掲示板小説 オーパーツ82
化け物め
作:MUTUMI DATA:2005.1.9
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


406

 そう言って興味深そうに敵船を眺める一矢に、しらねは呆然と見愡れた。
「桜花、……何を呑気な……」
「だが【08】面白い技術だと思わないか? 手に入ればこの先楽になるぞ」
 それが完成された技術ならば、星間連合の戦力としてかなり有効な物となる。けれど……。
「手に入れたいんですか?」
 しらねに問われて一矢は即座に否定した。
「まさか、冗談だろう? あんな文明進化速度を越えた物なんか使えるか。メンテナンスも出来ない物なんて、今更いらないよ」
 飛び抜けた技術は必要ない。一矢はそう断じる。
「使い方も理論もわからない物に手を出すなんて、子供の火遊びじゃあるまいし。そんな物を手に入れるよりは、今ある技術を改良して行く方が良い。文明の進化なんて、一部の技術が突き抜けたって意味ないんだよ。全体が底上げされなきゃ一緒だ」
 星間大戦の頃、オーパーツから取り出された兵器で色々と苦労をした一矢としては、懐疑的な思想にもなる。それでなくても十分、一矢は保守的だ。
 一部の進歩的、太古の技術であるオーパーツを現代に活かそうとしている派閥からすれば、十分目の上の瘤となるぐらいには。別に一矢がその行動を邪魔しているわけではない。けれど一矢の持つ影響力は、本人が思っている以上に大きいのだ。
 故に現在の星間連合は、夢を追うよりも現実路線を追求する事の方が多い。技術の革新もまた然り。少なくとも一歩づつ前に進む事を選んでいた。
「だいたいそれにさ、あれ……」
 ついっと敵船を指差し、一矢は目を細める。
「無理が有り過ぎるんだよ」
「は?」
 通信映像のしらねが間抜けな声を出す。
「だからあれが……。っ!」
 続けようとした言葉を飲み込み、一矢が目を見開く。
「うわっ、それを抉るのか!?」
 一矢達の視界を光が覆う。しらねと会話をしている最中に、敵船からの攻撃が一矢の展開したシールドに当たっていた。敵船との境に築かれた五重の盾が抉られる。等間隔に並んでいたシールドの内、四つまでもが崩されていた。拡散するシールド粒子を一矢は知覚する。
 四つ潰された! 何だ、今のは!? プラズマ砲じゃないな!?
 驚愕に一矢は息を飲んだ。しらねが蒼白な顔を浮かべる。

407

「桜花!」
 しらねの叫び声を聞きながら、一矢は崩れたシールドを再構築する。再び先程と同じ要領でシールドを空間に張り巡らした。
 硬度一万で砕かれた。なら……今度は二万! これでどうだ!
 艦隊を背後に庇いつつオーディーンが動く。一矢の乗るオーディーンを中心に、不可視の光が広がった。直後、二撃目がシールドを襲う。
「ぐっ……」
 凄まじい圧迫感に一矢が苦痛の声を漏らした。
 なんなんだ!? この力は!
 思う暇もあらばこそ、又しても一矢の展開していたシールドの一部が破壊される。
 今度は2層もっていかれた! 硬度二万でも砕かれるのか!?
 一矢の目に驚愕の色が濃くなる。自分が今体験している事が信じられなかった。星間大戦中ですら無かった事態だ。
 あいつ(神と呼ばれた男)にも出来なかった事をこの船はしているのか!?
 青天の霹靂ともいうべき、一矢にとっても異常な事態を見てとったしらねが叫ぶ。
「桜花、太白を盾に!」
「じょ、冗談言うな……! 一撃で砕かれるぞ」
 シールドを再生させながら、一矢がしかめっ面で応じる。
「しかし!」
「【08】大人しくそこにいろ」
 冷たく言い放ち、一矢は機内の鈴とグロウに話を振った。
「二人ともごめん。こんな状況だから命の保証が出来なくなった」
 妙に神妙な口調の一矢の腕に、鈴がそっと両手をのせる。
「鈴ちゃん……」
「桜花。私は機体の操縦を譲った時から、覚悟は出来ているから」
「自分も、まぁ少しは……」
 鈴についでグロウも言葉少な気にそう応じる。鈴とグロウは互いに目を合わせ、その顔に苦笑を浮かべた。
「こうなったらもう一蓮托生でしょう?」
「逃げるつもりがないのなら、攻撃あるのみです」
 互いに言っている事は違うが、思っている事は同じだ。今更ジタバタしても仕方がない、全てを任せたと。二人の目はそう言っていた。

