APOGEEのDIVA             / 1999.11.30


ポリイミドは温度と湿度の影響を受けにくい、絶縁性と機械的強度に優れた樹脂です。
そのポリイミドの黄色く透き通ったフィルムにアルミ箔を貼って、
右側と左側から交互に切り込みを入れ、つづら折れの電流路を作ったリボン型のウーファーは、
高さ1,700o、上底250o、下底350oの大きな台形ですが、厚みは25μmしかありません。
フィルムの裏側には、電流路の折り返しと同じピッチで磁力線が逆向きになるよう、
マッチ箱サイズのフェライト磁石174個がパンチングメタルに規則正しく固定されていて、
重さ68sの大半はこの磁石によるものです。
スピーカーの動作原理はフレミングの左手の法則だから、ボイスコイル型と同じですね。

中域と高域のユニットもウーファーと同じ高さ1,700oのリボン型で、
スコーカーの電流路は3本で幅20o、トゥイーターは電流路が1本で幅5oと細くなります。
全周を固定しているウーファーと違って両端を固定しているだけで、
風が当たるとひらひら揺れるので、並行磁界の中で位置が定まりません。
だからリボンの途中で、それぞれ2箇所と4箇所を小さな支持材で支えてあります。
従ってリボンの駆動は全長ではなく、支持材で分割されたエレメント単位です。

面積の大きなアルミ箔が作る音にもかかわらず金属臭さとは無縁で、
質量のない風のように軽やかな音は独特です。
古典的なスピーカーが低域の質量感でプレゼンスを生むのとは異なる世界観で、
ステージのボーカリストを離れたところから眺めるような感覚を覚えます。
無機質でも痩せた音でもなく、歌声には温もりも湿り気があって優しい音です。
図太さや押しの強さといったニュアンスとは対極でしょう。
そんな鳴り方をするのが、現在は独立資本ではなくなったAPOGEE ACOUSTICS社の、
生産が打ち切られた、DIVAという3ウェイのリボン型スピーカーです。

グレーの地味な見掛けにコンテンポラリーな造形美を感じるのは、
その音に魅了された人間のひいき目でしょうか。
平面型でしかも大きいので、広い部屋で壁から離して使うものと紹介している記事もありますが、
おそらく聴きもせず、先入観で書かれた原稿だろうと思います。
音を確認しながら設置位置を探れば、京間の10畳相当の私の部屋でも問題なく使えています。
壁とは0.7mしか離れていません。

辞書で調べると、DIVAはオペラの女性歌手で主役を意味するとありました。
日本語では歌姫と訳されて、女性歌手を指すようです。
DUETTAという姉妹機があることからも判るように、APOGEEはボーカル物によく合います。
ドリス・デイでもリンダ・ロンシュタットでも、
すぐそこに立ち姿が浮かんで、歌声から気持ちが伝わってきます。
強い声のときに大口になったり、小声で歌うときに音像が縮んだりしません。
音楽が始まるとスピーカーが消える、そんな魔法がAPOGEEの魅力です。




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