掲示板小説 オーパーツ75
自分は団子ですか
作:MUTUMI DATA:2005.1.9
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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「鈴ちゃん! でも今は……!」
「とにかく送るから!」
 反論を問答無用で打ち切る姿に、一矢はそっと溜め息をついた。
 鈴ちゃんって、この強烈な思い込みさえなかったら、優秀な兵士なのに。……勿体無いな。
 同僚という視点ではなく、管理官という立ち場から鈴を評価し、一矢は困った様にコックピット内に視線を彷徨わせた。
 どうする? 鈴ちゃんを無理矢理黙らせて、太白の加勢に行くか?
 その場合、鈴を気絶させてオーディーンを強奪して行く事になるのだが、流石にそれは後が恐い。
 絶対鈴ちゃんに泣かれるな。
 鈴の性格上そうなるような気がして、一矢はどっぷりと溜め息を吐き出した。
 あんまりしたくないなぁ。女の子を虐めるのは好きじゃないし。
 このあたり鈴が仮に男だったら、平気でやってしまっているのだろうが、まあそれは言わぬが華だ。
 一矢だって味方の女性にはそこそこ甘い。それに鈴は一矢の直接の指揮下にはいない。だから多少一矢が遠慮するのも、当然といえば当然なのだ。
「あのね、でも鈴ちゃ……」
「……すみませんが、これは何の騒ぎですか?」
 その時、一矢の反論を掻き消す様に低い男の声が加わった。それはそれは蜷局(とぐろ)を巻くような不機嫌な声だった。オーディーンの左手に、すっくと立ちながら、グロウがコックピットにいる一矢を見つけ、声を張り上げる。
「自分は状況の説明を求めます」
 気絶から目覚めるや否、軍人らしい配慮からきっぱりとそう要求するグロウに、一矢は乾いた笑みを向けた。
「お早う。説明は長くなりそうだからまた後で。そんなことより鈴……」
「桜花、桜花。そういえば忘れてたけど、この人緋色の軍人でしょ? どうやって共闘したの?」
「……だから、今はそれどころじゃないんだってば」
 太白が落ちそうなんだよ! 見えてるだろ!?
 一矢の冷静な突っ込みは、無邪気な鈴と無意味に一矢を威圧するグロウの二人に、あっさりと無視された。お互い事情を知りたくて仕方がないようだ。鈴は好奇心から、グロウは状況把握の為に。どちらにしても一矢からすればいい迷惑だ。

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「ねえ、頼むから二人とも少しは僕の話を聞いて欲しい……、っ! うあっ!」
 二人に向かって話しかけていた一矢は、突然声を上げると鈴の方へ倒れ込んだ。
「桜花?」
 いぶかしる鈴を尻目に、一矢は横手から身を乗り出し、オーディーンのスイッチに触れる。
「きゃっ。ちょっと桜花、勝手に触っちゃ駄目だよ!」
 鈴の声と共に、オーディーンの左手がコックピットすれすれ迄近付き止まった。一矢がとび移った時の空間の隙間はもうない。すかさず一矢はオーディーンの手の上のグロウに命じた。
「グロウ、中に!」
「!?」
「早く! 来る!」
 短く告げ、鈴へと視線を転じる。
「鈴ちゃん、レーダーを!」
「え!?」
 一矢に言われ、慌てて鈴はレーダーに視線を走らせた。上空から何かが急速に近付いて来る。踊る様に輝点が幾つも迫っていた。
「あ!」
 ハッとして声を荒げる鈴に軽く頷き、一矢はコックピットに押し入ってきたグロウの片手を掴む。
「狭いけど、どっかに掴まってて。揺れるよ」
「自分は団子ですか」
 余りの窮屈さにグロウは愚痴をこぼす。
「文句は言わない。生身で外にいたいの?」
「……ここで結構です」
 身も蓋もない一矢の台詞にあっさりと白旗を上げ、グロウはなるべく小さく体を縮めた。とはいっても、元々体格の良いグロウだ。たかが知れているが。
 そのあおりをくう様に、一矢が居場所を移動する。結局、コックピットの隙間に座り込んだグロウの肩の上に、一矢は落ち着いた。グロウの頭に右手を乗せ、左手で鈴の座るシートを掴む。
「桜花」
 不安定な一矢の居場所に、鈴が気遣うような声を出す。
「平気。それより鈴ちゃん応戦体勢」
 冷静な声で逆に指摘され、鈴は慌ててハッチを閉め、オーディーンの兵器システムのロックを解除した。

