フューズの交換               / 2000.02.06

修理を済ませたMIMESIS SR-Preの音がやっとこなれてきたと思ったら、
リッキー・リー・ジョーンズの尖った個性が伝わってこなくなりました。
シャデーの涼しげな知性はかすんでいます。
グレン・グールドは手の届かない高みにいるはずなのにそうは感じられません。
演奏の感動が低下すると、音楽が鳴っていても、癒やす作用は失っています。
不調が起きてからの進行が早かったので、今度はどこが故障したのだろうと心配でした。

原因を特定出来る特徴がなく全てが劣化したような状態だったので、
手当たり次第に確認していきます。
大きな問題があると、より小さな問題はマスキングされて見えないので、
一通りの診断が終わったら、また最初から調べることを何回か繰り返します。
ところが、何度も肝心なポイントを手当したにもかかわらず、改善の気配がありません。
音の鮮度が減退する症状は、機器の置き方のずれとか接点が汚れている場合に多いのですが、
そこも修正したのに、全体がベールに覆われたように霞んだままでした。
忘れているメンテナンス箇所はどこだろう。
しばし立ち止まって作業をおさらいしたときに、思い浮かんだのがフューズでした。
何かあれば取り替えようと、安田さんからお奨めのフューズを分けてもらっていたので、
その新品フューズに交換すると、音が覚醒しました。

フューズについて考えてみたのは、頭が冷えた数日後。
過大電流が流れると溶断して短絡事故の被害拡大を抑えるのがフューズの役目です。
故障なく普通に使っていれば切れることはありませんが、
電源を入れた瞬間に流れる突入電流は定格値を越える場合がほとんどで、
フューズエレメントは瞬間的にせよ、発熱して膨張すると機械的にたわみます。
これをくり返して金属疲労が起きたのでしょうか。
でも毎日電源を入り切りしたとしても10年でたかだか3,650回で、これで駄目になるわけがありません。
一方、フューズの口金は電源プラグと同じ電流負荷を受けとめながら、同じ環境条件にあるわけで、
だとすれば電源プラグと同じように、ニッケルメッキの表面に酸化物ができるだろうし、
酸化物ができれば音が曇るので、それが不調の原因質だったのではないか。
どう考えても、一番妥当に思えたのはこれでした。

そうだとすれば、新品に換えるほどのことはなく、クリーニングで解決していたかもしれません。
ところがとき既に遅しで、古いフューズは処分したあとでした。
この次、接点をクリーニングするタイミングで、仮説を検証してみなければなりません。




前の記事へ  次の記事へ

トップページにもどる