14流れる雲の向こうに
作:MUTUMI イラスト:Pearl Box DATA:2003.3.16

5000キリの紅茶さんからのリクエストです。
キリリク題材は『ユーリアと帝国のその後の平和な日常』ちょっとギャグ入りでした。



 後の史書はこう語る。

『禁断の地は、人の手によって開かれた。かの者達の時代において、はじめてその扉は開かれたのだ』と。

1.故郷への帰還


 街道添いに蒼く生い茂る緑、空に薄くたなびく白い雲。吹き流れる風は穏やかに私の髪を撫でていく。懐かしい山々の稜線が明るい日射しの中、私の視界にぱっと広がった。閉ざされていた心が洗われるように、その風景は私の中に溶け込んで来る。
 ここから遠く遥か彼方に見えるのは、素朴な作りの小さな家々。白壁がキラキラと陽の光に乱反射していた。私が生まれてからずっと育ってきた街並が、そこにあった。
「ハリー」
 私の隣に並ぶ騎士の腕の中で、私達の大切なユーク様が顔を綻ばせる。
「ユーリアだ!」
 そう言ってユーク様は馬上から身を乗り出した。キラキラと輝く瞳をして、嬉しそうに私達を見つめる。
「帰ってきたんだね。ユーリアに」
「ああ、そうさ。俺達は帰ってきた。帰ってこれたんだよ、ユーク」
 ハリー・アンダーソン、私の同僚にしてユーリアの剣王の異名を持つ騎士は、自分の愛馬葦毛(あしげ)からずり落ちそうになっているユーク様を抱え直すと、片手で馬のたずなを操った。
「懐かしの我らが故郷だ」
 ハリーの隣に馬首を並べながら、ファーン・ユイが目を細める。
「行きましょう! 皆待っているわ!」
 私は彼らにそう声をかけると、馬を思いっきり走らせた。私の愛馬は、カッカッカッカッと規則正しくひずめの音をたて走り出す。
「リーネ!」
 ユーク様と相乗りしているハリーが、驚いたように私に声をかけてくる。私は背後を振り返りながら、皆に聞こえるように声を張り上げて叫んだ。
「誰が一番早く街の入り口に着けるか競争よ。勝った人には、後でラム酒を樽ごとおごってあげるわ!」
 そう言って前を向く。私の背後からわっと歓声が上がって、幾重にもひずめの音が木霊した。私の台詞に刺激を受けたのか、はたまたお酒が飲みたかっただけなのか、それとも郷愁から故か? ともかくユーリア騎士団の、私の仲間達は一斉に馬に鞭を入れ駆け出した。
「待てよ〜!」
 ユーク様と二人乗りをしている分、些か不利な状況のハリーは、慌てて声を上げている。私は背後から聞こえるハリーの奇声に、笑みを深める。
 こんな風に笑えるのは、とても楽しい。夢みたいだ。
「リーネ。ちょっとばかりフライングしてないか?」
 いつの間にか私の真横に並んでいたファーンが、笑いながらも尋ねてくる。
「いいのよ。だって私がラム酒をおごるんだもの。主催者の特権よ」
「ふうん。では極上を頼む」
 ファーンとは反対側からルジェの馬首が迫り出してくる。黒馬に跨がった騎士は、私にそう言いおくと、あっという間に先頭にたった。
「あっ。ルジェ! 待ちなさい!」
 私は馬に鞭を入れ、より一層のスピードを出し後を追う。私の遥か後方からは、ハリーの「こら待て〜」という声や、ユーク様の「ハリーぶつかる、ぶつかる!」という楽し気な悲鳴が聞こえてきた。
 私はとうとう声にだし、くすくす笑って馬で街道を駆ける。懐かしい風景と心地よい流れの風が、戻って来た私達を歓迎していた。
 私達はとうとうユーリアに戻って来れたのだ! 愛するこのユーリアに。


