人質のMIMESIS SR-Mono         / 2000.01.18

MIMESIS SR-Monoは、バイアス電流を増やすと音が見違えるらしいですよ。
ある日、岩下さんが悪戯っぽく囁きました。
私が所有する4台のSR-Monoを改造しませんか、という誘惑でした。

確かにオリジナル状態のSR-Monoはバイアスが浅いのか、放熱器は微熱を帯びる程度です。
一般的に、トランジスタの動作点を決めるバイアス電流が増えると歪みは減りますが、
代わりに無音時の電力消費が大きくなるのでアンプは発熱します。
音が良くなることを除けば、熱くなって良いことは何もありません。
それに、改造後の音を聴かないまま依頼するなんてあり得ないことです。

加えてSR-Monoは使い始めてまだ半年で、私は音がこなれる過程を見守るのが好きです。
だから、岩下さんの魂胆には気付かず、曖昧な返事をしていました。
すると3日後に、何と改造済みのSR-Monoが安田さんから届いたのです。

DIVAは、低域と高域を2台のアンプで駆動するバイアンプ接続が可能です。
ステレオアンプのSR-Powerが1台なら、低域と高域を短絡してシングル駆動で鳴らします。
SR-Powerが2台あればバイアンプ駆動ができて、音が伸びやかになる効果がありました。
折角バイアンプ接続ができるのだから、これを使わないのは勿体ないと思いました。
SR-Monoはモノラルアンプで、2台を1組にして販売されています。
輸入代理店のステラボックスジャパンには試聴用のSR-Monoが1組しかなったのか、
1組しか借りることができなかったので、バイアンプで聴くことはできませんでしたが、
それでも、SR-Powerのバイアンプより音の色数がグンと増えて音が充実していました。
SR-Monoのバイアンプなら、もっと良くなるのは自明なので注文したのです。

そのときのパターンをなぞるように、
4台のSR-Monoを改造すればもっと素敵な音で聴けますよ、
改造したSR-Monoは、シングルでも、普通のSR-Monoのバイアンプ駆動を凌ぐほどだから、
ためしに聴いてみて下さい、と煽られているわけです。

後日、事の次第を聞くと、安田オーディオラボにはテスト用のSR-Monoがあって、
内部構造を見ると素性が良さそうなので改造してみたところ、
安田さんの自家用スピーカーのMAGNEPAN MG-3.5Rを実に具合よくドライブしたそうです。
MAGNEPANは、珍しい電磁力駆動方式の平面型3ウェイです。
私のDIVAも同じ原理なので、改造の効果が同じように表れるのか知りたくなって……。
そんなお話しを安田さんから聞かされた岩下さんが、仕掛けた罠だったのですね。

SR-Monoの改造版は、宅配輸送で受けた機械ストレスが1週間ほどで取れると、
あっさりした情景に華やかさが加わってきました。
リンダ・ロンシュタットの曲で、私が装置の状態を確認するためによくかけるのは、
Falling In Love Againと、When You Wish Upon A Starの2曲なのですが、
その繊細で澄んだ心と向き合うと、こちらも素直な気持ちになります。
さらに数日が過ぎると、深みと気品も感じられるようになってきました。
そのあと低域が締まり、演奏のリアリティがでてきました。
抗っても仕方ないので、ここで私は観念したのでした。

安田さんに貸してもらったSR-Monoは、私のSR-Monoの改造が終わるまでの人質のつもりでした。
ところが、オーディオショウに関連した本業で安田さんは忙しくなったこともあり、
私のSR-Monoが戻って来るのは2箇月後になってしまいます。
人質を取られていたのは、実は私の方だったのですね。

返却が遅れたのには他にも理由があって、ひとつは私のわがままでした。
改造版のSR-Monoは、待機状態でも放熱器が室温より20℃高くなります。
DIVAのインピーダンスは低いので、音楽を鳴らすと更に10℃熱くなり、これはちょっと危険です。
そこで、温度上昇を少なめに抑えることができるか相談したところ、
バイアス電流の増量を抑えつつ、遜色のない音に仕上げるための素子変更を模索して戴いたそうで、
仕上がるまでの時間がかかったと聞きました。

もうひとつの理由は、安田さんのアイデアでした。
SR-Monoの回路基板は小さいので、放熱器に固定してあって、筐体とは接触していません。
放熱器のベース部にタップを切ってスパイクをねじ込めば、
アンプユニットをメカニカル・グランディングしたMIMESIS 8と同じ構造にできるので、
音質向上にどんな影響があるのか試してみたいというもの。
それまで私は、放熱器ベースをBDR-Cones-mk3の頂点支持で使っていたので、
放熱器にスパイクを取り付ける提案には大賛成でした。

届けられたSR-Mono改造版の音は、予想を超えていました。
スパイクの効果は絶大で、音像の安定感が別次元に変貌していたのですね。
SR-Mono以外の機器のクォリティーも底上げしないとバランスが取れないほどでした。
その後、放熱器にねじ込んだ鋼鉄のスパイクは、
これに換えた方がいいよと、郵便で届いたステンレス製に替えています。
安田さん、カスクの飲み過ぎに気をつけて、いつまでもサポートをお願いしますね。




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参考 - MAGNEPAN MG-3.5R

参考 - APOGEE DIVA