掲示板小説 オーパーツ95
生理的に嫌いなんだよ
作:MUTUMI DATA:2005.3.22
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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 抜き取ったコードを巻き取りながら一矢が周囲を見渡す。
「これはまた……大盛況だな」
 鈴とグロウを取り囲み、そして己自身にも迫ろうかというDollを前に一矢は嘆息した。
「相変わらず気持ち悪い。どうにかしろよ、この形!」
 いい加減うんざり気味なのだが、それでもしっかり文句は口にする。
「生理的に嫌いなんだよ」
 だからこそきっちりバラす、そう言いた気に一矢は右手を振った。鈴とグロウを取り囲んでいたDollに火花が放たれる。Doll達は全機一斉にバチバチと発火し、うっすらと一筋の煙りをあげた。白い煙りと焼け焦げた臭いが部屋中に充満する。
 Dollは全てが停止していた。直前迄動いていた、細い足が持ち上げられたままの姿勢で止まっている。外観が壊れた訳ではなく、どうやら内部の回路そのものが壊されたようだ。
 ポカンと見守る二人の前に、一瞬にしてDollの残骸が出来上がった。瓦礫と化したもう動かないDollを靴底で蹴りつつ一矢が嘯く。
「玩具なら玩具らしく黙って座ってろ」

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 圧倒的な戦闘能力を前に鈴もグロウも呆然としてしまう。秒殺どころか瞬殺だ。我が目を疑ったとて仕方がないだろう。
「……桜花」
「何? 鈴ちゃん?」
 足先でDollを蹴るのに飽きた一矢が、声をかけて来た鈴の方へ近寄って行く。ヘナヘナと腰砕けになりながら鈴が一矢を見つめた。
「一体何をどうしたの?」
「ああ、Doll? 物凄く単純だよ。Dollのメイン回路を潰したんだよ。電子機器は意外と静電気に弱いし」
「……」
 静電気? 本当にただの静電気なのか? 訝し気な視線が二人から一矢に飛ぶ。そんな物で壊れる程Dollは単純な造りをしていない。メイン回路だとて当然絶縁処理はしてあるはずだ。
「……まあ、何でもいいけど。助かったわ……」
「同じく……」
 言葉少な気に二人は謝意を伝えた。どこかこそばゆそうに一矢も頬をかく。

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「もともと僕が二人を引き摺り込んだ訳だし。えーっと。ほんと待たせて御免ね。何か色々と忙しくって……」
「処理は全て完了したのですか?」
「まあね」
 グロウに短く同意を返し、一矢は視線を部屋の入り口へ向ける。Dollが壊滅した事を知った敵の気配が慌ただしい物に変わっていた。バタバタと走る足音が幾つもする。
「次が押し寄せて来そうですね」
「そうだね」
 あっさりとグロウに同意を返し、一矢は鈴とグロウを近くに手招いた。
「何です? 分散していた方が集中攻撃を浴び難いと思いますが?」
「……そうなんだけど。ちょっとそっちは危ないから」
「危ない?」
「うん。そろそろ来ると思うし」
 言いながら一矢は鈴とグロウの手を掴む。
「桜花?」
 いきなり手を取られた鈴は、不思議そうに一矢を見つめた。真面目な顔をして一矢が応じる。
「そろそろね、その辺に砲撃が来るはずなんだよ」
「……」
「は?」
 無言で見つめる鈴と惚けた声を出したグロウの視線が絡まった。
「……桜、花?」
「あの……」
「さっきね現実世界に戻る前に、太白に通信を入れておいたんだよ。あの辺りを……」
 そう言って一矢は部屋の入り口付近、敵の潜んでいる辺りを見る。
「プラズマ砲で撃てって」

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「……」
「……」
 沈黙が二人におりる。
「だからあの辺りは今物凄く危ないんだよ」
 鈴とグロウは声もなく絶叫した。二人仲良く何て事をするんだと、一矢を睨み付ける。
 戦艦のプラズマ砲をこんな至近距離で浴びて、無事で済むはずがないからだ。自殺願望者でもない限り、一矢の言った事が本当なら全力疾走で逃げる。
 入り口は目と鼻の先にあり、今いる場所だとてプラズマの爆発の範囲内なのだ。一矢が危ないと言った入り口付近と、危険度はさほど差がないように感じられた。
 凍り付く二人の手をそれぞれ掴んだまま、一矢はにっこりと微笑む。それはそれは小悪魔の様な微笑みだった。
「そういう訳で、隔壁に穴が開いたら逃げるから」
 二人にとって、一矢のこの言葉は悪魔の手招きに等しい物だった。口の中がカラカラに乾くのを二人は自覚する。

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 夜空に浮かぶ5隻の宇宙船。それは星間軍に属する情報部の艦隊だった。通常は7隻で活動するが、今回は空軍のムーサ・レナンディ中将の応援の為に、三番艦『一葉』と四番艦『白妙』が別行動を取っている。
 二艦を欠いたとはいえ、十分驚異的な武力を誇る5隻の宇宙船は、夜目にも鮮やかな編隊を組んで、ジェイルの乗った船と平行に並んでいた。
 艦隊の中央に位置するのは他の船より少しだけ大きな宇宙船。この艦隊、第19番艦隊の旗艦『太白』だ。太白は僚艦の4隻の宇宙船を統括する立ち場にあった。
 そんな太白の艦橋では、何時になく緊張を孕んだ空気が流れていた。ピリピリとした気配が充満している。
「本当にいいんですね?」
 くどい程念を押し、火器制御担当の穂波が指揮官席のしらねに尋ねる。
「構わん。やれ」
 しらねはそう短く応じ、
「桜花自身の指示だ。後の事は気にせずぶち込んでやれ」
 という過激な台詞を続けた。側でそれを聞いていたロンジーが、止めていた息を吐き出す。
「うわっ。本気だし」
「悪いか? 【30ー30】?」
 どこか座った眼差しを、しらねがロンジーに向ける。
「い、いえ〜」
 慌ててロンジーは答えた。
「悪いなんて一言も言ってませんよ〜」



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