肩に力が入ってそこで5の力が使われると手のひらの力は5以下しか入って居ない事になります
当店にご来店頂く初心者の方にもそう云った方が多いのですが、ギターの調整をさせて頂いた上で、「肩や腕の力を抜くように心がけて」とアドバイスもさせて頂きます
ギターを弾く時の姿勢も重要で、女性の体が小さな方などはギターを抱えた時にギターが大きすぎてネックが体から遠くなり、右ひじがボディの一番幅広いお尻の所に掛かると弦に手が届きに難くなりピッキングもし難くなります
そう云った時は女性だからと恥ずかしがらず足を広げてギターを抱えるようにとアドバイスします
そうするとネックが体に近くなりますし、右ひじはボディの「くびれ」部に近くなってボディの幅が狭い所で右腕をストロークさせる事が出来ますので演奏が楽になります
店頭でお客様と対面しているとそう云ったどこか無理があると言うか楽に弾けていない何かに気が付く事が良くあります
ベテランの方にそう云う事をアドバイスするのは失礼かと思いますので思っても口には出しませんが、初心者の方にはそう言いう機会が良くあります
次回は今回書き切れなかった「DIYトラスロッド調整」について書かせて頂きます


4月29日ご投稿(この下のご質問を下さった方が回答を読まれた上で追加のご質問です)
Q:シムを使って後から調整するビジネス的なフェンダー usaの考え方と日本人楽器職人の美学を両方わかりました。
フェンダーカスタムショップのビルダーさんも職人的なのでしょうかね?

A:フェンダーカスタムショップのマスタービルダー機種で興味深い物見た事があります
マスタービルダーモデルはビルダーによって細かく仕様が違う様でジョイントの加工もそれぞれのポリシーが反映されているようで、私自身沢山のマスタービルダーモデルに触れた訳では無く、限られた数ではありますがネックを外す機会はありました
その限られた数の中での経験ではありますがそのほとんどはジョイントがキツキツでネックを外すのに非常に気を使いました。と云うのはジョイントのきついネックを外す時に迂闊な作業をするとジョイント部分縁(フチ)の塗装を欠けさせてしまう事があるからです。この様にジョイントがキツキツでネックを差し込んだらそのまま持ち上げても抜けない事を自慢しているマスタービルダーの記事を見たことがありますが、実はキツキツに仕上げる事は簡単な方なんです。本当に難しいのはネックがジョイントポケットにスッと入ってスッと抜ける様に加工する事で、最も精度良く仕上げる時の基準としては上記の様にスッと入ってスッと抜けるのにジョイントポケットの側面にコピー用紙(0.1ミリ厚)を当ててネックを差し込んだらネックを少し持ち上げたくらいでは外れなくなる。と云う様な状態です
つまりネックとジョイントポケット側面の隙間を0〜0.1ミリ内に仕上げる技術と云う事になります
PGMに居た時に社長の乳井さんから聞いた話ですが、昔に一緒に働いていた職人さんがジョイントをキツキツに仕上げて「微生物死んじゃうよ!(真空なくらい隙間が無いと云う事らしい)」と自慢していたらしいのですが、乳井さん曰く「微生物死んじゃダメなんだよ!」と(^_^;)
ほんの少しの隙間が無いとトラスロッド調整などネックを外す必要になった時にジョイント縁の塗装を欠かせてしまう危険が出るし、梅雨時などの多湿時期のネック膨張でボディのジョイントポケット側面に過度な圧力が掛かるとジョイント側面辺りの塗装にヒビが入るのでキツキツに仕上げてはダメと乳井さんは仰っているのです
また音に関して左右のジョイント側面の密着度は重要で無くて、重要なのは底面と側面でもトラスロッドがある方の側面の密着度だと仰っています

