携帯音楽プレーヤーの音 / 2018.07.20


ACE OF BASE  出張したら、移動中はイヤホンで音楽を聴いています。 嵩張るのが嫌で、頭に被るヘッドホンは使いません。 メモリータイプの携帯音楽プレーヤーが出てからは、iPodを3台続けて愛用しました。 ハイファイではないけれど、目立つ癖のない上手な音作りで、不特定多数の聴き手が気持ちよく使えるのも頷けます。 でも、帯域と解像度はほどほどで、ボーカリストの声質とか、音の録り方といった、音楽を構成している音を精緻に鳴らすには役不足。 従って、音楽を楽しめても、オーディオ的な面白みはあまりありません。
 例えば、エース・オブ・ベースのボーカルを担当するマーリンとイェニー姉妹のどちらが歌っているのか判然としないと、もどかしく思うわけです。 しっかり調整したステレオ装置なら、聞き分けられるだけでなく、そもそも声のリアリティがイヤホンとは違うし、マイクとの距離をはかって歌っている様子とか、目配せしている気配が伝わってきて、レコーディングの時間と空間を追体験できます。 録音に立ち会っている錯覚に一期一会を感じるなら、聴き手の体調や心理次第で聞こえ方が違ってくるだろうし、それがオーディオの醍醐味というものでしょう。

SONY NW-ZX1  そんな、スピーカーが作り出す世界観に及ばないだろう携帯音楽プレーヤーも、オーディオと言えばオーディオ。 どこまで納得のいく音が出るものか確かめてみようと、iPodを音楽専用機に替えました。
 エージングが終わったあとの音を予想して選んだのは、WALKMANのNW-ZX1。 ところが、使い込んでも、音をマス目に並べたような整然とした鳴り方に情緒が加わることはなく、SONYらしいキラキラ感がエージングで消えてからは、硬質で無機的な感触がむしろ強まったのです。 そんな音で鳴る音楽に心が和むはずはありません。

 幸いにも、NW-ZX1はOSにAndroidを採用していたので、プリインストールされたSONYのW.ミュージックの代わりに、Google Playで入手できる音楽再生アプリを使うことができました。 幾つか試して、Neutron Music Playerなら、頃合いの潤いが得られそうだと判って一安心。 Neutron Music Playerは、購入後にひと手間掛けてARMプロセッサのNEON対応版に入れ替えると、音の実体感と響きの深みが向上するので、是非使うべきで、通常版では題目通りに効かない付帯機能の問題も解消します。
 僅か数百円のソフトウェアが、音楽に人間味のある響きを添えるとは大したものだと感心していたら、2015年春のレビジョンアップで、芳醇だったそれまでの音とは真逆の、GoneMAD Music Playerなどと同系統の涼やかな音に転向してしまいました。 もちろん、NW-ZX1の至らなさは補完できません。 Neutron Music Playerに短所がなかったわけではなく、針小棒大に言えば、軽快感が不足気味であることと、音色のぬめり感を挙げることができましたが、もしメーカーがその払拭を意図したのであれば、適正量を越えています。
 静かな部屋でしか分からない程度の短所だったので、直前のレビジョンに戻し、以降のソフトウェア更新に付き合うのを止めました。

SONY NW-ZX2  後継機種のNW-ZX2が搭載するW.ミュージックは、別物としか思えないほど出来がよく、Androidアプリに頼る必要がなくなりました。 NW-ZX2にインストールしたNeutron Music PlayerのNEON版と較べると、DSEE-HXでアップコンバートした音には風を思わせる軽やかさがあり、演奏には情感が漂います。
 ハードウェアとW.ミュージックを組み合わせた状態での音決めが見事で、エージング前の音にSONY臭さがないのも、完成度の高さを示していました。

 イヤホンで感じる空間には限界があり、音場には窓枠みたいな縁が付きまとうし、音像が等身大になることもありません。 その代わり、精密なジオラマが、見た人に一瞬で情景の構図を理解させるのに似た力があって、音響的にスピーカーとは異なるカテゴリーなんだと頭を切り替えれば、それなりに納得して楽しめます。 気に障る音に感興を殺がれることがなくなり、ふと気が付くとそんな聴き方に満足している自分を発見して、いつの間にか、携帯音楽プレーヤーで得られる良い音についての結論が出ていました。

AKG K3003  ただ、納得できる携帯音楽プレーヤーシステムが完成したというのに、どういうわけか実感が湧きません。
 考えてみると、WALKMAN本体は、音を曇らせる無線機能や無駄なアプリを停止しただけ。 NW-ZX1に限って追加インストールした音楽再生アプリも、機能をあれこれ試したけれど、メーカーが用意した設定項目を調節したに過ぎません。 CDのリッピング方法は、PIONEERの外付ドライブとiTunesでデータ化したあと、dBpowerAMPで別のファイル形式に変換するとこだわっていますが、既存ツールの組合せでしかないと言われれば確かにその通り。 イヤホンに至っては、イヤーチップをコンプライに取り替えただけでした。
 こんなにお仕着せずくめで、果たして使いこなしたと言えるのか、という疑念が吹っ切れないのですね。 携帯音楽プレーヤーの世界に、私はまだ順応していないのかもしれません。




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