DIVAをリフレッシュ / 2018.04.08


APOGEE DIVA  私がAPOGEEを素晴らしいと思うのは、製品の工作精度は高くないのに音がいいところです。 例えば、拙宅のDIVAは初期型なので、ウーファーのアルミ箔に電流路を作る切り込みは手加工ですが、並行する刃跡の終端はよく見ると形がまちまちだし、フロントパネル裏側の嵌合は大雑把で、しかも左右不揃いと、オーディオ製品にしては異例のおおらかさ。 動作原理がコーン型スピーカーと同じでも構造は別物で、磁気ギャップのボイスコイル並みの精度が求められる箇所がないので、厳格な寸法管理をあまり必要としないのかもしれません。
 しかし、精密でなくても一級の音質を備えているのだから、工業製品としては大変優れた設計でしょう。 長期使用に耐える本体の信頼性も、神経質なところがない構造のおかげだと私は考えています。

DIVAのネットワークボックス  ところがDIVAにも泣き所があって、別筐体のエレクトロニクスボックスに付いたトグルスイッチが劣化するのですね。
 スイッチの常で、空気に触れる接点表面には酸化皮膜や硫化皮膜が生成します。 部屋に設置したスピーカーでクロスオーバー周波数を頻繁に切り替えるはずはなく、維持のためにときどきトグル操作する程度では、皮膜が徐々に厚みを増していくのを停めることはできません。 この皮膜は電気的には半導体で、厚くなると、電流が微弱だったり電圧が低いと不導体の性質を示し、再生音のリニアリティを損います。
そんなトグルスイッチがチャネル当たり4個あり、パッシブフィルタ回路のコイルやキャパシタを切り替えることでクロスオーバー周波数を選択しているのです。
 ただし、スイッチを開放状態で使っていれば電流は流れないので、仮に皮膜ができても悪さはしません。 私は4個ともNORMALポジションにしていたのですが、回路を調べるとミッドレンジ用のローパスとハイパスはこの条件に当てはまり、心配ないと分かりました。 一方、ウーファー用のローパス回路とトゥイーター用のハイパス回路は短絡状態で、スイッチに電流が流れるため、音質劣化のリスクをはらんでいたのです。

 実は、トグルスイッチの問題は随分前から意識していました。 でも、音に不満を感じないと、面倒な改造に手を付けないのが人情。 そう安穏としていたら、調整した音がズレるようになり、次第に周期が短くなって、翌日にそれと判るほどになったのです。 観察を続けて、日をまたいだら起きることも掴みました。 季節は冬で、部屋の中も夜はぐっと冷えるので、寒暖の落差が関係しているようです。 温度の影響を受けやすい現象で真っ先に思いつくのが、酸化皮膜で不安定になった電気接点。 電源コードを含めて、手入れをしていない接点はトグルスイッチだけでした。 ここまで読み詰めると流石に先送りできず、年貢の納め時となりました。

DIVAのネットワーク回路  スイッチをスキップして回路を直結すると、当然ですが、帯域バランスはガラリと崩れ、散らかった音になりました。 にもかかわらず鳴りっぷりが生き生きと清新で、接点をなくした以上の変化が感じられて、劣化が進んでいたことが推察できました。
 それにしても、クロスオーバー周波数をオールNORMALに設定して3mの距離で聴くと、平面波とは言え、リフレッシュしたDIVAの音はキツい。 クロスオーバー周波数を見直すために、半田ごてで配線を変更しては試聴する作業を繰り返しましたが、1週間を費やした末の結論は、4個ともに元のNORMALでした。 他の設定の組合せよりも、全帯域で情報量に不足がなく、音を作っていく土台として素性が良かったのです。 この回り道が無駄だったかと言えばそんなことはなく、メーカー設計の妥当性を再確認できたのは収穫でした。
 帯域バランスと音質は、スピーカー以外の要素で仕上げました。 調整が終わって音楽がいつもの表情で鳴ると、今までとの相違は反応が良くなった低域と全帯域の分解能で、これが改造の成果というわけです。 たび重なるケーブルの脱着や、内部線材の半田付けで生じた機械的ストレスが抜けて音が落ち着いてからは、翌日にズレるようなことはなくなり、しかも看過できるくらいの微量になりました。

 スイッチのスキップで改善した音質と音場の安定感を考えると、長く放置していたのが失敗だったのは明らかです。 なまじ、僅かな音のズレでも調整で補正できるのが、裏目に出てしまったのですね。 こまめに調整するのも良し悪しと言えなくもありません。
 しかし、つまらない音だと音楽を聴く気になれないから、これからもやっぱり、音がヘンだと思ったら直ぐにリファレンスCDをMIMESIS 36A+に載せて調整するだろうし、オーディオの調子が良くても1週間に一度はリファレンスCDで問題がないか確認するのでしょうね。




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