掲示板小説 オーパーツ109
なら、楽しもう
作:MUTUMI DATA:2005.6.23
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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 驚愕の表情をシドニーが浮かべる。
「本当に? いや、そうなんだろうけど。え? え?」
 言いたい事は山程あるのだろうが、吃驚し過ぎて言葉にならないようだ。
「本当だよ」
 足下にはえていた雑草を一房千切り、手に持つと、一矢はシドニーの眼前に翳す。
「?」
 首を傾げるシドニーの前で、雑草が突然発火し、一瞬で燃え尽き灰となった。
「わ!?」
 一矢の指先から飛び散った灰に、シドニーが僅かに腰を浮かす。
「これで信用するかな?」
 微苦笑を浮かべたまま、一矢がシドニーの様子を伺った。必要以上に恐れられても困るが、ある程度教えておかなければならない。ロバートと一矢の関係を知るうえで、どうしても押さえておかなければならないポイントだからだ。
「……わ、わかったよ。うん。信用する。若林君は特殊能力者、それも高位の……でしょう?」
 小さな発火現象とはいえ、一瞬で植物を灰にする力は生半可な物ではない。それをシドニーは一瞬で理解した。
「正解」
 ニヤリと唇を歪め、幼い子供に言い聞かせる様に続ける。
「僕は星間でもトップクラスの力を持っている。シドニーが想像も出来ないような事も、過去に色々として来た。正しいか、正しくないかは別として、僕はそういう世界にいた。そしてそこでロバートと出会った」
 大人しく話を聞いていたシドニーは、ハッとして一矢を凝視する。一矢は視線を花壇の方へ向け、淡々と語り続ける。
「初めて会った時は、お互いどうしようもない程惨めだったよ。僕は生きる事を厭っていた時で、あいつは未来に絶望していた。多分、最初は傷の舐めあいだったんだ。あいつは僕を生かそうとし、僕はあいつに未来を提示した。支えあったとか、そんなのじゃない。そうじゃなくて……」
 言葉を捜して、一矢は視線を彷徨わせた。
「反発だったんだと思う。僕は最初ロバートが嫌いだった。ちゃんとした家族がいて、愛すべき人がいて……。僕が望んでも得られなかった物を、みんな持っていたから。なのにあいつはそれに気付かず、未来に恐怖を抱いていた。僕からすれば、お前甘えるな〜って感じ?」
 当時を思い出したのか、一矢はクスクスと笑う。
「でもって、ロバートから見た僕も同じだったんだよ。せっかく生きているのに、生きようとはしない。何を考えているんだ、そう言われたよ。それが僕らの関係の始まりだ」
「あの、なんだか、その……」
 なんとも言えない顔をして、シドニーが一矢を見る。絶句している節のあるシドニーを前に、一矢が愉快そうに笑った。それは邪気のない純粋な微笑みだった。
「変な始まりだろう? 僕もいまだに不思議なんだ。あんなに反発しあっていたのに、なんで友人なんだろうって。まあともかく、それが縁でお互いに色々頼んだり頼まれたりで、貸し借りを積み重ねているんだ」
 静かな口調で告げる一矢からは、それが迷惑だとか邪魔臭いとか、悪い方の感情は伺えなかった。
「若林君は、本当に父上の友人なんだ……」
「年の離れた悪友だけどな」
 悪友の部分を強調し、穏やかな目をしてシドニーを見つめる。
「シドニーがこの学校に転校させられたのは、ここに僕がいたからだと思う。僕の側なら、安全だろうとロバートが考えたんだ。白露を狙うジェイルから、君を守るにはそれぐらいする必要があったんだよ」
「……」
「ロバートは君の安全を第一に考えた。だから白露を持たせて、ディアーナ星に送り込んだ。そうすればジェイルは釣り出されるし、巻き込まれた僕も何らかの対応を取ると」