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 レーダーに映る輝点を分析し、鈴は小声で漏らす。
「2機は味方。残りの5機は敵!」
 味方の識別信号が迫って来る輝点の2つから出ていた。7つの輝点は絡まる様に、鈴達に迫って来る。
「ニノンにマリだわ!」
「同じチームの人?」
 鈴の言葉に一矢が横手から口を出す。
「ええ。桜花の乗っていた宇宙船を追いかける時に、意見の相違で喧嘩をしちゃって、私一人でチームを飛び出して来たんだけど。二人とも私を追いかけて来てくれてたんだ……」
 ほんの少し感動を滲ませた声で、鈴は漏らす。
「ちゃんとバックアップをしてくれてたのね」
 それを聞き短く吐息をつくと、一矢は鈴に一言だけ言った。
「鈴ちゃん、後で二人にお礼を言っときなよ」
「うん、わかってる」
 一矢の言葉に素直に頷くと、鈴はオーディーンを加速させた。激しく動く7つの輝点に向かって一直線に飛ぶ。

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 その少し前。
 上空では機動兵器同士の激しい戦闘が繰り広げられていた。敵味方入り乱れて、8機がデットヒートを繰り広げている。ニノン、マリvs敵6機の戦闘だった。



「だーーーっ! しつこい!」
 ニノンは叫びながら、機体を旋回させる。左右を大型のレーザービームがすり抜けて行った。せわしなく警報音がコックピットに響く。ロックオンを告げる、警告文字がディスプレイに走った。
「ロックされた!?」
 舌打ちし、ニノンはメインディスプレイに拡大された敵機と、レーザーの軌道予測を確認する。真直ぐに自分に向かって伸びる予測線を崩す為に、ニノンはあえて失速する。
 一瞬にして垂直方向に加速が加わり、ニノンの機体が敵のロックオンから外れた。その瞬間を逃さず、ニノンは機体を捻りながら敵機の背後に回り込む。
「お返しだよ!」
 悪態をつきつつニノンはプラズマ砲のトリガーを引いた。ニノン機の手の中の、竿の様なプラズマ砲から白光が飛び出した。空を割るような光はニノンを追っていた敵機にヒットし、一瞬で爆発四散させる。跡形も残さず敵機はキノコ雲となって消えた。一撃必殺の攻撃だった。
「1機消滅! 通算132機目!」
 スコアボードよろしくニノンは撃墜数をカウントする。
「ニノン、呑気にカウントしている場合!? 鈴の方へ2機降りたわよ!」
「げっ。擦り抜けられたか!」
 ニノンは唸りながら、マリに問う。
「鈴の動きは?」
「まだピクリともしないわよ! って、そっちでもモニターできるでしょ!?」
 ニノンのコックピットに再びロックオンの警報が響く。
「鈴の面倒見る暇なんてないわい!」
「こっちもよ!」
 マリの叫び声と同時に、くぐもった警報音が聞こえた。どうやらお互いに敵機からロックオンされているらしい。

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「ああ、もう! うざいなっ!」
 苛立つ声を上げながら、ニノンは機体をジグザグに動かす。その脇をレーザーエネルギーが連続して通過した。
「馬鹿鈴は何をやってんだよ」
「本人に聞きなさい。通信封鎖空域からそろそろ外れるわ」
 あっさりしたマリの回答に、ニノンは吐息をつく。
「マリ、聞いておいてよ」
「私も忙しいのよ!」
 ニノンの視界の片隅に、2機を相手に動き回るマリの姿が見えた。高速で飛行しながらプラズマ砲を乱射している。
「そっちの方が1機少ないじゃんか」
 敵3機に追いかけまわされているニノンは、そう言って不平を漏らした。
「悔しいけどニノンの方が腕は良いでしょ! 何とかしなさいよ」
「しなさいよってね、あんた。……うひゃ!」
 オーディーンの翼を抉る様に翳めたレーザーに、思わず首を竦める。もしこれがプラズマ弾だったら、装甲がもたず誘曝しているところだ。
「くそっ!!」
 悪態をつきニノンは大きく旋回する。オーディーンの背の翼が複雑な動きをした。
 オーディーンは天空で円を描く様に回転し、追尾する敵機を誘う。敵機がニノンと同じ回転運動に入ったのを確認すると、ニノンは機体を横に滑らせ制動をかけた。
 オーディーンの翼が体を包む様に前に張り出し、一気に加速を殺す。ズオオオーと激しい音が辺りに響いた。ニノンは異音も気にせず、横滑りのまま機体を右に半回転させる。
 きっちりと最小の動きで、敵を背後から剥がしたニノンは、再びプラズマ砲を構えた。オーディーンの優雅な指がトリガーにかかる。
 コックピットの中では、ニノンが真剣な顔をして照準を合わせていた。自動補正の入ったその一瞬を逃さず、ニノンはトリガーを引いた。再び閃光が起こり1機が消滅する。
「133機目!」
 叫びながらマリの方を流し見ると、マリの横手に居た敵機が爆発する瞬間が見えた。火炎を上げ敵機は落ちて行く。どうやらプラズマ砲ではなく、オーディーンの手首に装着されているレールガンを用いたようだ。



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