大音響の効用                / 1999.11.14


大きな音量で好ましく鳴る種類の音楽があります。
ロックであれば、ライブであれステレオでの再生であれ、音響の飽和に圧倒されると、
言語的な思考が停止して陶然とした解放感に満たされました。
くよくよした気分とか不満を覚える余裕がなくなることで心が解放されるのです。
攻撃的欲求、破壊的欲求、自滅的欲求、
そうしたネガティヴな衝動を浄化する作用がロックにはありました。

それは、理屈で辿り着く納得ではありません。
けれども、清算できずにいたストレスを、圧倒的な音響が吹き飛ばしてくれました。
クラシックの交響曲やジャズはもう少し言語的ですが、同じような中和作用がありました。

でも、理由は定かではありませんが、私はいつの間にか、
大音響に頼って清算しなければならない、言うなれば負の欲求をなくしていました。
社会に出て分別がつくようになったのでしょうか。
音楽を大音量で聴く快感を失ったような気がしてなりません。

オーディオの鳴らし方も、歳相応に落ちた体力に見合ったものに変化しました。
ロックは音量が下がったくらいですが、ジャズはボーカル物が増えました。
クラシックはバロック以前のチェンバロ中心になっています。

今、部屋の容積が許容する限界まで音量を上げても、中和される感情はありません。
でも確かに、大きな音響を必要とする時期はあったのです。




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