デッドポイントとは何ぞや

数年ぶりの更新なのにしらッと始めさせて頂きます…

ギターやベースの演奏上の悩みでデッドポイントと云う物があります
ある一定のフレットポジションで音が伸びず小さくなりすぐに消えてしまう、いわゆるサスティンが極端に短くなる現象です
最近の楽曲は加工出来るのであまり聴く事はありませんが、昔の楽曲を聴いていると「あ〜このロングトーン、デッドポイントだ」と、思う事はあります
たとえば、GENESISのアルバム「And Then There were Three」(邦題:「そして三人が残った」)の収録曲「Burning Rope」のエンディング、ギターのロングトーンパートが残念な事にデッドポイントでショートトーンになってしまっているのです
大好きな曲なんですがそのエンディングで少し残念な気持ちになってしまうんです
気になる方は調べてみて下さい

で、デッドポイントですがその原因は数通りあります
そのメカニズムを解き明かして行きたいと思いますがなにぶん文系普通科の高卒が解き明かして行きますので専門的にヘンテコな説明があるかも知れませんがある程度大目に見て下さい(願

デッドポイントの原因その1 
フレット浮き

フレットが浮いて指で押すとプカプカ動く様な状態であった場合、このポジションではプカプカ動くフレットに 弦振動が吸収されてサスティンが極端に短くなってしまいます
製造時やフレット交換時にはフレットを指板に打つ前に指板Rに合わせてフレットを湾曲させてから打つ必要がありますが、湾曲が指板Rよりも大きい(緩やか)だったり、真っ直ぐのままフレットを指板に打つとフレットの両端(1弦や6弦側)が浮き上がる事があります
浮き上がっていてもフレット溝とフレットのタング幅が合っていればプカプカ動いたりしませんが何らかの理由でフレット溝が広くなっていたりするとプカプカ動くようになります。フレット溝が広くなる理由としてはフレット交換履歴の無い個体の場合は製造時のフレット溝切専用機械の老朽化やセッティングミスで丸ノコがブレて本来の溝幅より広くなってしまっている事が考えられます

またフレット交換作業をしているとフレットを抜く時に例えば1弦側は抵抗無くスカっと抜けるのに6弦側に向かってだんだん抜け難くなる様な個体が稀にあります
フレットを抜き終わってフレット溝を観察すると目で見ても1弦側と6弦側で溝の幅が違うのが分かる物もあります
このパターンの場合は恐らくフレット溝切専用機械に指板材やネックを通す時にこれらの固定がズレて切り始めと切り終わりで溝幅が変わってしまったのでは無いかと思われますがこれも機械の欠陥かメンテナンスミスが元々の原因かと思われます

何度かフレット交換された個体ですとフレットを抜く回数だけフレット溝は傷み広がりますし、溝の深さを新しいフレットのタング長に合わせる為にノコギリでフレット溝の深さを調整する必要があるような場合、ノコギリを真っ直ぐに入れる技術が無いリペアマンが作業するとブレて溝幅を広げてしまう事もあります
この様なさまざまな理由でフレット溝がフレットのタング幅よりも広く、そしてフレットを打つ時にフレットをきちんと指板Rに合わせて湾曲出来ないまま打つとプカプカ動くフレット浮きが起き、浮いたフレット部分のみがデッドポイントになります

デッドポイントの原因その2 
ネックやボディの振動による干渉
ここから説明がややこしくなります(苦笑
と、云うのは私は今まで弦振動エネルギーがネックやボディを振動させる事を「共振」と表現していたのですが、調べてみると共振とは特定の周波数で起こる現象の事で、特定しない周波数で弦振動がネックやボディを振動させる事には当てはまらないようでしたので「共振」の単語が使えない為、何だか回りクドイ説明になっています
(注:下に実験動画を貼っていますが、動画編集してから記事を書き出した為、動画内のテロップで「共振」と書いてしまっている所がありますがここで「振動」と訂正させていただきます。)

弦楽器は弦を振動させてこの弦振動をアコースティックの場合は主にボディを振動させて弦の音を大きく響かせ、エレキの場合は主に弦振動をピックアップで拾いアンプで増幅しますが、ソリッドボディのエレキであっても弦振動はボディやネックを振動させます
弦が振動する時、その土台であるネックやボディがその波を受けて振動すると土台の振動が弦振動の仕方に影響を与えます
↓この様に

このループが、ある一定のポジションでネックやボディの振動が「弦振動に干渉する周波」になる時、弦振動を減衰する作用に働きサスティンを短くしてしまいます
つまり一定の条件が揃った時、ボディやネックの振動が弦振動を押さえつけてしまうのです
ネックやボディの振動の干渉によるデッドポイントの特徴としては音が
「わんわんわんわわわと倍速でウネりながら小さくなり最後には「ぷすん」と消えてしまいます
この現象は歪ませると良く分かるようになります
これはピンポイントで起こる訳では無く一番顕著なフレットから前後数フレットで起こります
大体前後3フレットくらい、例えば14フレットで顕著な場合14フレットをピークに12フレットに向かって徐々に現象が小さくなり、また逆方向14フレットから17フレットに向かっても同様に徐々に現象が小さくなります
と、言葉で書いてもイメージし難いと思いますのでハッキリとデッドポイント現象が分かるような実験をしてみました







