掲示板小説 オーパーツ79
凄い事になってない?
作:MUTUMI DATA:2005.1.9
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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 短く応じながらも、一矢には慌てた素振りが一切みられない。
「お、桜花ぁ」
「大丈夫だって」
「でも……」
 一矢は迫り来る敵の攻撃を凝視した。コックピットの視界一杯に、眩い光が広がる。
「ひっ」
「っ!」
 鈴とグロウの短い悲鳴が、狭い空間に満ちた。
 シールド展開! 防げ!
 一矢の意識が命令を発する。同時にオーディーンの前に光の盾が広がった。花びらの様に八重に光がのびる。
「え!?」
「あっ!」
 鈴とグロウの驚きの声が重なる。
「これは……」
「シールド? え? 桜花が張ってるの?」
 二人の驚愕を無視し、シールドに守られた機体を一矢は加速させる。そして一気に敵の側面に回った。
「もらい!」
 ほぼ真横から一矢は狙いを定める。オーディーンは躊躇う事無く、脚部ユニットに装着されているサーベルを左手で引き抜いた。一瞬にして長い光の刃が夜空に出現する。
「胴ががら空き!」
 ビームサーベルを握った手が真横に一閃される。グラスコスの推進装置が、スパンと音を発て半分に切断された。敵機がバランスを崩したその一瞬の隙を衝き、一矢は右手に持つプラズマ砲を敵へと向けた。
 そこに躊躇いはない。無言で一矢は引き金を引き絞る。プラズマの塊がグラスコスを直撃した。放射状に広がる爆発に背を向け、一矢は一気に上昇する。一矢を狙っていた残りのグラスコスを無視し、一矢は高度を上げて行った。
「桜花、敵がまだ……!」
「ごめん、構っている暇がない。急がないと太白が落ちる!」
 言いおき、一矢はオーディーンを最大加速させる。どうっと鈴とグロウが背面に叩き付けられた。
「うあっ」
「くっ」
 加速による圧迫感に耐える二人に視線で謝りつつ、一矢は艦隊の様子をコックピットに表示させる。太白旗下の艦隊は、団子状になって猛攻を耐え忍んでいるところだった。
 単艦では強度がもたないと判断したのだろう。太白を中心に各艦が円状に広がり、各々の張るシールドが複数の艦を包み込んでいた。互いにシールドで守りを補完しあっていたのだ。
 敵艦から打ち出されるプラズマに接触して、いびつな守りの陣系が明らかになっている。目で見えないはずのシールドも、これでは一目瞭然だ。
「うわっ。凄い事になってない?」
「なってるよ」
 鈴の言葉に返し、一矢はそこへと突っ込んだ。

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「太白、ブリッジ聞こえる? 【30ー30】いるか!」
 ほとんど命令口調で一矢は通信を入れた。間髪おかず返事が返って来る。
「こちら太白。桜花っすか!?」
「そう。今から合流する。そっちの状況は?」
 背後から追撃をかけるグラスコスに向かって、牽制のプラズマ弾を打ち込みつつ、一矢は尋ねた。【30ー30】ことロンジーが暗い顔色のまま答える。
「敵艦の攻撃が激しく、目下反撃不能です」
「破損率は?」
「もうすぐ70%を越えます」
「わかった」

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 短く返し、一矢は意識を集中する。眼前に広がる空間、太白の張ったシールドのある境界に向かって、一矢はオーディーンを進めた。
「桜花、シールドにぶつかるわ!」
「開ける」
 鈴の不安をいなし、一矢は太白のシールドに自分の張ったシールドをぶつけた。オーディーンを中心に歪みが起きる。一瞬後、油の膜を破る様にオーディーンは太白の空間エリアに出た。シールドの一部を喰い破り、一矢は旗艦へと向かう。
「……抜けた……の?」
 不思議そうな鈴に、一矢はそっと笑みを浮かべる。
「僕のシールドの方が強いからね、勝負すれば勝つよ」
 そんな問題でもないのだが、鈴もグロウも一矢の言葉の本質には気付かない。旗艦の張るシールドよりも、一矢個人が展開するシールドの方が強固だというのだ。……本来そんな事はありえない。
 幾ら高位能力者といえども、そこまでは普通は出来ない。やろうとすれば手痛い反動が来るはずだ。けれど、一矢にはそれが出来てしまう。旗艦を上回る強度の力を加える事が。
 一矢達の乗ったオーディーンが通過すると、シールドは自然修復を始めた。直ぐに見えないエネルギーは、壁に出来た小さな穴を埋めてしまう。
 閉じた空間を前に、一矢達を追っていたグラスコスが反転した。侵入は不可能だと判断したのだろう。引き返す敵機を横目に、一矢は旗艦の前に出た。
「【08】!」
 呼び掛けると直ぐに、しらねから返事が返ってきた。

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「桜花! いいところに! シールドの補強をお願いします。出来たら肩代わりして下さい。その間に攻撃にうつります」
 挨拶も報告もなんのその。開口一番にしらねがそう告げる。味も素っ気もない応答だった。
「……【08】せめて無事で良かったぐらい言って」
 妙に寂しくなった一矢が愚痴る様に呟く。
「後でなら幾らでも。しかし今は、言葉で遊んでいる時間がありません」
 しかめっ面のしらねを前に、一矢もようやく軽口を止めた。オーディーンのディスプレイに現状を表示させ、各艦の状態を確認していく。幸いな事に、直接の被害は軽微だった。防御シールドが艦隊を守り抜いたようだ。
「艦自体は大丈夫そうだな」
「ええ、そちらは。ただプラズマ砲の発射準備が完了していますので、シールドが破られると大変不味い事になります」
「まず……って、おい。爆死寸前かよ!?」
「だからシールドをって言ってるでしょう!」
 冷静な会話は何時の間にか、焦った二人の声に替わっていた。

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「爆弾の上に座っているようなもんじゃないか……」
「こっちだって好き好んで抱えていません! 見ればわかるでしょうが、攻撃出来ないんです!」
 キレたしらねの口調に、一矢は暫し押し黙る。
「【08】……もしかして攻撃的な性格に豹変してない?」
 一応疑問形をとってはみたが、ほぼ確定事項を更に突っついただけのような気が一矢にはした。やはりというべきか、しらねからの返答は返って来ない。
 あうう。やっぱりキレてるぅ〜。おっかないモード全開だぁ〜。



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