リアル・グループ / 2018.06.16


LIVE IN STOKHOLM  リアル・グループは、スウェーデンの5人組アカペラグループ。 そのアルバムLIVE IN STOKHOLMを私が聴いたのは、発売翌年の1997年でした。 精緻な編曲と、それを事もなげにステージで歌うテクニックが強く印象に残りましたが、とりわけ、ソプラノのマルガリータ・ヤルケウスの滑らかで伸びやかな声が綺麗で、グループに華やかさを添えていました。 惜しむらくは、お粗末なジャケットが、お洒落な音楽と釣り合っていません。
 当時、リアル・グループのCDは日本でほとんど流通していなかったので、DebutとNothihg but、それにRÖSTERを現地で入手したのですが、ジャケットはやっぱりイケておらず、LIVE IN STOKHOLMのジャケットセンスも仕方ないか、と消極的に合点したものです。

The Real Group,Stockholm,Nalen,2003-5-15  幸運なことに、私は2003年に、オリジナルメンバーのコンサートを聴くことができました。 ニルソンさんが手配してくれたスープランチコンサートの会場であるナーレンは、過去にダンスホールだったこともある建物で、小ホールくらいの規模です。 LIVE IN STOKHOLMが収録された国営スウェーデンラジオの音楽ホールからは、市の中心に向かって30分ほど歩いた場所にあります。
 ホームグラウンドだからメンバーはリラックスしているし、曲間のお喋りもたっぷりあって、客席共々いい雰囲気です。 広いホールではないし、木曜日のお昼時だからビジネスマンと判る服装が目立ちましたが、同じストックホルムなので観客の反応はLIVE IN STOKHOLMと変わりません。

jazz:live  その2箇月後に、ストックホルムのセルゲル広場にある大きなCDショップで、遅まきながらjazz:liveを見つけました。 あっ、LIVE IN STOKHOLMの姉妹盤を見つけた、と喜んだのですが、クレジットを読むと同じ内容でがっかり。
 後日、年代順にアルバムを並べて気付いたことですが、ジャケットデザインが俄然洗練されるのは、6作目のori:ginalから。 デザイナーが樹脂ケースに覆われることを嫌ったのか、ケースはデジパックになって、フラットな厚紙の表紙に印刷された深紫のファンタジックな図柄は、アートの趣さえあります。 録音エンジニアリングも現代的に刷新し、どこに出しても見劣りしない音が確立したのもori:ginalを境にしてなので、節目となった1枚と言えるでしょう。 グループのアンサンブルが頂点を迎えたのも、ori:ginalからだと私は考えています。
 続く jazz:liveのジャケットもクールで、グループの視覚的なイメージを象徴した、北欧デザインの面目躍如といった仕上がりです。
 では、何故、LIVE IN STOKHOLMのジャケットは安っぽかったのでしょうか。 LIVE IN STOKHOLMは、米国のジャズ専門のレコード会社TOWN CRIERが、コンサートが行われた1996年にリリースしています。 スウェーデン語の歌詞は最後の1曲だけで、4枚目のアルバムVARFÖR FÅR MAN INTE BARA VARA SOM MAS ÄR?の1曲目として収められていたMonicas Valsも、英詞のWaltz for Debbyとして歌っていることから、グローバル市場を意識していたと考えるのが自然で、うがった見方をすると、TOWN CRIERからの先行発売も企画の一部だったのかもしれません。 そして、ライブ収録から間もないリリースだったので、正規のパッケージデザインが間に合わず、急造のジャケットと直球のタイトルを使ったのかもしれません。
 北欧盤のjazz:liveは、米国盤より1年遅い1997年に、ストックホルムにあるGazell Records ABが新しい装いでリリースしています。

Stockholm,Nalen  LIVE IN STOKHOLMを聴いたあとで、コンサートを挟んでjazz:liveに巡り合った私は、2度得をした気分でした。 LIVE IN STOKHOLMよりjazz:liveの方が、音が良かったからです。
 米国盤はボーカルを明瞭に顕す直截なマスターリングなのに対して、北欧盤は少し音像が遠くて小さく、ステージに5人が並んだ様子が彷彿するのですね。 LIVE IN STOKHOLMの音は、ステージとの距離感が乏しいと説明するのが正確かもしれません。 ボーカリストが膨らまず、まして顔がアップになったりせず、スピーカーの向こうに、周囲の空間を伴って自然な縮尺で立ってくれることを、私は常に期待しているのですが、jazz:live はそんな鳴り方をします。 アメリカとスウェーデンの感性の違いがマスターリングに表れたなんて短絡的な文脈で捉えてはいませんが、音の違いは歴然。
 ナーレンで聴いたコンサートの情景を想い出させる北欧盤のjazz:liveは、単なる愛聴盤を、もっと特別な1枚にしてくれたわけです。

Gals and Pals  話がそれますが、リアル・グループのCDをスウェーデンで探し始めた頃、ウプサラのCDショップで、これもイイよと言って店員さんが持ってきてくれたのが、ギャルス・アンド・パルスのVOCALS 1963-1967でした。
 タイトルが示す通り、スウェーデンのちょっと古い、男女3人ずつのボーカルグループのベスト盤です。 アカペラではなくバンドが演奏しているし、即興を織り交ぜた掛け合いなど、リアル・グループとの違いは多々ありましたが、スウェーデン語で歌っても英語で歌っても、メンバーの声の重なりに、リアル・グループと共通のテイストを感じる箇所が幾つもありました。
 スウェーデンならではのアンサンブルというものが、きっと存在するのだと思います。




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