掲示板小説 オーパーツ76
そう簡単には死なないよ
作:MUTUMI DATA:2005.1.9
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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 レールガンは破壊の威力も届く距離も左程ではないが、敵機との接近戦をする時には有効な武器となる。プラズマ砲の様に、見てわかる程の大きな動作を必要としないので、不意を衝く事が可能なのだ。
 敵機を葬り去ったマリは、残りの1機と激しく攻防を繰り返しながら、ニノンに向かって言った。
「降りるわよ!」
「え、ちょっ!? マリ!?」
「鈴との通信はまだ繋がらないし、機体も動かない。だったら、こっちから様子を見に行くしかないでしょ!」
 マリは言い様、一気にオーディーンを降下させた。その行動を呆然と見ていたニノンだったが、ハッと我に返ると後を追った。2機は敵とくんずほぐれつ、海面へ向かって降下して行った。

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 暫くして、通信封鎖空域から外れた事をニノンは知る。ドックファイトを演じるニノンとマリに、鈴から通信が入ったのだ。
「ニノン、マリ!」
 心配そうにそう叫び、慌てて合流しようとする鈴の姿があった。ニノンとマリは鈴の機体が動きだしたことに安堵を覚える。もしかしたら鈴は気絶しているのではないかとか、怪我をしているのではないかと考えていたからだ。
「無事なのね!?」
「おい、生きてんのか!?」
 マリはともかく、ニノンの言葉に鈴は憮然となる。
「ニノン、そーいう言い方をする〜?」
 ムッと滲んだ感情に、ニノンは不敵に微笑む。
「バリバリに元気そうじゃんか」
 餓鬼の様な表情でそう告げ、ニノンは機体を捻った。すかさずその横をレーザーが薙いで行く。
「呑気に話している暇はないわね。鈴、そっちに2機降りたわ」
「了解! まとめて面倒みとくわ!」
 威勢の良い鈴の声に、唐突に低い男の声が加わった。ぼそぼそと何かを言っている。
「?」
「鈴? 何か男の声がするんだけど?」
「え!? え〜っと、あはは。ちょっとね」
 微妙に誤魔化しの入った口調に、ニノンは眉を釣り上げた。
「鈴、何か隠してるね!」
「あ、あのね」
 弁明めいた言葉を続けようとした鈴だったが、横手からの落ち着いた声に遮られた。
「鈴ちゃん、相対距離1700。プラズマ砲の射程範囲に敵が入ったよ」
 その言葉に弾かれたのか、鈴の目付きが変わる。

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「あら、誰かしら?」
「どっかで聞いたような……」
 いぶかしる二人の前に、にゅっと革靴が突き出された。
「ちょっと桜花、靴が邪魔」
「ごめん鈴ちゃん、えっとカメラ、カメラ」
「これですかね?」
 別の声が聞こえ、手の平のアップが見えた。指にタコの出来たごつい手だった。
「あ、それ当たり。ん、この角度かな。……やあ、久しぶり。こっちが見えてる?」
 見知らぬ男と、良く知る少年と。ニノンとマリは絶句し呟いた。
「桜花?」
「……あんた、死んだんじゃないのか?」
 状況の飲み込めない二人は、呆然として通信画面を見つめた。見知らぬ男の肩に陣取った少年は、クスクスと笑う。
「そう簡単には死なないよ」
「いや、だってあんたが居た船は爆発しただろ?」
「うん、まあね」
「あの状況でも、脱出できたの!?」
 マリの目が感嘆の表情を浮かべる。マリ達も鈴と同じく艦内の映像を傍受していた。一矢とグロウが宇宙船の内部にいた事は知っていた。
 それに太白からも、二人が脱出する迄は手出し無用との通達を受けていた。謎の敵の攻撃により宇宙船が爆発した瞬間、二人は死んだものと思った。なのに、こうしてピンピンしている。
「よくもまあ、生きてるな」
「……誉めてるの? 貶してるの? どっち?」
「一応誉めてる」
 ニノンの素っ気ない返答に、一矢は淡く笑みを漏らす。
「あまり嬉しくないけど、まあいいよ。それより……そろそろ雑談は後にしようか。来るよ」
 最後の短い言葉と同時に、警報が響き渡った。ニノン、マリ、鈴の全機に。
 3機共にロックオンされてしまったのだ。ニノンとマリが短く息を吐き出す。一瞬にして顔つきが変わった。

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「墜ちるなよ、鈴!」
「そっちこそ!」
 からかい混じりのニノンの発言に鈴は返し、一旦回線を切る。そして目の前の敵に意識を集中した。
 ディスプレイの敵機を示す距離数値が、どんどん近くなる。相対距離が1600になった時、ようやく鈴はプラズマ砲を連射した。光の塊が敵機へと吸い込まれて行く。だが……。
「あ! 外した!?」
 敵機はプラズマの光を間一髪で避けた。2機を左右に分かつ様に、プラズマ弾は虚空へと消えて行く。そしてそのまま、敵機は左右から鈴の乗った機体を挟み込む様に、突っ込んで来た。
 鈴は小さく舌打ちしながらも、敵の軌道を予測し、左側の機体に更に狙いをつける。ポイントマークが照準装置の中を右に左に移動した。

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 直ぐに自動補正が入り、照準が確定する。
「これでどう!?」
 ほぼ真正面から鈴はプラズマ弾を打ち込む。当確かと思われたが、またしても敵機はスイとそれを避けた。極力無駄のない動きで、あっさりと回避してしまう。
「また避けられたの!?」
 目を見開き驚く鈴を横目に、一矢は冷静に敵の機体を観察した。
 オーディーンと良く似た人型の機体、それでもどこかずんぐりした感の否めないマシン。頑丈なフレームの上に、無理矢理装甲が乗っているような感じさえする機動兵器だった。
 型式名称をグラスコス。星間に出回っているオーディーンの亜機種の一つだ。
 グラスコスか。骨格を見る限り、かなりの旧型だと思うんだけど、それにしては運動性能が良過ぎるな。旧型に見せかけているだけで、本当はかなり弄ってあるんじゃないか? 中身は相当新しいはずだ。……なんか鈴ちゃんじゃ、荷が勝ち過ぎてる?
 少々失礼な事を思いつつ、一矢は遠慮がちに口を挟んだ。
「鈴ちゃん、アイツかなり強いよ」



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