 ユーリアの被害は思ったよりも少なかった。帝国が徹底的な破壊をしなかった為だろう。だからといって、被害がなかった訳ではない。そんなはずはない。国土に戦禍を持ち込まれて、無事に終わる訳はないのだ。真新しい墓所があちこちに見えた。破壊された家の残骸も、焼けこげた、朽ちた跡も見える。
 それでもユーリアは、その爪痕を乗り越えようとしていた。無事だった民人達は皆、明るい笑顔を私達に向けていた。
「お帰りなさい、ユーク様!」
「無事で、なによりです!」
 涙ぐむ幾つもの声がした。皆心底心配していたのだと、私はこの時改めて感じた。連れ去られたユーク様を皆が心配して、神々に祈っていてくれた事を私は後から聞いた。
 だからなのか。ユーク様を連れて戻って来た私達は、何故か少し誇らしかった。そっとハリーと相乗りしているユーク様を見ると、ふわふわと柔らかい笑みを浮かべて、民人を見ている。ただいまと、その瞳は皆に告げていた。
 私達はユーク様が大好きだ。ユーク様の優しく素直な、まっすぐな心を愛してやまない。この資質はとても貴重だと思う。侵略者であったグランミア帝国との和解を決意したのは、ユーク様自身だ。私達が僭越にも、何かを指示したわけじゃない。
 帝国は私達の敵だった。国土を侵略し、幾つもの命を奪い、仲間を殺し、ユーリアを一時的にとはいえ隷属した。・・・私なら例えどんな理由があろうと、かの国を許さない。許せるはずがないのだ。だけど、ユーク様は帝国に理解を示した。帝国には帝国の理由があったのだと、彼らの想いに同意したのだ。それは一歩間違えば、私達ですらユーク様を疑い、非難する要因にもなりかねない事だった。
 事実、私達ユーリア騎士団全員がユーク様の言葉を認めた訳じゃない。今だ色々燻っている奴もいる。ただ皆、心の中では理解しているのだ。私達は、他ならぬ魔王と直に戦ったのだから。
 私達にはグランミア帝国の危機感、恐怖が理解出来る。皮肉な事に魔王という力を理解したからこそ、帝国に対する強い怒りが薄らいだのだ。より大きな恐怖の前では、怒りは霞んで見えなくなる。魔王を前にして、私は自分がありふれた人間なのだと痛感した。ハリーやファーンの様に直接剣を交えた訳じゃない。後方から弓矢で応戦していただけだ。ほとんど役にたてなかったあの時程、悔しかった事はない。
 帝国は帝国で必死だったのだと、今なら冷静にそう思える。ただ・・・。
 では死んでいった者達は、何のために命を奪われたのか? ・・・何の為に亡くなったのか? その一点が私の中に、抜けない棘となって痼りを残す。それを消化するまで、本当の意味では、私はグランミア帝国を許す事が出来ないのだろう。多分凄く時間がかかるはずだ。
 あの時殺された中には、・・・私の同期が山の様にいたのだから。
 私達は長い歳月風雨にさらされ続け、時を感じさせる執務館にようやく辿り着いた。門の前には懐かしい顔が、無事だった執務官達がずらっと並んで私達を待っていた。
「「おかえりなさいませ、ユーク様」」
 そう言って、彼らは頭を下げた。
 ユーリアの傷痕は深い。それでも・・・、皆が上を向いて必死に生きていた。