上の画像、青丸で囲った部分の密着度はさほど音には影響無くて、赤丸で囲った部分の密着度は音に影響すると乳井さんは仰っている訳です
(亀マークが重要と言っている訳では無いですよ!念の為)
なのでジョイントがきつくてネックが外れないのは意味が無くてむしろデメリットがあると云う事です
私も概ね同意見ですが、わたくし修理専門のリペアマンとしましてはこの下の4月28日ご投稿の回答に書かせて頂いた通り、この部分の密着度で音が変わったとしても結果論で良し悪しでは無いと云うのが私の考えです
ここは製造と修理専門の違いで製造は送り出す製品に責任がありますので自分の所の製品に「方向性」が必要になります。その方向性に共感を感じた方がファンとなり購入層となりますが、お客様が持ち込まれた楽器を修理する修理屋としては楽器の方向性よりもお客様(プレイヤー)の意向が重要になります。ここでは私(修理屋)のコダワリとか大きなお世話でしかありません。だって持ち込まれた楽器は私が弾く楽器では無くてお客様が弾く楽器だからです。修理屋の好みなんてどうでも良い。
ですので私はお客様の楽器を評価したりする事は致しません。時々「このギター、リペアマンの目で見て良いギターですか?」と聞かれる事がありますが、ネックの状態など機能に関するところは客観的にお話しさせて頂きますが音に関する事は主観が入ってしまいますので評価する事はお断りしております

おっとまた話が主題から大きく逸れてしまいましたね(^_^;)
ここまでお読みの方も元々の主題をもうお忘れかと思いますが、フェンダーカスタムショップのあるマスタービルダーの製作したギターのジョイント部分に興味深い事があったと云う事を書こうと思っていたんでした
そのマスタービルダーの名前はもう忘れてしまいましたが、そのあるビルダー製作のギターのネックを外したらジョイントポケット底面(上の写真の亀の部分ですね)に塗装がこんもり乗ったままだったんです!
確か50万とか60万とかするギターですよ!
数は多くは無いけれど、今までネックを外したことがあるマスタービルダーモデルは上にも書いた様にネックがなかなか外れないくらいにきつくて、ジョイントポケットの内側の塗装は綺麗に削り取られてボディ材の生地見えていました
しかし件のジョイントポケット塗装こんもりのギターが作りが悪いとは単純に思えなかったんです
と云うのはこのギターのネックはトラ杢がびっしり入っているにも関わらずトラスロッドもしっかり利き代があり、トラスロッドを調整してやると見事なほど真っ直ぐになり、USAフェンダーではあまり見たことが無いほど機能的に良く出来たネックだったんです
フレットの仕上げも綺麗で、これだけ出来るビルダーがジョイントポケットの塗装を削るのを面倒臭がるか?と疑問が湧き立ちました
ここからは私の単なる推測になりますが、ひょっとするとこのビルダーは意図してジョイントポケットの塗装を残したのでは無いかと。
私は予てからフェンダータイプのギターはキッチリ作り過ぎるとフェンダーの音から遠のいて行くと感じておりましたが、演奏性に影響するネックの作りやフレットの仕上げを高品質に仕上げながらも、USAフェンダーのラフな部分をあえて残してフェンダーらしい音を残したのでは無いかと思ったのです
これは私のホントに単なる推測に過ぎないのですが、みなさまはどう思われます?
弘法にも筆の誤り・河童の川流れでたまたま削り忘れて組み込んでしまったとか?


