ユーリア天の扉の防人
4天の神々
作:MUTUMI イラスト:Anghel

どことも知れぬ場所、遥か上空の彼方にあり今はもう下界につながりを持たぬ所。そんな閉じられた世界でそれは少々奇妙な声を発した。

「あれ、久しぶりに扉が動いた?」
誰に言うともなく呟き、おやと小首をかしげる。
「だけど、何か扉とは別におかしな気配がするな。うーん、随分昔に同じことがあったような…」
はて、と考え込みやおらポンと手を打つ。

「ああ、そうか。二万年前にもあったな!ということは、久しぶりに向こうの『界』から何か出て来たのか?さすがにこれだけ時間が経つと、『天魔の条約』も無効になって来たかな?」
少々苦笑いを浮かべ、それは近くに控えていた赤毛の少女を呼ぶ。

「ミシェル。悪いけど下と連絡をとってくれる?どうも何か出て来たみたいなんだ」
ミシェルはきょとんとしてそれを見る。
「下ですか?」
「うん。地底に陣取ってる僕の片割れに大至急知らせたいことができてね。できれば地上で落ち合おうと言っといてくれる?」
「は、はい。何かあったんですか?あの、私達一族に出来ることならお手伝いします!」
勢い込んで言うミシェルにそれは、ちょっと困った顔をして答える。

「ごめんね。これはちょっと君達一族に任せるわけにはいかないと思うんだ。うん、実に色々と込み入ったことがあってね。事情を知っている僕らが調査するのが一番いいんだよ」
「あ、そうなんですか?」
「そうなんだよ。なにしろ二万年ぶりのことだから。まったく、あの種族にも困ったものだ。どうして条約が守れないかな?」
「は?」
それはミシェルの不思議そうな顔に、ハッとして口を閉じる。

「あはは、何でもないよ。これはセスラ創成期の話だから。君達一族がここに迷い込む前のお話だからね。君達は気にしなくていいんだよ」
それはそう言うとぐりぐりとミシェルの頭を撫でた。

「何か、ごまかしてません?」
ミシェルは頭を撫でられたまま、じっとそれを見る。
「やだな。何にもごまかしてませんよ〜」
それはそう言いにこにこと笑った。
「それより、連絡お願いね」
「あ、はい!」
ミシェルは自分に任せられた仕事を思い出し、慌ててそれの前から退出する。それはくすくす笑いながら見送った。

「やっぱり、彼女らの一族は心休まるな。純朴だから思念がとても優しくて、ほっとする。それに引き換えると…どうも彼らはな…悪い種族ではないんだろうが、勝手な悪さをするのが多いよな」
それはそう言い、長い黄金の髪をかきあげる。

「それにしても厄介な。さて、どうするか…」

それは誰に言うとでもなく呟き、小さく嘆息する。この悩みというか、事件を対処できるそれの片割れは今はこの空間にはいない。自分とは対極の場所に居を構え星の動向を見守っている。
「ふう。まったくなんで今さら出てくるかな。せっかく平和だったのに」
それは少々むくれ、そうぼやく。

「だけど『天魔の戦い』から二万年も経っていれば仕方ないか」
それは独り納得すると、パチンと指をならす。

とたんに、それの前に巨大な星のミニチュアが現れる。青い海をたたえた巨大な三つの大陸のある惑星だった。
「セスラ自体に異常はない。…問題が発生したのはイサーク大陸のユーリア自治区、いやグランミア帝国か。かなり、やばいことになってるな」
それは言い、考え込む。
「どうにかして取り除くしかない。あれを放置すれば二万年前の二の舞いになる」
それは呟き、眼前の惑星に厳しい視線を向けるのだった。



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