 2.帝国の使者


「本当にお前が行くのか?」
 夕陽を背に、ビロードの重厚な幕が垂れ連なる中、グランミア帝国の皇帝は、腹心の将軍に問うた。帝王の前に畏まり、壮年の将軍は軽く肯定する。鷲鼻の厳つい顔をした、見事な体躯の男だった。
「御意。帝王、あなたは私にこう申された。”お前の目で見、耳で聞き、私に教えてくれ。ノートン・ユークが何を必要としているのかを”と。ならばこの度の使者は私が赴くべきでしょう」
「ゼガード・・・」
 皇帝は暫し躊躇った後、しかしと小声で付け加える。
「お前は命令とはいえ、・・・ユーリア侵略の実行者だったんだぞ。ユーリアの人民を殺め、自治区を乱した責任者だった。そんなお前が和睦の使者だと言っても、そう簡単にユーリアは納得しまい」
「かも知れません」
 ゼガードは苦笑を浮かべながら、呟く。
「しかしだからこそ私が赴くべきでしょう。・・・ユーリアがどんな心積もりなのか、はっきりとわかります。ノートン・ユークは、ユーリアの執務長官は我らを許すと言いました。しかし国としてユーリアに、そのつもりがあるのかどうかは、非常に微妙だと言わざるおえません。・・・ユーリアにとっては我々の侵略は、かなりの屈辱と衝撃でしたでしょうから。ユーリアがユーリアと認知されて以来、かの自治区は誰にも一度も侵された事がない。・・・大陸の端という地理的要因、神々の足下の地という神話的要因。それらがあい絡まって、ユーリアは長い間半鎖国状態となっていたのです」
 将軍は言いながら、軽く吐息をついた。
「ユーリアが最初から我々の言葉に耳を傾けてくれていたなら、何も我々はかの自治区を襲う必要はなかったのです」
「・・・」
「ユーリアがいまだに、禁断の地であることに変わりはありません。また元のような鎖国状態に戻る可能性は大きいのです。ですが帝国の為には、ユーリアは開かれた自治区でなくてはならない。・・・かの自治区には魔王を殺す武器が残っているのですから」
「・・・そうだな。ユーリアにはそれがある」
「ええ、ですから。・・・私が布石となりましょう。ユーリアの帝国に対する真意はそれで読みとけるはず」
 アベルトは暫し熟考した後微かに頷き、困った時には常に頼ってきた、この忠実な将軍に厳めしい顔つきで命じた。
「わかった。お前に任せよう」
「御意」
 ゼガード将軍は薄く笑うと、帝王の前から退出する。その背が消えるまで見送り、アべルトはがらりと表情を変え微かに笑った。
「そういう建て前にしておこうか、ゼガード。・・・お前はただ単に、あの少年が心配なだけだろうに?」
 呟きアベルトは沈み行く夕陽を、眩しそうに眺める。
(グランミア帝国と和睦を結ぶということは、ユーリアに残る民や官僚とっては晴天の霹靂(へきれき)。およそ考えられないことだろう。我が国との和睦は、それを結ぶ権力者にとっては諸刃の剣となる。まだ幼い執務長官の執行力を疑う要因にも、下手をすればクーデターの原因ともなりかねないのだ。自治区内の抵抗は当然強いはず。この事案は・・・帝国からすれば、ノートン・ユークの支配力を試す事になるわけだが・・・。上手く乗り切って欲しいと思うのは、自己満足故か? あの少年の心を愛おしいと思うのは、傲慢だろうか? 共に生きてみたい、同じ時代の同じ空気を感じていたいと思ってしまうのは、過分なことなのだろうか?)
 アべルトは自嘲の笑みを浮かべる。
(ユーリアはまた半鎖国状態に戻るのだろうか? かの自治区は禁断の土地だ。・・・神が愛した者達の住処だ。だが私はあの自治区が、外に向かって開かれる事を願ってやまない。その堅く閉ざした扉を開け放って欲しいとすら思う)
「因果なものだな・・・。王とは・・・」
(欲深く、常に国益を考えてしまう。・・・自らの心にすら、色々と理由をつけたがる。心のままにすら、生きれない)
 グランミア帝国、巨大な帝国の頂点に立つ青年はそんな事を思いつつ、ゼガードが去ったのとは別方向に歩き出した。微かにびっこを引き、青年は灯された蝋燭の明かりの向こうに、消えていった。


3.想いの欠片


 世界には等しく闇が訪れる。グランミア帝国にもユーリア自治区にも、等しく夜は訪れる。キラキラと輝く月を眺めながら、小さな少年はテラスでもの思いに耽っていた。階下からはまだ賑やかな音楽が聞こえてくる。戻って来た騎士達やユークの為に、執務官達がささやかな歓迎会を開いてくれたのだ。仰々しくはなくあくまでも控えめな催しだった。いまだ戦いの傷痕が残るこの街で、過度な演出は逆効果というものだ。
 戦いの記憶はまだ生々しいのだから・・・。


