掲示板小説 オーパーツ88
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作:MUTUMI DATA:2005.1.29
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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 一方その頃、一矢が攻略をかけている宇宙船のブリッジでは……。


 艦内にわずかではあるが衝撃が走り、警報が鳴り響いていた。ジェイルが眉間に皺を寄せクルーを見る。
「何が起こった?」
「は。その……、オーディーンが本船の装甲を切り裂きました!」
「何だと!?」
 その報告にジェイルの顔が歪む。
「損害は?」
「軽微です。273ブロックが破壊された程度です」
 クルーの報告にジェイルが安堵の息を吐き出す。区画一つなら船の機能に影響はない。
「オーディーンは?」
「機体は本船に張り付いていますが……。パイロットと思われる人影が、亀裂から本船に入るのを確認しました」
「侵入されたのか?」
「まず間違いなく。273ブロックからの応答が先程途切れました。敵に制圧されたものと思われます」
 真剣なクルーの声にジェイルが反応する。
「273ブロックを閉鎖しろ」
「了解。排除部隊を出されますか?」
「無論」
 短い応えに頷き、クルーが慌ただしく指示を伝える。

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 その緊迫した声を聞きながらジェイルはじっと腕を組む。
 状況は決して良いとは言いがたかった。敵である星間軍はまだそこにいたし、敵艦隊が大きな損害を被った気配もない。
 忌々しい、頑丈な船だ!
 プラズマ砲の連続攻撃に対する耐久は、ある程度は予想していた。星間軍の艦船なら耐えきるだろうとも思っていた。
 ただ予想外だったのは、虎の子とも言うべき重力ブラストが効かなかった事だ。通常の艦船ならあれ1発で墜ちる。なのに星間軍は2度も耐えた。
 1度目は幸運だとしても、2度目はまぐれや偶然でさばけるものではない。明確な理由がそこにはあるはずだ。
 奴等のシールドは硬度3万以上なのか!?
 あまり考えたくもないが、それ以外に理由を思いつけない。ジェイルはじっとりと手に汗をかいている事に気付いた。
 切り崩せるのか? 奴等のシールドを?
 考えれば考える程、嫌な予感に支配される。だがそれを無理矢理意識から追い出し、ジェイルは次の指示を考えた。

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 まとまらない思考に我ながら嫌気が差してきた頃、ジェイルはその異変に気付いた。
 中央ディスプレイの左端に小さくライン接続の表示が出ている。赤い矢印が左右を行ったり来たりしていた。なにげなしにそれを眺めていたジェイルだったが、ハッと我に返ってクルーに尋ねる。

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「今誰か中枢制御機能にアクセスしているか?」
「制御ですか? いえ、そちらの方は特に……」
 クルーの一人が首を傾げながら答える。
「中枢制御はメンテナンス以外に触る事はありません。ましてや今は戦闘中ですから……、戦闘システムとのデータリンクもありませんし、アクセスする必要も意味も見出せませんが」
「……ではどうしてラインが開いている?」
「ライン? 御冗談でしょう? そんな筈はない……」
 否定の言葉を継ぐクルーを遮り、ジェイルが中央ディスプレイに赤く表示された矢印を指し示す。
「動いているようだが?」
「!?」
 ぎょっとした顔をして、クルーがディスプレイに張り付いた。

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「馬鹿な! ラインが開いている!?」
 ハッとして、その男は周囲の仲間を見やる。仲間達は盛んに首を横に振った。
「アクセスなどしていません」
「私もだ」
 管理者コードを持つ複数のクルーが交互に申告する。
「では誰もアクセスしていないのだな?」
 ジェイルが静かな声で再度確認した。クルー達は揃って頷き、中央ディスプレイにいまだ目を奪われている男を見る。
「どういう事なんだ?」
「なぜラインが開く?」
 その男なら何かわかるのではないかと、クルー達は期待を滲ませ男に詰め寄った。だが、
「わからない。故障とは考え難いのだが」
 男は赤い矢印に見いったまま一人唸る。
「戦闘システムに影響はないよな?」
「ああ、今のところは」
 別のクルーが困惑したまま男の質問に答えた。
「バグかエラーなのか? それとも……」
 別の案件をあげようとして、男はそれに気付いた。火器管制システムの全ての機能が強制停止させられている事に。
 中央ディスプレイを始め、ありとあらゆる端末にエラーの文字が踊る。室内の機器という機器が一斉に赤い文字で埋まった。



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