掲示板小説 オーパーツ96
それで桜花はどこだ?
作:MUTUMI DATA:2005.3.22
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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 確かに言ってない。言ってないが……心の底では思っている事だ。一矢自身の指示とはいえ、幾ら何でも余りに酷い。まかり間違って本当に一矢に当たったらどうするのだろうか?
「隊長ちゃんと避けますよね〜?」
「……多分な」
 微妙に投げやりな声でしらねが答える。
「避ける自信がなければ言わんだろう」
 その辺りの一矢に対する部下達の信頼は厚い。普通なら正気か!?と思う事でも、一矢にとっては簡単な事であったりする。その事実を長年付き合って来た部下達は弥(いや)が上でも知っている。常に思い知らされてきたからだ。
「【19ー48】(穂波)、遠慮しなくてもいいぞ」
 ……遠慮してもしなくても、プラズマ砲の出力は常に同じでしょうが……。
 頭の片隅でそう突っ込みつつ、穂波が顔を制御スクリーンに向ける。
「それじゃ、遠慮なく」
 一矢が指定して来たポイントを入力し、火器システムのロックを外す。プラズマ砲のエネルギーは既にチャージされている。後は撃つだけだ。
「行きます!」
 短い報告と共に運命の一撃は放たれた。一矢からの連絡で、敵船の防御機能が死んでいるのは確認済だ。今度こそ命中するはずである。
 太白のクルー達は固唾を飲んでその様子を見守った。プラズマが敵船を貫く事を祈って……。

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 光が直進する。太白から放たれたプラズマが夜空を切り裂いていた。星々すら打ち砕く勢いで、それは奇妙な形をした敵船へ向かって行く。
 攻撃は同期を外し、わざと太白のみで行われた。5艦同時ではなく単艦での攻撃だ。全艦で行ってはプラズマ砲の威力が強過ぎ一矢への影響が大きい、つまり危険過ぎるとしらねが判断したためだ。
 危険……限りなく低い可能性ではあるが、一矢に何かあってからでは遅い。神殺しの高位能力者とはいえ、たまにはうっかりと失敗する事もあるのだ。
 現につい1年程前にも爆弾の解体に珍しく失敗し、爆破の直撃を喰らっている。幸いその時はとっさにディアーナ星に転移したようで、傷らしい傷もなかったから良かったものの……。捜索隊を指揮したボブの胃には穴が開きかけていた。
 極たまに……ミスるんだよな、桜花……。
 一矢が行方不明だった当時のボブの心境を追体験しているようで、しらねはどことなく落ち着かなかった。あの時もわたわたしている間に一矢が第一線にいて、ルキアノの仕掛けた爆弾を解体し始めたのだ。
 2度目の轍は踏まないで下さいよ。
 信頼と疑惑と責任と祈り……様々な感情がごちゃ混ぜになった複雑な表情を浮かべ、しらねがスクリーンを見つめる。

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 クルー達が静かに見守る中、プラズマは敵船に着弾した。巨大なオブジェのような船の一部、枝の様に伸びている外郭が激しい光を伴って爆発する。
「やった! 当たった!」
 敵船の爆発を見て、ロンジーが興奮を隠しきれない声で叫んだ。その後をセネアが淡々とした声で報告する。
「敵装甲へのプラズマの接触を確認。隊長からの指定ポイントへの誤差も許容範囲内です」
「詳しくは?」
「だいたい15センチぐらいでしょうか」
 律儀にしらねに答え返し、セネアは外部映像を拡大した。大きく抉れ煙りの立ち上がる部分、太白が攻撃した箇所を最大ズームで拡大する。
 モクモクと立ち上がる黒煙が破損の大きさを物語っていた。敵船は外郭とはいえ、ごっそりと細い骨の様なフレームを失っていた。いびつではあったが、規則正しく並んでいた部分も根元から折れねじれている。
 リング状の船の上部に位置する球体部分、一矢達が居たであろう部分も綺麗さっぱり吹き飛んでいた。林檎を齧った様に穴が開き、破壊の爪痕が残されている。
「見事に穴が開いてるっすね〜」
 ロンジーが驚いた様に言う。先程迄は弾かれていたのに、いざ当たるとなると、これまた見事に装甲が吹き飛んだからだ。
「意外と脆いんじゃない? あれ」
 ヒュレイカが呆れたような声を出す。
「かも知れんな」
 しらねもその意見に同意した。どういう防御方法をとっているのか今一つはっきりしないが、崩してしまえば案外簡単に攻略出来そうな気がする。
 中からなら破壊は容易い……か。

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 しらねは苦笑を浮かべながら、一矢の行動の正しさを理解した。
「それで桜花はどこだ?」
「えっと……」
 セネアが望遠レンズの角度を変える。映像が微かにぶれ斜に動いた。モクモクとあがる煙りの向こうで小さく何かが動く。
「あっ、あれじゃない?」
 ヒュレイカが目敏く見つけ映像の隅を指差した。細い指の先に、小さな人影が幾つも映る。セネアは急いでその部分を拡大し、画像解析をかけた。今のままでは黒煙しか映らず、何が何やらさっぱりわからないからだ。
 カメラが捉えた映像から黒煙を外し、動く物を立体的に再構成する。するとそこからは三人の人影が浮かび上がった。小柄な子供と思える影と、女性の影と大柄な男性と思われる影が。
「ビンゴ!」
 ロンジーが指をパチンと鳴らす。
「これっすね! 一番小さいのそうっすよ!」
 一矢が聞いていたら泣くこと間違いなしのことを告げ、横にいる穂波を伺う。
「な? そう思うだろ?」

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「……」
 穂波は沈黙で応じ、スイと視線を反らした。
「おーい、無視?」
「……小さいって言ったのが桜花にばれたら、後で報復が来るんじゃないか? 【30ー30】?」
「うっ」
 穂波の言葉にロンジーは心臓を押さえる。一矢に向かって年齢や身長の話題は禁句だ。普段顔には出さないが、自分の時間が止まってしまった事を密かに気にしているからだ。
 自分より年下の連中に、どんどん身長も外見も追いこされて行けば尚更だろう。現にロンジーだって一矢より年下だが、誰がどう見てもロンジーの方が年上にしか見えない。不老に対する憧れのない一矢からすれば、この状況は全く面白くもないものなのだ。
「あ〜う〜」
 もごもごと何かを言いかけ、不意にガクッとロンジーは肩を落とす。
「すみません、すみません。俺が悪かったっす。内緒にしててください〜」
 一連の行動を見守っていたしらねが短く吐息をついた。
「【30ー30】話が終わった所で出番だぞ。急がないとタイミングがずれる」
「あ、了解!」
 ほやけていたロンジーの表情が生真面目な物に戻る。ロンジーは急いで端末を操作し、どこかへと回線を繋いだ。
 次の瞬間、何も映っていなかったディスプレイの一つに、パイロットスーツに身を包んだ女性の顔が映る。アーモンドのようなキリッとした瞳が印象の女性だった。
「【08】繋がりました」
 その言葉に軽く頷き返し、しらねが口を開いた。



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