 これが本当に正しい事なのか、僕にはわからない。僕の選んだ事は、ユーリアという国においては、反逆に等しい事なのかも知れない。
 僕には何が正しくて、何が間違っているのか、はっきりとはわからない。そもそも絶対的な正義ってあるのだろうか? とらえ方によって正義は変わっていく。僕はそれを知っている。先代の執務長官様が僕にそれを教えてくれたから。色々な事を教わる時間はほとんどなかったけれど、僕にとって絶対必要な事はちゃんと教えてくれた。あの人はそういう人だった。
(幼い僕が後を継ぐ事を一番心配していたのも、先代様だったな)
「僕のしようとしている事は、正しいのでしょうか?」
 僕は心の中で先代様に問う。でも幾ら待ってもその答えはなくて、・・・自分の力で立ち向かえと言われている気がした。
「僕はグランミア帝国と和睦します。ユーリアを禁断の地ではなく、普通の自治区として・・・、閉ざされていた国境を開きます。色々な国と情報や物を交換して、共に生きていこうと思います。・・・それでも・・・いいですか?」
 僕が選んでもいいですか? ユーリアの未来を。この先を・・・選んでもいいですか?
 ユークは真剣な表情で、輝く夜の月を見上げた。帝国に捕らえられていた時と、寸分違わぬ月がそこにはあった。ユークは瞳を閉じ、寂し気な面影を思い浮かべる。
「アベルト・・・」
 去り際に一際真剣な表情をして問うた、グランミア帝国の帝王の言葉が思い出される。傷だらけなのに僕に向かって向けられた瞳は真剣で、迷いのない目を宿していた。

 ”君がユーリア自治区に帰還したのを見届け、グランミア帝国は正式にユーリアに和睦を申し込む。君は、いや、ユーリアは受けてくれるだろうか?”

「僕はあなたの強さを尊敬します」
 人に糾弾される事を恐れず、そう問えるあなたを凄いと思った。僕が否と言えばあなたは、・・・どうしたんだろう? 帝位を退いたんだろうか? あの時のあなたには、そんな心意気があった。恨まれる事を恐れない潔さに、僕は多分負けたんだろうな・・・。
「帝国は沢山の人を殺して、ユーリアを血で染めた。・・・それは忘れてはいけない事。ずっと伝えなくてはならない事。それは僕の義務でもある・・・。きちんとそこにあった事実を後世に伝えるのは、本当は凄く難しい事なのに。・・・僕にそれができるんだろうか? 歪まない事実をきちんと伝えれるんだろうか?」
 ユークはそっと呟き、蹲る。
「いいや、違う。本当はそんな事はどうでもいいんだ。僕は・・・、ぼく、・・・うっく。レオルド・・・! 僕は凄く卑怯だよ!」
(いい子でいたいだけだよ。レオルドを殺したのはゼガード将軍なのに! 僕はレオルドが殺されるのをこの目で見ていたのに! 魔王という存在を知ったから、理解したから、帝国の行動も仕方なかったと思ってしまう。そんな事ないのに。どんな理由があっても、言い訳なんて通用しないことなのに・・・)
 ユークは涙に濡れた目で、夜空を見上げる。
「僕はグランミア帝国を糾弾したいのに、・・・したいのに・・・」
(しちゃいけないんだ!)
 ユークはひっく、ひっくとしゃくり上げながら、月に向かって祈った。失われた魂達が安らかであるようにと。涙で月が幾重にもぼやけて、霞んで、どろどろに溶け、消える。それでもユークは微動だにせず、じっとテラスから月を眺めた。死者の象徴、魂を抱えるといわれる星を見続けた。