 何でもない事の様に一矢は告げるが、黙って聞いていられずシドニーは両手に拳をつくった。ぎゅっと握り込まれ指先が白くなる。
「でも! 若林君が巻き込まれていいわけない! そんな理屈はないよ!」
「……確かにそうなんだけど」
 どう言ったものかと、父親に対する怒りを再発させたシドニーを前に、一矢は考え込んだ。
 僕がフォースマスターである事や、情報部に属している事は話せないから、それを抜きにシドニーが納得する方向でっていうと……。
「あのさ、シドニー」
「何?」
「言い難いんだけど、……でも言っちゃうけど。多分今回の事件、僕が攫われた事も含めてだけど、パパ達かなり詳しく状況を把握していたみたいだよ」
「え?」
 学校で襲われた時に助けてくれた人物、黒服の一団とその指揮官らしい一矢の父親の姿を脳裏に思い出し、シドニーは惚けたような声を出した。
「把握していた?」
「うん。僕を助けてくれたのもパパの部下だったし、そんなに危険はなかったよ」
 実際は結構な死闘だったのだが、そんな事はおくびにも出さず、さもそれが軽犯罪であるかのようにふるまう。

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「命が左右されるぐらい危険なら、流石にパパも僕に警告すると思うし……」
「あ……」
 一矢の発言を受けてシドニーも、その可能性に気付いた。
「若林君の持って来た本物の白露って……君の父上の許可を得ていたの?」
「いいや。でも、パパは僕が持ち出した事に気付いていたと思うよ」
「……」
 握った拳を口に当て、シドニーは考え込む。
 さあ、シドニー。情報は与えた。それをどう組み立てる?
 瞳の奥に面白そうな光を宿して、一矢がシドニーの行動を見守る。数秒間悩んでいたシドニーだったが、意を決して顔を上げた。
「……違っていたらごめん。もしかして若林君の父上は……」
「パパが何?」
「若林君を囮にしたのかな?」
 ナイス、シドニー! その調子だ。
 自分の誘導に満足感を覚えつつ、一矢は神妙な顔つきをする。
「さあ、どうかな。僕にもはっきりとはわからないけど、それが必要ならパパはそれを選ぶと思うよ」
「っ!? ……そんな」
 自分が提示した可能性なのに、一矢に否定されなかった事でシドニーはとても傷付いた顔をした。
「自分の子供を危険に晒すなんて……」
 言ったっきり絶句してしまう。
「そんな事をしそうな人には見えなかった?」
 悄然としたシドニーに尋ねると、コクリと首を縦に振る。その意外にも的確な人物評に、一矢は内心で感心した。
 ボブってああ見えて、律儀で正義感強いからなぁ。誰かを囮にするって、実は嫌いなんだよな。
 一矢が言い出さない限り、そういう類いの作戦は許可しない。チームで対応するのは構わないが、特定の個人に負担が激増する作戦は、大概眉をひそめてそのままシュレッダー行きだ。
 悪い、ボブ。濡れ衣きといてくれ。
 心の中で謝り倒すと、一矢は両足を伸ばす様にしてベンチから立ち上がった。シドニーが無意識に一矢の姿を追う。一矢は頭上に広がる青空を眺めると、両手を広げ、思いっきり背筋を伸ばした。新鮮な空気と甘い花の香りが胸一杯に広がる。
「若林君……」
 どう言ったらいいのかわからない、困惑したままの表情でシドニーが一矢の背に呼び掛ける。背を向け青空を眺めたまま、一矢が静かに呟いた。
「お互いに信用がなければ、囮作戦は出来ない。……どちらも裏切りや切り捨てが出来るんだから」
「え?」
「信頼関係は大切って事さ」
 クルリと振り向き、一矢はシドニーの前に立つとと、両手をそっと頭に乗せた。
「?」
 何だろうと思ってベンチに座ったまま見上げると、優しい一矢の笑顔と出会う。
「心配してくれてありがとう、シドニー。でも僕は君に心配される程弱くもないし、馬鹿でもない。切り抜け、生き抜く力は持っているんだよ」
