一矢が久しぶりに学校に姿を現したその日、シドニーのSPである棚(ほう)は雇い主と恒星間通信を使い話し込んでいた。その話題は、今後の対応についてである。 ロバートの最大の敵であったジェイルが死に、彼がつくった組織も消滅した。ブラックマーケットの顧客であったウインザーグループの政敵も白日の元に晒され、グループを脅かす者も消えた。 シドニーの生命を狙う者も、ネルソン家にはもういない。ジェイルの死を契機に、彼と組んでいた不満分子と呼ばれた輩は、自らネルソン家の後継者争いの舞台を降りたのだ。余程、先の事件の火の粉を被るのが恐ろしかったのだろう。 「終わったな、全て。せいせいした」 晴れ晴れとした表情で、ロバートは棚に向かって笑顔を見せる。 「これでシドも安全だ」 「そうだな」 棚は苦笑を浮かべながらも、雇い主に同調した。棚にとってもシドニーは大切な人だ。幼い時から守ってきた愛しい子供。その彼の安全が確保されたのだ。これ以上に嬉しい事はない。 「ジェイルがネルソン家の不満分子を抱き込み、ウインザーグループ本体に食指を伸ばして来た時はどうなることかと思ったが、なんとかなったな」 「ああ。……だが」 あれ程の犯罪を犯したジェイルが、ネルソン家の血筋だという事実は、いつかは星間に知れ渡る。秘密にしても、しきれるものではない。それに関してはどうするつもりなのだと、ロバートを伺うと、彼は苦笑を浮かべるだけだった。 「甘んじて批判は受けよう。あれの血がネルソンに連なるのは事実だ」 「……」 「もともと、一矢を巻き込んで内々の処理で済むとは思っていない」 「そうか……」 「世間にばれても、後ろ指を差される程批判されても、それでも構わない。シドが無事ならばな」 臆面もなくロバートはそう告げ、棚は笑みを深くする。 「相変わらずだな」 クククと、棚は喉を鳴らした。ロバートはそんな棚に照れた視線を向けると、コホンと咳払いをする。 「それはさておきだ」 「ん?」 「シドの様子はどうだ? 毎日楽しそうか?」 「ああ。友達も出来たようだぞ」 「そうか」 「で、どうする? ディアーナから呼び戻すのか?」 棚の問いかけに、ロバートは緩く首を左右に振った。 「いや、ディアーナで卒業まで過ごさせる」 「いいのか?」 「一矢の側に置いておく方が、シドにとっては良い経験となるだろう。何しろ一矢だからな。規格外の経験が出来るぞ」 「そうなのか?」 棚の疑惑の声に、ロバートは答える。 「そうなんだよ。楽しいぞきっと」 一矢との奇想天外な過去に思いを馳せ、ロバートは含み笑いを浮かべるのであった。 |