4月28日ご投稿
Q:ネックの角度調整のシムについての質問です。
弦高調整の為にフェンダーUSA製のギターにシムが入っている事があります。
[鳴り〕が悪くなるからつけない方が良いとも聞きますがどうなんでしょうか?
そもそもギターの「鳴り」とはなんなのでしょうか? 
シムのメリットはわかりますが、デメリットはなんなのでしょうか?
A:鳴り…何なんでしょうね(苦笑
ピックアップの付いていないアンプを通さない純粋なアコギであればボディの響き・音量となるのでしょうが、これがエレキとなるとどうもよく分からないんです
たぶん大多数の人はエレキギターにおいてもアコギ的なボディの振動・響き・響きの音量の事を言っているんでしょうが、中にはネックの振動もそれに含めている人も居ますし、弦が「シャーン」と鳴る音が大きいのを「鳴りが良い」と云う人も居て、正直「鳴り」が何を指しているのか良く分からないんです
実際に対面してギターを弾いてもらい、そのギターに対して鳴りが良いとか鳴りが悪いとか言ってもらえば「あ〜ボディの響きが気に入っているんだな」とか「これは弦の振動の仕方が悪いんだな」とか分かりますが、対面せずに文章だけになるとそう云った判断が出来ないのです
先ほど大多数の方はエレキにおいてもアコギ的なボディの響きを「鳴り」と呼ぶと思うと書きましたが、当店に「鳴りが悪い」と修理に持って来られる方のギターをチェックさせて頂くとサドルやフレットの状態が悪いと云う事が少なくありません
ずいぶん前に書いたコラム記事「サドルのアタリ」という記事の様な例です
(そのメカニズムは「サドルのかたち」と云う記事にしてあります)
この場合、ボディの響きでは無く弦の振動が悪かったのを「鳴り」が悪いと言って修理ご依頼頂いた訳で、仮にこの時このギターのジョイントにシムが入って居たとして「鳴りが悪いのはシムが入って居るからだ」とシムを抜いてボディのジョイントポケットを角度付けて削って仕込み角を修正して…なんて手の込んだ修理をしたところでサドルの問題がそのままでは問題解決には成らないんです
この様に「鳴り」という文字だけだったり、対面していても楽器無しで言葉だけだったりではその方の言う「鳴り」が何か分からないんです

シムについてですが、私が以前所属していたギター工房や当店のオリジナルブランドで製作していたギターやベースではシムを入れた状態で出荷した事は一度もありません
なぜシムを入れなかったのか?PGMの時はそれは社長である乳井さんの意向と言えますし、ハイエンドギターズのミュージックマンEXシリーズの時やO2Factoryオリジナルブランドの時は私の単なる意地です。「職人の意地」って言うんでしょうかね
音がどうのと云うよりは「製品の高精度の主張」と云う意味の方が大きく、要するに技術を持った職人が作ったと云う事を証明する為にシムを入れたくなかったんです
実際、ハイエンドギターズでAXIS EXを製作していた時(正確には後期の検品のみの時期)はシムを入れたくなる事はありました、と云うのはAXISはサドルで弦高調整出来ないフロイドローズタイプをボディにベタ付けにしているので弦高調整の調整代が12フレット上で±0.5ミリくらいしか無いんです
でも意地があったので規定弦高に合わせる為に鑿(ノミ)を駆使してジョイントポケットを削って仕込み角調整していました
この辺りの事情は後日コラム記事にしたいと思っております

で、ジョイントにシムを挟むデメリットですが「鳴りが悪くなる」と云う説がありましたが、まぁそう云う事もあるかも知れませんが要は結果論だと思います
例えば、70年代のフェンダーなんかはジョイント幅はネックと合っていなくてガバガバでジョイントポケットの底面は塗装が乗っかって凸凹でジョイントポケット底面とネックの底面は接触している所よりも接触していない部分の方が大きいんじゃないか?と思う様な個体が多いですし、ましてこの年代のマイクロティルトで仕込み角調整したらそれこそほとんど接触部分が無くなってしまう訳ですが、当時こう云ったギターでレコーディングされてヒットした曲も多いと思います。私は70年代洋楽が大好きで、70年代こそ洋楽の黄金期だと思っていますが、そんな私がいまだに毎日の様に聴き続けて、いまだに毎回「あ〜良いなぁ〜」などと思って居るそんな曲の中にも70年代の雑な作りのギターでレコーディングされた曲が必ず入っているはずです
雑な作りのギターで奏でられた音を、もう40年以上ずっと飽きずにいつ聴いてもやっぱり良いなぁと思う人間が私以外にもいらっしゃると思います
そんな方のお持ちのギターにシムが入って居て、これでは「鳴り」が悪くなると思って外して代わりにジョイントポケットを削って仕込み角調整をしたら好みの音で無くなった。などと云う事もあるかも知れません
ジョイントにシムが入る事で「鳴りが悪くなる」と云う説が正しかったとしても結果的にそうだった方があの70年代の雑な作りのギターで奏でられたあの曲のギターリフ、あの曲のギターソロの懐かしくワクワクしてしまう様な音になる可能性だってあります
定説はどうであろうが結果として自分の好みであるか無いかなんです
シムが入って居る時と、入って居ない時、どちらの音が好きか、もしくは違いを感じないか。