408

「ありがとう二人とも」
 信用されている事にほんの少し嬉し気に応え、一矢はしらねに言いおく。
「【08】は反撃の用意をして待ってろ。僕はあいつの機能を潰して来る!」
 言い様オーディーンの翼が広がる。
「桜花!」
 しらねの焦った声が聞こえたが、一矢はあっさり無視すると敵船目掛けて機体を進めた。最高速度でオーディーンはシールド網を突っ切る。
 闇に呑まれながら、一矢は的確に進路をとった。敵船が放つレーザー弾を擦り抜け、一直線に敵に向かう。
 遠く離れた場所から見れば、山に登る蟻の様なものだ。オーディーンは余りにも小さく、敵船はあまりにも巨大だった。
 程なくその巨大な船の防空圏に一矢は入り込む。散発的だった攻撃は弾幕の様に濃くなった。遠距離用のプラズマ砲だけではなく、近距離用のレーザー砲やレールガンまでもが飛来してきた。
 たった一機のオーディーンを敵船は集中攻撃する。それら全てを巧みに避けながら、或いはシールドで防ぎながら一矢は敵に肉迫した。

409

「敵、オーディーン尚も接近中。相対距離1400」
 灰色の統一されたユニフォームを着たクルーが、上座の人物に簡潔に報告した。瞳を細め中央に座した男はそれを聞く。
「重力ブラストシステム飽和! 冷却開始!」
「レーザー砲及びレールガンの稼働率140%突破」
「プラズマ砲エネルギー残量なし! 再充填入ります!」
 攻撃システムの情報が刻一刻と変わり逐一報告される。
「敵、第二防衛圏に侵入! 進路尚も変更無し」
 レーダー情報を伝えるその声と共に、中央ディスプレイにオーディーンの予想進路が表示された。黄色いマーカーが一直線に引かれる。それは僅かな歪みもない程の直線だった。
「……何故奴に当たらぬ?」
 一直線に突っ込んで来るオーディーンなのに、その進路の予測は完了しているのに、なぜ墜とせないのかと男はいぶかしんだ。砲撃担当のクルーが半ば茫然自失の状態で応じる。
「進路予測も照準補正も役に立ちません。敵は直前で全弾を回避! 信じられない……、こんな……」
 語尾を飲み込みクルーは呟く。
「化け物め……」
 上座、指揮官席に座った男は眉間に皺を寄せ、じっと侵入者の機影を見つめた。真直ぐに突っ込んで来るその姿勢から、オーディーンの並々ならぬ気迫を感じる。
「たいした技量だ」
 敵であるのに半ば感心し、男は、ジェイルは唸った。
「ジェイル様」
 指示を求める声に、ジェイルはおもむろに告げる。
「レーザー砲とレールガンの全砲門を奴に向けろ」
「しかし稼働率の上昇で焼き切れる事も……、予備砲門は残しておいた方が……」
 反論めいた事を口にした技官を一睨みし、
「構わん。全てまわせ」
 ジェイルはそう言い切った。

410

「2、3の砲門はくれてやれ。その覚悟がなければ……あれは墜ちぬ」
 ギリッと拳を握りしめ、ジェイルは敵艦隊を睨む。
 何時の間に忍び寄ったのか、屋敷から脱出した宇宙船は気付けば星間連合の艦隊に追尾されていた。脱出用の船の中に忍び込んでいた鼠を殺したはいいが、今度は鼠ならぬライオンを呼んでしまったようだ。
 これはジェイルの思惑から外れた展開となっている。予定ではセイラ諸共邪魔な侵入者を始末し、後腐れがなくなったところで、この復元した船と共に星系を離れるはずだった。
 その為にセイラの動向は常に監視していたし、彼女の配下を多額の金銭で買収もしていた。その上自分の息のかかったクルーを大量に、この船に乗船さてもいた。
 なのに何の因果か、緋色の本星にいまだ足留めされている。思惑外れもいいところだった。それというのも全て今敵対している艦隊のせいだ。
 星間連合の艦隊に進路を妨害され、なおかつ攻撃を受けた。これをどうにかしないことには先に進めない。
 例え先制攻撃で気勢を制しても、組織力では星間連合の方が勝つ。数で攻められれば、古代の技術を組み込んだ船であっても墜ちる。それを実感しているだけに、ジェイルは危機感を強めていた。



←戻る   ↑目次   次へ→