河童の文使い 河童を相撲で負かして臍(へそ)を取られた話
 五島の玉の浦に、力自慢の若い漁師がいた。ある夜海岸を歩いていると、海の中から眞黒い怪物が飛び出して相撲をとろうと言う。 見るとガッパである。(五島地方では、河童のことをガッパ、またはガー太郎という)

 漁師は力自慢ではあるし、こりゃ面白いと思い相撲とる気になったが、ただで相撲とっては面白くないと思い、何か賭けようと云い出した。
 そしてその相談の結果、漁師が勝ったらガッパから百両の金を貰うこと、河童が勝ったら漁師の臍(へそ)をとることに話がまとまり、いよいよハッケイヨヤ。

 両者は何回も何回も仕切直しを致しました。 漁師は、河童の頭にある水をこぼして力を弱めてようと計ったからです。あ、取組みました。四つになりました。懸命にもみあっています。勝ちました。

青芽作 河童
青芽(中村信夫)作

 漁師が美事にガッパを投げとばしました。さあ約束の金を呉れと漁師が云いますと、ガツパはすこし待って下さい。すぐ持って来ますからと云い、海中に飛び込んだかと思うと、直ぐ姿を現わし、

 ここに現金がありませんから、この手紙と壷を持って、鬼岳の沼にいる私の親分の所で金を貰って下さいと言ったので、ガッパは嘘を吐かないものと信じていた漁師は好い気になって鬼岳の沼のあたりに行き水面に向かって手を叩くと話の通りカッパが飛び出して来た。

鬼岳
鬼岳(おにだけ・316m)

 俺は玉の浦から来たものだと言って、その壷と手続と渡すと、そのガッパは、手紙を読みながら急にうれしそうな顔をして漁師に向い、お前さんはこの手紙を読みなさったかと言った。 いや読まないと云うと、さあ読んで御覧なさいと言ってさし出したので、開いて見ると、

親分に人間の臍を100とって差上げようと思って壷にためていたのが99になりましたが、100人目のこの人の臍は私の力で取ることが出来ませんから親分の神通力でとって下さい。
と、書いてあるので、漁師は仰天して逃げ出そうとしたが、河童の親分にはかなわない。たちまち水中に引きづり込まれて臍をとられたということである。

<長崎昔噺集 歌川 龍平 著 蒲原 春夫 昭和23年1月発行より>
(現代仮名漢字に修正しました)



「人間に化けた河童から手紙を託されるが、その手紙にはその人の尻子(しりご)や肝(きも)を取るように書いてある」という話は、全国に有り、「河童の文使い」と呼ばれています。

⇒「福江市史・があたろ物語・お遍路さんに化けた河童・平成7年発行」に、
⇒「対馬の昔話・日本放送出版協会・昭和53年発行」に、「河童の文使い」の話があります。

⇒天草にも、「河童の文使い」の話があります。
 1998/9/15 NHK福岡放送局から、「筑前民話、語り部(べ)の四季・蒲原(かもはら)タツエの世界」が放映されました。
 蒲原さんは佐賀県塩田町にお住まいですが、天草の話がその中では「有明海の千潟の泥(ガタドロ)ができた由来」の話になっています。



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