 言外に庇護されるお嬢様じゃないんだと告げ、両手を掻き回した。手の動きに釣られて、シドニーの髪がぐしゃぐしゃに煽られる。
「うわっ!?」
「あははは」
 驚いたシドニーの声と一矢の笑い声が重なる。ひとしきりかき混ぜた後両手を離し、ピシリと指をシドニーの顔に突き付けると、一矢は厳しい声音で告げた。
「自分のせいで誰かが犠牲になったなんて考えるのは、百万年早い。他者を自分の基準で見るな。この世界には、君が想像する以上の力や、能力を持った者が存在する」
「!」
 ビクンとシドニーの目が見開かれる。
「君の優しさは理解出来るが、それは僕に向けるべきじゃない。僕は君の庇護を必要としていない」
 きっぱりと言い切って、「お仕置き」と呟き、一矢はシドニーの鼻を指で掴んで引っ張った。
「い、いひゃ」
 あがる悲鳴に指を離し、シドニーの顔を覗き込む。美麗な顔を目と鼻の先に感じて、思わずゴクリと喉を鳴らしたシドニーの目の前で、一矢の焦げ茶の瞳が変化を始める。両目の中に光の紋様が浮かび上がったのだ。文字のような、絵のような物が一矢の虹彩を取り囲む。
「!?」
 驚愕の悲鳴は出なかった。瞳の中に光を宿したまま一矢が囁く。
「見えるかな? これも僕の一部だよ。僕の中にある兵器で、とても強い力を発揮する物だ」
 静かな口調なのにシドニーは目を逸らせなかった。吸い込まれるような表情で、一矢の瞳を凝視し続ける。
「これが力を発揮するのは、僕が望んだ時だけ。僕が戦う意思を示した時だけ」
「わ、若林……君」
 普通の体ではないと告げられている様なものだったが、シドニーは恐いとは思わなかった。光を宿した一矢の目に、理性的な意思があったからだ。何故か一矢に観察されているような気さえした。
「僕はお姫さまじゃなくて、王だ」
 囁き声と共に瞼が閉じられる。次に一矢が目を開いた時には、もうそこに光はなかった。ごく普通の色彩の目に戻っている。ゆっくりと一矢が上体を起こし、シドニーから距離を取った。

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「……」
 無言のままシドニーが一矢を見上げる。最初に会った時は、儚気で華奢な庇護欲を刺激する少年にしか見えなかったが、今はもうそんな風には思えない。シドニーの目には一矢の外見ではなく、内面が映し出されていた。虐げられるか弱い存在ではなく、それをはね除ける強さと逞しさを持った男として。
 どこの誰も、この目の前の人物を屈服させる事は出来ないのだと理解し、シドニーは急に恥ずかしくなった。自分が少しも、一矢を信用していなかったと気付いたからだ。
 父親であるロバートも、一矢が攫われた時に現われた星間軍の女性兵士も「心配ない」と言っていたのに、全然それを信用しなかった。自分が一矢を弱い者と決めつけていたからだ。
 一矢を知る者達が揃って吐き出した言葉を、冷たいとさえ感じていた。自分こそが傲慢な思い違いをしていたというのに。
「ご、ごめん! 私は……」
 謝ろうとし口を開くと、一矢の柔らかな笑みに塞がれた。
「言っただろう? 心配してくれてありがとうって。シドニー、君の優しさは決して間違ってはいない。ただ向ける方向が違うだけだ。これがパイやシグマ、ケン達に向いていたのなら、僕も同意するんだけどね」
 クスクス笑って、一矢は唇を歪める。
「お父さんと仲直りしなよ。僕はそこまで面倒見切れないからね」
 静かな指摘に再び赤くなり、頷く。それを見て一矢は増々楽しそうに微笑んだ。
「素直な子供は好きだよ。頭撫でてあげようか?」
 愉快そうに謎の言葉を残すと、腕を持ち上げ時刻を確認する。腕時計は9時を示そうとしていた。
「……そろそろタイムリミットか。戻るよシドニー、授業が始まる」
 ちゃっかり授業にも出席する予定だった一矢は、そう言ってシドニーを促した。シドニーもハッとして立ち上がる。揃って歩きながら、ふとシドニーは気付いた。
