掲示板小説 オーパーツ97
そういう横槍は大歓迎さ!
作:MUTUMI DATA:2005.5.18
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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「呼び出して済まない。指揮権が私にない事は承知しているが、同業のよしみで助けてくれないか?」
 しらねの言葉を聞いた女性が、面白そうに口元を歪めた。
「……まあ確かに、あんたが私に命令するのはおかど違いだけど、同じ宇宙軍だし……」
 ニッと笑って女性、ニノンはしらねを見つめる。
「いいぜ。それであんたは私に何をして欲しいんだ?」
「簡単な事だよ。桜花を迎えに行って欲しい」
 端的にしらねは伝えた。
「君のチームメイトも一緒にいる。悪い話ではないだろう?」
 それほど逸脱した行為ではないはずだと、確信を込めてしらねは続ける。
「仲間の救助のついでで構わない」
 鈴と一矢のどちらがついでかわからない、おこがましい事を告げつつ、しらねはニノンを真摯な瞳で見返した。
「頼めるかな?」
「……」
 暫しの沈黙。ニノンは破顔する。
「そういう横槍は大歓迎さ! ありがと。鈴は無事で桜花と一緒にいるんだね?」
「ああ、まだ敵船の中だが。位置確認情報をそちらに転送する。敵船の武装は死んでいるが、マニュアルによる攻撃が若干あるかも知れない。気をつけ給え」
 しらねのもたらした情報にニノンは頷く。
「わかった。十分注意するよ」
「では頼む」
 その言葉と共に、しらねは通信を切った。時を同じくしてニノンの乗るオーディーンが急速に移動を始める。
 それを感知しながら、太白のブリッジは再び静けさに包まれ始めた。軽口も消え、緊張感が増す。しらね達はじっとニノンの動きを見守るのだった。

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 地の底から響くような音。激しく揺さぶられる感覚。座席に座るクルー達の体がその場で大きく跳ねた。
「くっ」
「ううっ」
 幾人かの呻き声が上がった。衝撃に背を打ちつけたジェイルも、もたらされた痛みに眉をしかめる。
 何が起こった!?
 訝しむ間もなく、揺れがおさまると同時に激しい警報音が鳴り響いた。まだ活きていた、破壊を免れていた管理頭脳の一部が直撃を喰らった箇所をディスプレイに表示する。
 半透明な立体ディスプレイ上に船の映像と、破壊された部分が色で区分けされ現われた。敵の工作員、オーディーンのパイロット達に占拠されていた部分がごっそりと消え失せている。先程の衝撃はその余波なのだろう。
「……プラズマの直撃か!」
 敵艦から放たれたプラズマが直撃したのだと知り、ジェイルは舌打ちした。
 敵側のハッカーのせいで船の機能のほとんどが死んでいる。航法も火器制御も重力ブラストシステムも、中和フィールドも。ありとあらゆる物全てがだ。メインコンピューターを破壊されては、もうどうしようもなかった。
 精一杯の抵抗をしたが敵に軽くあしらわれ、逆に緊急時のアクセスコードを奪われその場に繋ぎ止められた。管理者を踏み付けにして、侵入者は消えた。破壊と混乱の種を撒いて。
「おのれ!」
 ジェイルの瞳に憤怒の表情が宿る。
「星間軍め!」
 握った拳は怒りの為か震えていた。

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 ジェイルのただならぬ様子に近くに居たクルー達が息を飲む。ジェイルは冷静さや思慮深さをどこかに置き忘れてきたかのようだった。普段のジェイルからは想像出来ない姿だ。
 怒りの為震える体を理性で律し、ジェイルが側のクルーに視線を向ける。ごくりと喉を鳴らし、クルーはジェイルに報告を開始した。
「ほ、本艦の機能で活きているのは、ご、ごく一部です。具体的にはエンジン、あ勿論マニュアル制御ですが。右手のレールガン、これもマニュアル制御です。それから……」
 ダン!
 細かく続けようとしたクルーは、ジェイルが膝掛けを拳で叩いた音に驚いて言葉を切った。低い不機嫌な声が恐ろしい目をして尋ねる。
「重力ブラストシステムはどうなった?」
 わかりきった事だがそれでも再度クルーに確認する。何か違う事が聞けるのではないかと思って。
「ど、導管の一部に亀裂を確認。現在調整中です」
「使えるのか?」
「わ、わかりません。応急措置を開始していますが……時間が」
 滝の様な冷たい汗を流し、クルーが応じる。
「では、中和フィールド発生装置は?」
「システムオーバーフローで、全く人の手を受け付けません」
「回復は?」
 蛇の様な目で眺められ、クルーはひくひくと喉を鳴らす。
「の、望めません」
「……航法機能は?」
「データロストです。システムその物が潰されています。同じく火器制御も。メインコンピューターが完全に殺されていますので……回復は望めないかと」
 遠慮がちな中にも絶望的な響きが宿る。

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 これだけ何もないと、最早それは宇宙船とは呼べない。ただの漂流物だ。エンジンが停止しなかっただけでも行幸といえた。もしも停止していれば地表に向かって真っ逆様、墜落は確実だっただろう。
 星間軍め。悉く破壊してくれたな!
 ギリギリと歯が鳴った。怒りで視界が狭くなる。頭に昇った血は一向に落ちて来ない。憤怒の感情がジェイルの中を暴れ回った。
 真正面で対峙する星間軍の宇宙船は悠然としており、潜入した仲間のいる場所にプラズマ砲を撃ち込んだというのに、全く動揺が見えない。何一つ動きがなかった。
 多少の犠牲はやむを得ないと判断したか。この船を攻略したハッカーを見殺しにしても構わないと。
 冷然としたその事実に、一層見事だとジェイルは思った。その度胸がなければ一軍など指揮出来ない。
 実際はその指示を出したのが当の潜入者本人で、相手が一矢だからしらねも気兼ねなく攻撃出来たのだが……、そんな事迄ジェイルは知らない。

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「ワープ機能はどうだ?」
「む、無理です! 制御プログラムが破壊……っ!」
 ギロリと睨まれてクルーは一歩後ずさる。
「では一体何が出来るんだ? この船は?」
「そ、それは……」
 言い淀むクルーを遮る様に新しい報告がもたらされる。
「た、大変です!!」
「何だ?」
 ジェイルのきつい眼差しを浴びても、そのクルーの狼狽はおさまらなかった。
「か、艦が!」
「?」
 訝し気な視線が報告者に浴びせられる。
「星間軍の次の攻撃が始まったのか?」
 同僚のクルーの一人がその男に問いかけた。
「ち、違う! もっとやばい!」
「おい、落ち着けよ」
 宥める同僚の声を振り切ると、クルーは叫んだ。
「艦が縮んでるんだ!!」と。



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