どうでしょう?デッドポイント現象をご確認頂けたでしょうか?
もちろんこの実験は大前提としてギターやベースのネックよりも軟な角材をネック代わりにし、振り子の振動エネルギーは逆にギターやベースの弦振動エネルギーよりも大きいと云う実際の楽器とは大きな違いがありますが、振動源とその波を受けた土台の振動がどう云った影響を与え合うかと云う現象を分かり易く可視化出来たのではないかと思います

実験で発生した「気になるところ」では振り子の振動周波数と仮想ネックの固有振動数が強い干渉を起こし、ネックが大きく揺れて振り子の振動を押したり引いたりして阻害しているのが分かると思います
この部分、良く見て頂くとネックが振動して大きく揺れると振り子は大きく揺れたり小さく揺れたりを交互に繰り返すようになっています
ウィキさんによるとこの状況を「干渉」と云うようです
ただ、実際ギターやベースでのデッドポイントの振動の仕方とはちょっと違う様に思います…
試しに演奏時にネックを握るように仮想ネックをやんわり握って再度実験してみました



この振動減衰の仕方が正にデッドポイントの特徴ですです
上にも書いた様に実際のギター・ベースとは振動エネルギーと土台の強度が大きくかけ離れていますので土台の仮想ネックは異常な干渉を起こしてしまいましたが、仮想ネックを軽く握る事で振り子の振動エネルギーと仮想ネックの揺れ方がバランス取れてデッドポイント現象が分かり易く発生したのだと思います
ではこの
ネックやボディの振動によるデッドポイントは解消出来るのか?
楽器の個体が持つ固有振動数が原因であれば個体の固有振動数を変えてしまえと云う考えがあります。そう云ったグッズも販売されていますよね
と云う事でこれも実験してみました







これもまた実際のギター・ベースグッズではあり得ない重量の重りを取り付けた実験になりましたがこれくらい重い物を取り付けてデッドポイント位置が少し変わったくらいです
実際、この大きなクランプで実験する前に小さな軽いクランプを取り付けて実験しましたがほとんどポイントが変わらなかったのでこの大きなクランプにして分かり易くポイントが変化したのが実情です
実際のギターのヘッドに重りを付けて実験してみた事もあるのですが上動画の実験同様ピークポイントが数フレット移動するだけで無くなりはしませんでした
デッドポイントのピークポジションでロングトーンが必要なった時にはこう云ったグッズが役に立つかもしれませんが完全解消するには実験動画の様にネックの強度やボディの重量自体を上げるしか無い様に思います
デッドポイントはダブルカッタウェイなどネックがボディから大きく飛び出したデザインの楽器や極端なヒールレス加工がされた楽器で顕著に現れる傾向にありますが、例えば竹竿は短いほど曲がり難く、長くなるほど曲がり易くなるようにネックとボディの接合部からヘッドまでの長さが長い程ネックは強度が落ち振動し易くなり、極端なヒールレス加工はジョイント強度が低くなり接合強度が低いとネックは振動し易くなります
ではネックとボディの接合強度を上げれば解消出来るのではと、以前居たハイエンドギターズと云うギター工房でダブルカッタウェイデザインのギターのネック内部、ジョイントポジションからミドルポジションにかけてチタン角棒を埋め込んで接合強度を上げる実験した事がありますが結果は残念ながら体感できる改善はほとんど無しでした。
実験3の最後で大きな角材をネックに接合してデッドポイントを無くす事に成功しましたが、実際修理として今お持ちの楽器のネック強度をあの様にガチガチに上げる事は不可能と私は思います
仮に強度を上げられたとしてもネックの振動具合は音に大きな影響がありますので音は修理前とは別物になってしまうでしょう
変わってしまった音が自分好みであれば幸運ですが、嫌いな音になってしまったらせっかく修理してデッドポイントは解消できても弾かなくなってしまうでしょう
傾向としてですが振動し易いネックは太く艶があるファットな音になる傾向がありますが顕著なデッドポイントの発生やサスティンが短い傾向にもあります、逆に振動し難いネックは芯のある骨太な(Stoutな)音になる傾向にありサスティンの点でも有利になりますが、音が硬くなりあまり「艶」と云ったタイプの色気は感じにくくなるでしょう
誤解を承知で言えば
振動し易いネックは女性っぽい音、振動し難いネックは男っぽい音と私は感じております
(今の時代、女っぽいだの男っぽいだの言う事は認識不足になると思いますが「表現」として捉えて下さい)

と云う事で
デッドポイントを解消するのは無理ですし、何らかの方法で修理出来ても音が変わってしまうリスクがあると私は思っております
最初に書いたGENESISの曲の様に残念な気持ちになるのはよく分かります…が、ごめんなさい私には無理です
フレット浮きによるデッドポイントは共振干渉の時とは違い「すん」と云った感じで余韻無く音が消えますのでこの場合はフレット浮きを修理する事で解消出来ます

これら以外のデッドポイントと思われる現象の原因としてはフレットの減りや弦の劣化も考えられますが、いずれも上記2点の原因による物とは違い、この場合は音が伸びないのでは無くピッキング直後から音が潰れてしまうようになります

久々の投稿がこんなに長くなってしまいましたがここまでお読み頂いて有難うございました!

 前の記事  目次に戻る  次の記事
     
   HOME  


MAILお問い合わせ