 色々と事情を説明してくれたが、肝心の所が綺麗さっぱり飛ばされていた事に。例えば何故白露が狙われたのか? 攫われた後どうしていたのか? 叔父がどうなったのか? 叔父の罪は? 等だ。
 どれも一矢に聞くのは間違いなのだろうが、横を歩く少年が全てを知っているような気がした。けれどそれを言い出す事は出来ず、恐らく父に聞いても何も教えてはくれないだろうとも思った。
 シドニーはそれら一切の疑問を胸に仕舞い込む。何時か自分で、調べる事の出来る力をつけようと思って。
 昇って来た時と同じ様にエレベーターに乗り込み、一矢がパネルを操作する。扉が閉まりゆっくりと床が沈み出した。静かな空間、密室という名の沈黙。
 やがて扉が開き日常が飛び込んで来た。始業前の僅かな時間の喧噪が耳に入って来る。ガヤガヤと賑やかな声が辺りに響いていた。その光景に一矢が嬉しそうに瞳を細める。
「あ……」
 それが純粋な喜びなのだと知って、シドニーは惚けたような顔をした。気配に気付き、一矢が顔を横に向ける。
「こういう日常が僕は好きなんだ。シドニーは?」
「あ、うん。私も好きかな」
 実家で、家庭教師から学ぶだけではわからない楽しさだ。転校して来てまだ日が浅いとはいえ、シドニーにもそれは感じ取れた。
「楽しいと思うよ」
「そっか。なら、楽しもう。ここにいる限り」
 ニッと笑ってそう言うと、一矢はエレベーターから降り歩き出す。その後を慌ててシドニーも追った。
 スピーカーから始業開始のチャイムが鳴り響く。ザワザワとざわついていた音がゆっくりと消えて行き、廊下で戯れていた生徒達も三々五々自分の教室に戻って行った。一矢とシドニーも扉を開けて教室の中へと消える。
 そして一限目が静かに始まった。

544

「ただいま!」
 放課後一直線に情報部に戻った一矢は、制服のまま中央指揮所に直行した。電子書類を覗き込み、何やら指示を出していたらしいボブが顔を上げる。
「ああ、お帰りなさい」
 さして感慨もなく応じるとリックに耳打ちし、作戦の許可を出した。
「どう?」
「ようやく7割です」
 ひょいとボブの手元を覗き込み、赤字で引かれた二重線を確認し、一矢は書類をスクロールさせた。一矢の転送した情報を元に作成された、ジェイルの組織の拠点一覧は、おおかたが赤の二重線で塗りつぶされている。これは全て摘発済の印だ。だが中には手付かずの部分もあった。
「残り3割か……」
 手付かずの部分を確認し、一矢は唸る。
「摘発のスピードをこれ以上あげるのは無理です」
「わかってる。この調子だとあと2日はかかるか。……顧客の摘発はどうなった?」
 もう一つの気掛かりを口にすると、
「そちらの手配は全て終わっています。後は各星々の警察を信頼するしかないでしょう。うちが直接手出しするには膨大な数過ぎますから」
 という答えが返って来た。
 一矢の登校時には、手配は6割しか済んでいなかった。学校に行っている間に、根性で終わらせてしまったらしい。オペレーション発動以降、不眠不休で指揮をしているボブにとって、かなりの負担になったはずだが、そんな事は微塵にも臭わせなかった。
 疲労を伺わせない明確な指示を出し続けているボブだったが、両目の下にはしっかり隈が出来ている。それを確認すると、一矢は片手を翳しボブの両目を覆った。
「何です?」
 訝し気な表情がボブに浮かぶ。
「交代だ」
「まだ平気です」
「……何日寝てない?」
 一矢の質問には答えず、逆にボブが聞き返す。
「桜花は?」
「ああ、僕は学校で寝て来た」
「6時間?」
「そ。丸々机の上で」
 これではさぼりどころか、睡眠をとりに学校へ行ったようなものだ。
「怒られませんでしたか?」
「一週間後に追加テストらしい」
 一矢の回答にボブがクスクスと笑い出す。
「宿題や補習でないだけましですか?」
「まあな」
