掲示板小説 オーパーツ90
覚悟はしておく事だな
作:MUTUMI DATA:2005.1.29
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


446

「それは……恐らくサフィンのせいだ」
「サフィン?」
「桜花の身体に巣食う剣。いや正確には、融合したナノ結晶体か……」
 半ば吐息の様にしらねが続ける。
「サフィンが産み出すエネルギーは半端じゃないからな」
「は?」
 ロンジーは首を傾げる。どういう意味なのかさっぱりわからなかった。ロンジーの態度を見て、しらねが怪訝な顔をした。
「もしかして知らないのか?」
「何をっすか?」
「桜花の身体の中に、神を殺した武器があるって事をよ。有名な話じゃない」
 「ねーっ」とヒュレイカがセネアに問い返す。こくりとセネアも無言で頷き、それに同意した。

447

「神を殺した? あ、そーいえばそんな話を聞いたような気もするような……」
 その呑気な台詞に皆が一気に脱力する。
「あのね〜」
 ヒュレイカが額を押さえた。
「そういう事は知ってて当たり前で、知らなかったら恥ずかしい事実なのよ。忘れてどうするのよ」
 そう責められ、ロンジーは少し背を反らす。
「いやだってさ〜。隊長って普段そういう物使わないし」
「普段からポコポコ使われちゃこっちがたまらないわよ。あんな反則武器」
「うんうん、正論」
 カノンが静かに頷く。

448

「あ、ははは……」
 ロンジーは白々しい笑みを浮かべ、そーっと会話から逃げた。追求されても墓穴を掘るだけで虚しいだけだ。

449

「でも良く考えるとサフィンって不思議な武器よね。隊長の体の中にあるのでしょ? 隊長痛くないのかな?」
 突っ込むべき所が微妙にズレているが、カノンの感想にしらねが苦笑を漏らしながらも律儀に返す。
「我々が『サフィン』と呼ぶ物は、ナノ結晶体が集まり外観を形成したものだ。一つ一つの構成体、ナノ結晶自身は、意識も出来ない程小さな物質だ。寄り集まれば剣にもなるが、サフィンの本質は固定化されないナノ粒子、砂粒の様な物だと思う方が良い」
「粒か……。あ、でもあんなのが体の中に入っていたら気持ち悪くない? 私だったら絶対嫌だなー」
「……桜花の神経はナイロンザイルだから、全然平気みたいだぞ」
 それはないだろうという言葉を、さらりとしらねが放つ。笑うに笑えない本質を衝いていると思ったのは、ロンジーだけではないだろう。
 一矢と行動を共にすればする程、それが理解出来る。恐ろしい程可愛い外見をしているが、一矢のやる事なす事全てがそれに反比例する。
 一見すると限りなく極上の微笑みも、裏では何を画策しているのか知れたものじゃない。華奢で今にも折れそうな四肢だとて、実は結構打たれ強く頑丈だったりする。
 とにかくあらゆる意味で、第一印象を悉く打ち砕いてくれる人なのだ。
「まあどちらにしろサフィンを召還したという事は、それだけ桜花自身も危機感を抱いているという事だな」
「ええ、そうね」
 ヒュレイカが敵船の映像に視線を巡らしながら頷く。
「覚悟はしておく事だな」
 しらねの口から厳しい言葉がとぶ。ブリッジのクルー達は神妙にその台詞を聞いた。
 一矢が普段は決して使わない、影も形も悟らせない程自身に潜ませたオーパーツ、サフィンを使った時点で皆が朧げながら理解していた。これは生半可な方法では解決されないのだと。それこそ一矢が本気を出してどうにかなるタイプの案件なのだという事を。
 そして現実がその想像を正に裏付けようとしていた。
 敵船の骨のようなオブジェの一部がぐにゃりと歪む。外に向かって伸びていた物の一部が、内側に向かってゆっくりと潰れた。

450

”艦内動力遮断 バイパス路接続拒否 生命維持システムオーバーフロー”
 半眼の一矢を前にコンピューターが淡々とした音声で報告する。片耳でそれを聞き流し、一矢は更に深く意識を機械の中へと潜り込ませた。一矢の目には光の渦、0と1の記号が情報となって見える。
 コンピューターの理解する全ての事象が、今一矢の手の中にあった。溜め込まれた機密もくだらないメモも、全てが一矢の前に曝け出されている。機密を守る壁は一矢にとっては薄い布のような物で、切り口さえわかれば容易に侵入出来た。
 コンピューターの管理者権限を取り戻そうと動く姿もあるにはあったが、一矢の敵ではない。リンケイジャーを相手に普通の人間がどう足掻こうと、何人束になろうとも、その処理速度も理解速度も追い付けない。幾ら足掻いても一矢の絶対的な有利は揺るがないのだ。
 足下をちょろちょろ走る鼠を気にも止めず、一矢は作業を続ける。



←戻る   ↑目次   次へ→