河童の手   上五島・南松浦郡有川町(ありかわちょう)
 今、役場の立っている所は、昔、江口甚右エ門正利と言う有川の名主の屋敷があった所である。

 屋敷のすぐ裏は大川が流れていて、海の潮が満ちてくると川の流れとぶつかり合い、川底が深くなり、何時も青々とした色が淀んでいて「おかめはんず(※深い壺のこと)」と呼んでいた。

 子供達が川で遊んでいると、「こら!!おかめはんずに行ったな。 河童かっ尻ばとらるっぞ。」と言って注意していた。「おかめはんず」には、いたずら河童が住んでいた。

祭神 江口甚右衛正利 1998/9/13 撮影
正利社(まさとししゃ・二十日恵比寿)

 五月の雨がしとしとと降り続いた或る日、江口家の旦那様が夜中に便所に行ってしゃがんだ時、突然お尻を撫でられた。気の強い旦那様がその手をむんずと握り、よく見るとその指の間には水掻きがあって毛が薄く生えている。咄嗟にかっばの手と判断して絶対、逃がすもんかと、旦那様が「かっぱの手」を掴み、一生懸命引っ張ると、かっぱも負けずに引っ張る。旦那様が最後の力を振り絞って「エーイ!!」と引っ張った時、「ギヤ!!」という声と共に、かっぱの手が抜けて来た。

 旦那様は部屋に戻って、かっばの手を大切に箱に納めたが、なかなか寝付かれずにいると、戸外から声がした。
 「旦那様、旦那様、もう人間様にいたずらは絶対せんけん、腕は返して下され。」
 「こら!!お前は今まで、悪か事ばっかりしちょった罰に、庭の青石が腐るんまで、腕は返さんぞ。」と叱り飛ばした。

 夜が明けて庭の青石を見ると、石の上に糞と小便がかけられていた.
「はは−ん。青石の早く腐るっごと、やったなー。」と思った。

正利社の青石? 1998/9/13 撮影
正利社の青石?

 それから毎日、夜中になると「腕ば返して下されー。」という声が聞こえ、朝には必ず青石の上に糞と小便がかけられていたという。でも何時までたっても青石は腐れ なかった。正利翁社(まさとしおうしゃ)の境内に青石が据えられているが、当時の青石ではなかろうか。

<有川町郷土誌 郷土誌編集編纂委員会 有川町 平成6年2月発行より>


現在「河童の手」は、専念寺(せんねんじ)に秘宝として、保存されているという。

 有川町にも、河童の伝説が多く伝わっており、有川町郷土誌にも4話紹介されています。そのうちの2話をご紹介しました。

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