遅ればせながら、PCトランスポートを使いはじめました。
楽チンでエエよと10年前に聞かされていたのですが、私が音楽を聴くのはCDが中心で、再生環境はGOLDMUNDのMIMESIS 36A+とMIMESIS 10C+の組み合わせと恵まれていたので、PCオーディオやネットワークオーディオへの興味がそのときは湧かなかったのです。
パソコンとネットワークはノイズ源と仕事柄知っているので、自分から面倒を背負い込みたくない気持ちもありました。
ただし遠くに出張するときは移動中にWALKMANで音楽を聴くので、CDはせっせとリッピングしていました。
あるとき遊び半分で激安のDDコンバータFX-D03Jを買って、ノートパソコンと10C+をつなぐと、音質はチープなのに意外と演奏の造形がしっかりしているのに感心します。
定位と分離がいいのはPCトランスポートの特質だろうかと考えると、確認してみたくなりました。
実験のために用意したのはM2TECHのHIFACE EVO TWOです。
すべての入出力信号がパルストランスでアイソレーションされているし、外部のマスタークロックで動作したり他機のSPDIFをリクロックできたりと、単体のDDコンバータの中ではいろいろ試すのに都合が良かったのですね。
軽い気持ちで始めた実験でしたが、オーディオいじりの感覚を思いだすにつれて本気になっていきます。
PCトランスポートに関して私はビギナーでしたから、今思えば最初の1年間は、電源ユニット、マスタークロック、USBアイソレータ、ケーブル、プラグ、インシュレータなどの違いによる変化の質と量を調べて、のちに音を整えていくための材料を集めていたことになります。
音はと言えば、予想していた視覚的な明快さは得られたもののドライな耳触りが取り切れず、普段使いのノートパソコンと単機能の小型機器7台の寄せ集めではこれが限界かと、何度も諦めかけました。
36A+に迫るしっとりしたボーカルが聴ける目処がついたのは、部品同士の相関関係が読めるようになり、デジタルケーブルとクロックケーブルを決定し、ノートパソコンの無線を停め、Windowsの有害な処理を見つけては無効にしていた頃で、2年が経っていました。
そんなゴール目前で、たった1台しかないDAコンバータの10C+が壊れてしまいます。
SPDIF信号を検出すると点灯するはずのLEDが、どの入力端子に切り替えても点かず音が出ないのです。
大慌てで修理を手配し、最悪の場合を考えて代わりになりそうな製品を物色しました。
こんなとき厄介なのが、音に素性を感じる私の妙な音感のようなもので、客観的に素晴らしい音質と解っているのに、ときとして曰く言いがたい生理的な不快感がこみ上げてくる、反りが合わない製品があるのですね。
この困った反応を除けば基本的に、偏りがない音色でクォリティーが高く筐体に剛性があれば、イメージに合わせた音作りができます。
GOLDMUNDが筐体の設計にお金をかけているのは知られた話しで、それは音作りの手段であると同社は説明していますが、これは素人が自宅でオーディオの音を良くしたい場合にも通用するアプローチで、機構の一部を制振したら別の箇所にも影響が及んで製品の音が変わる、そうした相互作用を感じながら好む音を生んでくれる振動の調和状態を見つけるのが、使いこなしにおける大切なコツと私は考えているのですが、この原則に基づいて各社の製品を眺めると、非常に上手に作られていたのがCHORDのQutestでした。
QutestはPCトランスポートとの相性も良く、半年でまずは納得できる音に仕上がりました。
その後、幸いにも10C+のトラブルは解消して、36A+とのペアが復活しています。
PCトランスポートに較べると楽器の定位と音像が甘くなりますが、聴くとやはりほっとします。
一方、音色と表情は36A+に合わせているPCトランスポートですが、Qutestは思った以上に出来の良いDAコンバータだったようで、しばしば音の悪いCDを美しく鳴らしてくれることがあり、たとえばヘレン・レディのアルバムには状態の良いマスターテープが残っていないのか、CDは辟易するものばかりなのですが、Qutestを通すと昔レコードで聴いた綺麗な音が少しばかり甦るのですね。
最近は、特定のアーティストのアルバムを集めてから年代順に聴いています。
入手難のCDは中古品に頼らざるを得ませんが、リッピングでAccurateRipを使えば盤質に関する不安は軽減されます。
リッピングしたファイルのメタデータを編集しておけば、自分に都合がいい順番で音楽再生アプリがディスコグラフィーを表示してくれるし、聴きたいアルバムをジャケット画像のスクロールで探すのは速くて楽しいし、所有済みであることを忘れて二重買いしてしまう失敗はなくなります。
PCトランスポートは楽チンでエエよ言われたときには解らなかった意味が、ようやくわかってきました。
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