 テストなら一矢は簡単にこなせる。元来頭の良い一矢だ。拘束される時間も短くて済むだろう。それに一週間後なら、この騒ぎも沈静化しているはずだ。それを理解し、ボブは軽く頷いた。
「そうですか」
「だから交代。さっさと寝て来い」
 ぶっきらぼうに一矢は告げる。
「……了解しました。後はよろしく頼みます、桜花」
 一矢の手を外すと椅子から立ち上がり、ようやくボブが重い腰を上げた。歩き去るその背に、一矢が一声かける。
「また明日の朝な」
 その言葉に驚いてボブが振り返る。ボブとしては二、三時間の仮眠だけ、つまり夕方には戻るつもりだったのだ。なのに何時の間にか半日の睡眠になっている。
「桜花!?」
「夜勤ぐらいしとくって。お前より僕の方が元気なんだから」
 笑いながら一矢は手を振った。
「お休み」
 そう言って有無を言わさずボブを、自身の持つ力で押し出す。ズルズルと立ったままの状態で部屋から押し出され、ボブは反論する事も出来ず指揮所から閉め出された。
 扉は完全に閉まり、ボブが開けようとするが全く反応しない。暫く叩いていたがやがて諦め、ボブは官舎の方へと移動して行った。ここまでされてようやく眠る気になったらしい。
「……全く、少しぐらい寝ろってんだ」
 扉の封印を解きつつ、一矢が悪態をついていると、
「桜花もでしょう? どうせ学校でも寝ていない癖に」
 リックが眠気冷ましの栄養ドリンクを差出しながら、呆れた声をあげた。ちなみにボブと一矢以外は、全員きちんと交代で眠っている。
「……なんでばれてるんだ?」
 栄養ドリンクを受け取りながら、「ボブは騙せたのに」とムッとして言い募ると、
「【02】より俺の方が付き合いは長いんですよ。見え見えですって」
 あっさりそう返された。無言のまま一矢は栄養ドリンクのキャップを開け、一気に飲み干す。
「……まず」
 余りの苦味に舌を出すと、リックに瓶を回収され、代わりに飴玉を握らされた。
「?」
「飴舐めて元気だして、頑張りまっしょ〜う」
 独特のテンポで告げられて、思わず力が抜ける。
「お前なぁ……」
 文句を言いかけ、やめて飴を口に放り込む。イチゴ味で自棄に甘い飴だった。
「甘いぞ、これ」
「糖分補給は疲労に効くんです」
「何時ものサプリメントはどうしたんだよ?」
「在庫切れで注文中です」
 どこまで本気かわからない調子で、しれっとリックが言い返す。思わず一矢は額を押さえた。
「……仕事しよ」
 相手をしていると倍返しで疲れると悟ったらしい。
 一矢はボブの座っていた椅子に座ると、ボブの代わりに指揮を取り始めた。各部署から続々と報告が上がって来る。それらを的確に捌きながら、明日の朝迄果たして起きていられるのだろうかと危惧し、明日こそ学校で寝てやると心に誓う。
 一矢はボブ以上のスピードで、仕事をこなしていった。様々な指示がリックを介して、各部隊に伝えられる。
 出来る事をできる範囲でーーー。ギルガッソーの事も気にはなっていたが、ひとまずジェイルの組織の後始末をする事に決め、一矢はそれに全力を傾けた。
 情報部がフル回転し、つられる様に各星間の刑事機構も動く。怒濤の日々はこうして始まり、怒濤の内に過ぎて行った。



 後に星間の星々は大いに揺れる。大勢の子供達の保護と被害の発覚によって。この事件での逮捕者は1万人を超え、星間最悪の人権蹂躙事件とされた。
 この事件のおかげで情報部は一躍有名になり、星間中にその名が知れ渡る。裏専用であった桜花部隊を呑み込み作られた部門は、期待通りの働きを示した。そして、その存在感は揺るぎない物へと変貌して行く。


 星間軍情報部。ーーーそれは犯罪者にとって恐るべき名称となった。


                             END



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