4.大地の上で


 朝を迎えてお日さまを見ると、いつもの賑やかな鳥や馬達、ほか人間色々、の喧噪が聞こえてくる。当たり前の音を聞いて、当たり前の一日の始まりに、何だか幸せな気持ちになるのは俺だけじゃないだろう。
(ふあ。日常っていいもんだな〜)
 俺は大きく伸びをすると、軽く体をほぐし、身軽な服に着替えると家を出た。昨夜は飲み過ぎ、微かに頭痛がまだ残っている。当然といえば当然の二日酔いだ。少しも誉められたものではないし、というかファーンなんかにばれようものなら、エンドレスに耳元で説教が始まるだろうことは請け合いだった。
「うわ、こわっ」
 ブルブルと身を震わせつつ、俺はいつもの通い慣れた道を進んでいく。道端に見える草花がまだ夜露に濡れていて、お日さまの光でキラキラと輝いて見えた。
「おおっ。光ってるぞ」
 純粋に感心し、朝早くから畑仕事に精を出す農夫達に声をかけていく。
「お早う〜。早いな」
「やあハリー! トマト持っていくかい?」
 一人の農夫がハリーの姿を認め、採れたてのトマトを掲げてみせる。
「何言ってるんだよ、あんた。今日は野菜がいい出来なんだよ! 野菜だよ、野菜!」
 農夫の老婦人は夫を押し退け力説し、側の野菜を手に取るとむんずと引き抜いた。見事なレタスが太い根ごと引き抜かれていた。
「ほ〜ら、ごらんなさいな! この艶、張り、色! 見事なもんじゃないかい?」
「む〜、確かに。だがこのトマトも負けてはおらんぞ! この真っ赤なルビー色。完熟トマトの美味なことといったらもう・・・。舌がとろけそうじゃわい。ぜひユーク様に食べてもわなければ!」
「レタスだって体にいいんだよ。きっと生野菜が恋しいはずだよ。何しろ帝国の料理は、生野菜が少ないからね!」
 老婦人は力説し、ハリーに根付きのレタスを押し付けた。負けじと夫も真っ赤なトマトを押し付ける。
「「ユーク様に召し上がってもらっておくれ」」
 二人は声を揃えて告げる。先程までの喧嘩を今にもはじめそうな雰囲気は消え、仲の良いどこにでもいる老夫婦に戻っていた。まだ土の付いたままの野菜達を腕に抱え、ハリーは渇いた笑みを浮かべる。
「あ、はははは。あ、ありがとうな〜」
 一応礼を言うと、触らぬ神に祟りなしとばかりに、尻尾を巻いて退散する。生野菜を抱えたまま、すたこらさっさと執務館への道をハリーは急いだ。
 何気ない日常にハリーは、今日も穏やかな一日になりそうな予感がする。
「当分はゆっくり出来そうだな〜。ふわぁあ〜ねむう〜」
 欠伸を何度もかみ殺しながら、生野菜を抱えてハリーは急ぐ。今日の朝食にさっそく出してもらうつもりでいた。厨房頭のマリーなら、きっと美味しい野菜メニューを知っているだろう。何か適当につくってもらおうと思いながらハリーは執務館の門を潜った。
 早朝の日溜まりに小鳥が美しい声で、さえずり、歌を歌っていた。
「おっはよ〜。野菜もらったんだけど、何かつくってくれよ〜」


 人は大地と共に生きる。風が雲が太陽が、その土地を見つめていた。人と共にそこにあった。幾多の恵みと共に、その大地で活きていた。
 人は泣き、笑い、怒り、楽しむ。大地はそれを見ている。今も昔もそこにあり、じっと見ているのだ。


5.継がれるもの


 遥か昔。そこは禁断の地と呼ばれていた。神に最も近い場所であった。けれど今、そこに境はない。誰もが自由に行き来し、物や情報が行き交う。
 そこが禁忌の場所であった事を知るものは、少ない。かつての名残りの様に、古い館と共に二振りの剣が伝わるのみ。・・・剣の由来はない。

”魔王現れし時、剣は己を取り戻す。その刀身が輝きし時、この世に魔王蘇りし証し也”

遥か昔からこの口伝だけが、わずかに伝わる。その信憑性も過去に埋もれ、最早釈然とはしない・・・。

                               おわり


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