何の世界でもそうだと思いますが、マニア同士の会話では「正義」を定義付けないと盛り上がらないと云う事があると思います
「これが正義だ!」と盛り上がっている所に「いやいやそれは個人の考え次第でしょ!?」なんてカットインしたら途端に非難轟々大炎上です
ましてネットなどでお互いの「良い」を理解しないまま、文字上でコミュニケーションを取るような環境では誰かが言った「良い」か、昔から言われている「良い」に乗っかるのが傷つかず楽しい事になるのでは無いでしょうか?
リアルな世界では自分の「良い」をそれぞれ個人でちゃんと見つけられれば良いなと思いますし、逆に見つけられなくてもそれはそれで良いと思います
何が良いか分からなくても良いじゃないですか?「ギターを弾いていて楽しい」ただそれだけって一番良いと思うんです
ギターの修理屋がこんな事言うのは変かも知れませんが、思う音が出なくて気になってギターを弾くたびにそれが気になって、なんかもうギターを弾くたびにストレスを感じる。なんて事よりもギターを弾き始めた時の、ギターの事は何も分からないけど、弾いてるギターは入門者向けの安物だけど、ギターを弾いてるだけで楽しい!って時の方が幸せだったと思うんです
実経験で無い知識をネットなんかで覚えてそれこそ人の言う「良い」に惑わされて何が何だか、何が正しいのか分からなくなってとりあえず人の「良い」に合わせれば幸せになると思って、でも何かモヤモヤして…。ならば何にも知らない方が幸せなんじゃないかなぁ…などとギターの修理屋をやっていて思ったりするのです。

余談ですが、最近(コロナが流行る前からですが)恐ろしいと思う言葉があります
それは「正義」です 滅茶苦茶恐ろしいワードです。ぞっとします。


4月24日ご投稿
Q:フレット交換の時に指板のRも調整できると聞いた事があります。 多分、きついRからゆるやかなRに変更する場合が多いかと思いますが(-.-;) その逆は可能でしょうか?
400Rから200Rなどはできるものでしょうか?
A:もちろん可能ですし過去にその様に施工させて頂いた事もあります
ただ、400Rから200Rへと云う様に緩いRからキツイRに変更する場合は1弦、6弦辺りの指板を削って加工する事になりますので張り指板の場合は指板の厚みが薄いと最悪1弦・6弦辺りの指板が削れて無くなってしまう可能性があります
またに1弦・6弦辺りの指板を削った分この辺りのフレット位置が低くなりそのままだとフレットと弦の距離が離れ弦高が高くなります
ブリッジにサドルを下げる余裕があればそのままでも大丈夫ですが加工前の段階でサドルが下がり切っている様な場合はネックの仕込み角調整やサドルを下げる為の加工が必要になる可能性があります


