かなり古い話になりますが、純水をスプレーボトルに詰めたCDクリーナーが、マイナーに販売されていました。
CDの光学面に吹きかけて不織布で拭うと確かに効果があり、音がすっきり晴れてS/N感が向上しました。
でも効果は長持ちせず、数回CDを演奏すると処理前の状態に戻ります。
作用する原理を、純水の洗浄力が汚れを落とすからと考えた人が多かったのですが、数回使っただけで汚れるとは思えないし、どんどん音が悪くなっていくわけではなく、処理する前の音に戻ったあとは、それ以上悪くならないのを説明できません。
理屈を詮索して悩むのは止めて、効き目があれば良いと割り切り、魔法の水と絶妙な命名をした人もいました。
実際は、水分が静電気を除去する現象を利用していただけ。
塩素やカルキという不純物に目をつむれば、水道水でも同じ結果が得られました。
純水という非日常的な語感で有難味を出しているだけで、詰めてあったのは、ドラッグストアで売っている精製水と大差なかったと思います。
当時、販売していたオーディオショップも業者から作用原理を聞かされておらず、謎のひとつでした。
それとも、製造者も純水の洗浄力を信じていたとしたら、笑い話ですね。
不織布で拭うので、常用すると光学面に傷が付く可能性があり、あまり感心しない商品でした。
同じ頃、ACOUSTIC REVIVEが、RD-1というCD消磁器でデビューしています。
こちらは、CDのメッキ層やレーベルの印刷インクが微量の磁性体を含んでおり、これが磁化すると音が悪くなると謳っていました。
帯磁したドライバーを減磁してみると消磁できるので消磁機能は確かにあって、CDの音も変わるのですが、魔法の水が音の深みを増すのとは違い、コントラストが微増する表れ方で、音楽の種類によっては好ましくない場合がありました。
ミステリアスでわくわくする製品でしたが、私はCDが磁化するとは信じられなかったので、簡単な実験で検証してみました。
強力なネオジウム磁石でCDの着磁を試みても、音は悪くなりません。
また、RD-1で消磁してからCDを水で拭くと、RD-1の特徴であるくっきりした音が、除電したときのしなやかな音に変わりました。
あべこべに、水で拭いたCDをRD-1で消磁しても、音は除電した音のままで、変化がありません。
つまり、仮にCDが帯磁するとしても音に影響は表れないし、RD-1で音が変わるのは、静電気が関係していると判断するのが妥当でしょう。
RD-1の効果が消える速さが、水による除電と同じなのも、静電気による現象と考えれば頷けます。
ただし、必ず音が良くなる水と違って、RD-1では処理が裏目に出ることもあります。
私はその理由を、CD表面に偏在する電荷をならすだけで除電していないからだろうと推測しています。
CDの静電気と音の関係が明らかになったところで、できるだけ手軽な除電方法を考えました。
静電気除去に使う導電性のある不織布を折りたたんでCDを挟むと、両面が同時に除電できて、確実に音が良くなりました。
固い厚紙で不織布を押さえて、均等に圧接すると処理が簡単になります。
除電には、導電率はあまり重要ではないので、アルミ箔で挟んでみたら、やはり、導電材料を練り込んだり表面に導電加工した不織布と、効果に差はありませんでした。
不織布もアルミ箔も、表面に等電位面ができる点で共通しているからだと思います。
放電というキーワードで調べると、三菱レイヨンのコアブリッドBという素材があって、被覆電線みたいに繊維の切断面だけに導電性が現れる構造をしており、放電針のように電気力線が集中して電位勾配が急峻となって、コロナ放電の開始電位を下げることができると分かりました。
コアブリッドBで製造した不織布は、表面に放電針が散在しています。
実際に使ってみると、水で拭いたのにはおよびませんが、普通の導電性不織布よりも大きな効果が得られました。
そのコアブリッドBの不織布を凌駕したのが、Analog Relaxがレコード用に販売している除電ブラシでした。
水に迫る効果が何に由来するのかを調べたら、コアブリッドBを束ねて作ってあることが判り、納得した次第。
今のところ、これを越える除電グッズはないと私は考えていますが、最近はあまり使っていません。
普段、私がステレオ装置を調整するのは、頭の中にある自分の音とズレを感じたときなのですが、CDに溜まる静電気だけではその一線を越えないからです。
加えて、原因と対策がわかったら、探求する面白みがなくなり興味がしぼみます。
CDが帯電しても悪さはその程度なので、実は、目くじら立てるほどの問題ではないのですね。
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