福島(ふくしま)の海岸にある「坂屋」という岩山に、豊漁と海事安全を祈願して奉祀した恵比須神社がある。
この神社は正徳年中(1711〜1716) に、福島の祖といわれる岸川喜三右衛門が奉祀したものと伝えら れ、神社の正面には、当時奉納された金石があるが、この金石については、つぎのような話が伝えられている。
大瀬戸町福島の恵比須神社(矢印) 昔、福島に大変いたずら好きな河童が住んでいたが、この河童は、夜になるといつもこの神社にやってきて、供え物を盗って食べたり、昼は人を深い海の底に引きず りこんだりして、部落民を大変こまらせていた。
そこで、部落民が集まって相談し、この河童を捕えることになり、力自慢の若者が数名選ばれた。
ある十五夜の晩のこと、選ばれた若者達は浜に集まり、今日はなんとしても河童を捕えてやろうと、暗い岩かげから、いまかいまかと河童が来るの待っていた。
そんなこととは知らない河童は、今夜も神社のお供え物を御馳走になろうかと、浜辺にあがって歩きだしたところ、待ち伏せしていた若者達は、「それっ」という合図とともに河童におそいかかり、たちまち河童を捕えてしまったという。
福島の恵比須神社 若者達は、早速河童を神社の社前につれていき、河童をきびしく折檻したところ、河童は非常に苦しんで、「私がいたずらばかりして悪かった。今後は決して皆さんに迷惑をかけないので、どうかどうかお許し下さい」と、涙を流して命乞いするので、かわいそうになった若者達は相談し、「よしわかった、今回に限って助けてやって もよいが、
ただし、この神社の金石がくさってなくなるまでは、決してこの部落には来ないと約束が出来ればのことだが、その約束ができるかどうか、できなければ直 ちに殺してしまう」といったところ、
河童は「わかりました、この金石がくさるまでは、決してこの部落には参りません。約束はかならず守りますので、どうか命だけ は助けて下さい」と哀願するので、若者達はこの河童を逃がしてやったところ、命拾いをした河童は喜んで、いつのまにか姿を消してしまったという。
夢みる河童・濱脇晴美 作陶
(ころこ庵・外海町神浦678)このことがあってからは、この部落での河童のいたずらもすっかりなくなり、また河童を見たという人もいなくなったといわれる。
ところが、この河童は毎晩この神社にやって来ては、金石が一日も早く腐ってなくなるようにと、金石を一心で舌でなめつづけていたという。
<大瀬戸町郷土誌 町制施行40周年記念事業 平成8年7月発行より>
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