4月20日ご投稿
Q:フェンダージャパン製のジャガーを使っていますが3弦の14フレットにサスティンが伸びない箇所がありました。
11〜48ゲージの弦から10〜46の弦に変更してしばらく使わずに放置してあったのですが
昨日練習で弾いてみたらデッドポイントが無くなっていました。
大変嬉しい事なのですが、こういう現象は起こった経験はありますか?
また太い弦を張るとデッドポイントが復活してしまう可能性はありますか?
A:まずこのご質問にお答えするには「デッドポイントとは何か?」と云う事をご説明する必要がありますのでこちらは動画を添えてコラムの記事にさせて頂きましたのでまずコラム記事をお読み頂きたいと思います→「デッドポイントとは何ぞや」
で、ご質問の「細いゲージの弦に変えたらデッドポイントが無くなった」と云う事ですが、申し訳ございませんが私自身はそう云った経験をした事がありませんのであくまでも推測でのお話になってしまうのですが、弦は硬いと振動し難くなります
エレキの3弦はプレーン弦ですがプレーン弦の太さの限界は私見としては0.018くらいだと思っています。これ以上太くなると弦は硬くなり過ぎ振動し難くなります
ギター弦は0.020辺りを境に巻き弦に変わるのですが、これは構造上同じ太さであればプレーン弦よりも巻き弦の方が柔軟になり振動し易くなるからです
当店の常連さんで、ものすごく太い弦をレギュラーチューニングで使用している方がいらっしゃるのですがこの弦セットの3弦は0.020のかなり硬い弦でパッケージから出す時にバネの様に「ビョッン」と跳ねるくらい硬いくらいでしたからやはり3弦は振動し難くサスティンはあまりありませんでした
この方のお使いのセット弦はそういう時の為に3弦用として0.020のプレーン弦と0.022の巻き弦が同梱されているので巻き弦の方に入れ替えるのをお勧めいたしましたが0.020プレーンの硬い感じがお好みとかであえてこの弦を使用しているとの事でした
話が逸れましたが11〜48セットの3弦は0.018くらいですが10〜46の3弦の0.017と比べると振動し難くはあると思います
今回ご質問のケースではこの振動し易さ・し難さの違いが一つ目の原因と思われます

二つ目に、同一音程で弦が太くなると張力が強くなりますが、同一音程で張力が強ければ強いほど張力は弦振動を終息させる様に働きます
試しに3弦のチューニングを3音下げのDに下げて、2弦を逆にDに上げてチューニングして見て下さい(2弦が切れちゃったらごめんなさい)
ギターのレギュラーチューニングの場合、2弦はおおよそ5kg前後、3弦は6kg前後の張力ですがどちらも同じ音程にする事で張力は逆転して(正確に何kgになるかは分かりませんが)3弦は2弦よりも張力が弱くなります
この様にした上で双方をピッキングして弦の揺れ方を観察してみて下さい
張力の強くなった2弦は弦の揺れ幅が小さく、張力の弱くなった3弦は揺れ幅が大きく見えると思います
同一音程なのに揺れ幅が小さいと云う事はそれだけ振動が止まるところまで近い=サスティンが短いという事です
(注:過剰に揺れ幅が広いと弦が暴れて「干渉」を起こしてサスティンが短くなる事もあります)
この実験はゲージの違いがご相談のケースとは段違いで大袈裟ですが同一音程でゲージが変わると張力が変わりますので、小さなゲージの違いでも少なからずこう云った影響が出ている可能性は考えられます

三つ目に、そもそも3弦の14フレットと云うポジションはエレキギターではデッドポイントの出やすいポジションで、個体により音の減衰の仕方に大小はあれほとんどのギターはこの辺りでサスティンは短くなります
元々デッドポイントとなり易いポジションでは弦の硬さが原因の振動のし易さ・し難さが顕著に表れる事が考えられますし、太く重い弦は振り子の重りが重いほど土台に与える振動エネルギーが大きくなる様に、ピッキング直後の振動初期では細い弦よりも大きな振動エネルギーをネックやボディに与え、結果として「干渉」現象が大きく発生してよりデッドポイントが顕著になると云う見方も出来ると思います
これはあくまでも推測ですので実際の所は申し訳ございませんがもう一度太い弦を張って確認してみるのが確実かと思います




ご質問頂き有難うございました!
新しいご質問頂き次第随時更新させて頂きます!!