掲示板小説 オーパーツ80
無謀な攻撃は許さない
作:MUTUMI DATA:2005.1.9
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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「え、えっと……。あ〜、じゃあ始めるよ」
 何と言ったものか言葉を捜して、結局一矢はそう言って逃げた。キレたしらねを相手にするよりも、敵を相手にする事にしたようだ。
 一矢の感覚が順次研ぎすまされていく。重なりあうボコボコの歪なシールドが、一矢の脳裏で明確な展開図となった。オーディーンの探知装置が取り込む映像や、破損率のデータがそれに組み合わされていく。
 直接太白からデータは拾えなかったが、少なくとも今必要な範囲でなら一矢は欲しい情報を得た事になる。
 うわっ。なんかやっぱりギリギリの状態だな。シールドに対する負荷なんて、160を越えてるじゃないか。いつ消えてもおかしくないぞ。
 心の中でぼやきつつ、一矢は翼を広げると艦隊の先頭に立った。艦隊が展開するシールドのギリギリの端に立ち、巨大な円形の敵艦を睨み付ける。
 リング部分からは放射状にプラズマ砲が発射されており、敵の攻撃が止まる事はなかった。どうやらプラズマエネルギーはフル充填されており、当分この攻撃は続きそうだ。

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「桜花……」
 不安がる鈴を安心させる様に微笑みかけ、何が始まるのか興味津々のグロウに苦笑を向けながらも、一矢はオーディンに纏わせていたシールドを広げて行った。
 光に包まれた半透明の盾が一瞬にして太白を飲み込み、他の艦をも飲み込んで行く。恐ろしい速度で光は拡散し、あっと言う間に艦隊全てに行き渡った。歪な円で補完しあっていたシールドは、一矢の張ったものに飲み込まれ、消えた。
 今や誰の目にも鮮やかな程の光を放ち、一矢の展開するシールドは艦隊を守っていた。まるで聖なる光に包まれているかのようだ。

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 艦全体をシールドが包んだのを確認し、更に一矢は力を練り上げる。艦隊の前面、敵艦と向かい合う方向に五重の壁、均一間隔をおいて5つのシールドの盾を作り上げる。
「硬度一万の……五重シールド。崩せるもんならやってみな!」
 一矢の知る限り、それが出来た者はたった一人しかいない。一矢が殺した『神』と呼ばれた男だけだ。
 一矢が張ったシールドは、通常兵器どころかプラズマ砲の集中攻撃にあっても、歪み一つ起こさない。それほどの硬度、強固さを誇っていた。
 シールドの展開が終わると、一矢は心待ちにしているだろう命令をしらねに下した。一矢の凛とした声が簡素な、けれど重要な命令を伝える。
「全艦攻撃開始!」

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 それを合図に攻守は入れ代わった。フルチャージされていた艦隊の全砲門が開く。太白の指揮下、同期された艦隊は寸分の狂いもなく、同一点に向かってプラズマ弾を放った。緻密な計算の元、攻撃点は収束する。
 一矢の展開するシールドを通過し、全弾が敵船へと吸い込まれて行った。軌道を確認すると、一矢はじっと後の様子を窺う。
「桜花」
「何?」
 目線は前を向いたまま、鈴に聞き返す。
「あのね……」
「うん」
「さっき私……、その。桜花の乗っていた船が撃墜された時に、怒り狂ってあいつに」
 言いながら、鈴はリング状の敵船を指差した。
「プラズマ弾を打ち込んだの。オーディーンに装備されているものだから、流石に破壊力は弱いんだけど……」
「?」
 何が言いたいのかわからないらしく、一矢の目に怪訝な色が浮かぶ。
「そしたらね」
「うん? ……っと待って」
 まだまだ長くなりそうな鈴の台詞を遮り、一矢は訝し気に眉を顰めた。
「何か今、変な力を感じたけど……」
 何だろうと思っていた一矢の目の前で、太白旗下の艦隊が打ち込んだプラズマ弾が消滅した。集中攻撃された弾丸群が、フツリと闇の中に消えてしまう。
「えっ!?」
「……消えた?」
 驚く一矢と目を見開くグロウの側で、鈴一人が「やっぱり」と呟く。
「鈴ちゃん! やっぱりって?」
「私の時もそうだったの。当たりそうで当たらないのよ。何故か消えてしまうの」

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 プラズマの消滅……か。
「あの船がシールドを張っている可能性は?」
 一般的な指摘をグロウが口にする。
「今の所、シールド粒子は感知していない。丸裸だと思うけど……」
 呟きつつ一矢は考え込んだ。
 だが、何らかの方法で防御されているな。
「高位能力者の関与かな?」
 そっと鈴が自分の考えを披露した。けれど。
「それも違うと思う。そういった感じは受けないよ」
「でも桜花、高位能力者になら可能でしょう?」
 鈴の問いかけに、一矢は黙って首を横に振った。
「鈴ちゃんの言いたい事はわかるけど……。そんな力を持った人間がゴロゴロいる訳ないし。それに……」
 プラズマの消滅なんて事が出来るのは、僕とあの男(神と呼ばれた男)と、あの男を追っていた追跡者である『彼』と……。その他にはいないだろう。
 あの男は僕が殺したし、彼は自分の星に戻って行った。彼がこちらの宇宙に来たという話は聞かないし……。いないんだよなぁ。そういう事が出来そうな奴。ダークにも無理だろうし。
 星間特使である義弟の事を思い出したが、一矢は即座に否定した。ダーク・ピットにはそこ迄の力はない。
 どう考えても人が仕出かす事じゃなくて……。
「機械的にだよな」
 プラズマを消滅させる方法か。
「太古の技術でしょうか?」
 グロウが船の中で一矢と交わした記憶を思い出しながら呟く。
「かもしれないね。数万年という月日を越えて、それが蘇ったのかも……」
 形の全く異なった宇宙船。オブジェのような船を睨みながら一矢が呟く。
「【08】攻撃を控えろ」
「桜花!」
 理不尽とも思える命令にしらねが即座に反応した。
「桜花として命じる。控えろ」
「……っ!」
 ギリっと歯を噛む音が映像越しに聞こえた。
「プラズマ砲が無効化されている。原因を排除する迄待て」
「しかし!」
「【08】」
 地を這うような低い声音で、一矢は呼び掛けた。
「無謀な攻撃は許さない」
「桜……」
 頭に血が昇ってはいたが、一矢の雰囲気が変化した事にしらねは気付いた。真直ぐに向けられた視線の先にはリング状の船がある。船を睨みすえたまま、一矢は微かに笑った。
「なかなか……楽しめそうじゃないか。本気でやってもよさそうだ」
「おっ、桜花!?」
 何故か狼狽してしらねが叫ぶ。
「プラズマは消えた。じゃあ僕の攻撃はどうだ?」
 半眼になりながら、一矢は巨大な力を集める。全てを破壊するための力を。



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