掲示板小説 オーパーツ70
随分と慎重ですね?
作:MUTUMI DATA:2004.12.6
毎日更新している掲示板小説集です。一部訂正しています。


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「まだ早い。もう少し追い込んでからだ」
「随分と慎重ですね?」
 意外だと言うヒュレイカに、しらねは冷淡に応じる。
「悪いか? 俺はそういう質だ」
 ヒュレイカはその回答に小さく吹き出す。目尻を下げ、くすくすと笑った。
「知ってますよ。【08】が慎重派だって事ぐらい」
「……なら何故笑っている?」
「だって【08】は一旦頭に血がのぼると、慎重派どころか過激な攻撃派に化けるじゃないですか」
「……む」
「そのギャップが面白くて、つい……」
 くすくすとヒュライカは唇を綻ばせる。しらねはどう言ったらいいのか、困った顔をしてヒュレイカを見ていた。

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 ブリッジにいつになく甘い空気が流れたが、それは次の瞬間に破られる。セネアが緊張した声を上げたからだ。
「【08】! 前方空間に巨大質量感知!」
「!?」
 何!?という顔をして、しらねはセネアの後ろ姿を凝視した。セネアの小さな手が端末を操り、中央ディスプレイにデータを表示する。
「先程迄何もなかったんですが、たった今何かが!」
 ぎゅっと拳を握り、セネアは悲鳴を上げる。
「何かが桜花の乗った宇宙船の進路を塞ぐ様に、現われました!」
 落ち着きのないセネアとは対照的に、しらねは冷静な声で問い返していた。
「光学迷彩か?」
「違います。それなら太白の探知レーダーに引っかかります」
「ならば?」
「……わかりません。でも、強いて言えば……転移現象に似ているかも」
 セネアの申告にしらねは、一瞬動揺を浮かべる。
 どういうことだ?
 浮かんだ疑問を消化出来ずに、しらねはセネアが表示したデータを食い入る様に見つめた。

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 セネアの述べる通り、前方に巨大な質量が存在していた。空間の密量が異常に上がっている。今だ視覚的には見えないが、そこに何かがあるのがはっきりと判る。
 何があるんだ?
「【24ー05】、質量数値を図形化できるか?」
「ええ。待って下さい」
 そう応じ、セネアが端末を操作する。幾つかのツールを選びセネアは実行にうつした。直ぐにディスプレイに半透明の映像が浮かび上がる。ドーナツリングを思わせる、ガリガリの骨格映像だった。見たことのない形だ。
「何これ? 円?」
 ぽつりとヒュレイカが呟く。しらねも難しい顔をしてそれを見つめた。

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 細い骨組みが合わさったかのような、円状の物体。正確には円ではなく、上に向って血管の様に細い筋が幾つも伸びている。見方によっては無気味なオブジェにも見えた。枝の様に伸びる筋の上部には、球体が浮かんでいる。
「何だ? この形は?」
 思わずしらねはそうこぼした。人工物には違いないのだが、こんな形の物は見た事がない。
「兵器か?」
 だが星間戦争の時ですらこんな物はなかった。その為いまいち確証が持てない。その時考え込むしらねに、ヒュレイカが緊迫した声で割り込んだ。
「敵船から小型艇が射出!」
「!?」
 ハッとして、意識を謎の物体から戻したしらねは叫ぶ。
「方位は!?」
「右、15度! 謎の物体の球体方向です!」
「球……」
 セネアが呟く。
「そこに向っているの?」
 囁く声と共に、不思議そうに首を傾げる。
「やっぱ兵器っすかね」
 ロンジーは言いながら、しきりに短い髪をかきあげた。動揺している時のロンジーの癖だ。
「わからんが不味いな。全艦に応戦体勢を! 敵の攻撃に注意しろ」
「了解、各艦に通達。兵器封鎖レベルC解除。即時応戦許可通達」
 ヒュレイカが低い声で応じる。暫し、静かな時が流れた。皆が皆、敵である船と小型艇の動きを目で追う。何時でもことを構えれるような体勢をとりつつ、太白旗下の宇宙船軍は謎の物体へと近付いて行った。
 そして。
「【08】!」
 小型艇が謎の物体のエリアに入るや否、それは隠していた姿を現した。桜花の忍び込んだ敵船を軽々と飲み込める程の、巨大な人工物だった。銀色のフレームが月明かりに輝く。

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 シルバーの重金属の色をした物体が、敵船の前に立ち塞がっていた。摩訶不思議な形をした物が、空中に浮かび静止している。しいて例えるならば銀のリング、それもいびつな形のデザインの。
 完全に姿を現した物体をじっと見ていたヒュレイカだったが、ハッとして突然声を荒げた。
「ああっ! あの姿!!」
「どうした?」
 しらねがヒュレイかに尋ねる。ヒュレイカは興奮したまま叫び返した。
「【08】! あれ、宇宙船です! ほら覚えてないですか? この星にある廃棄された太古の宇宙船の残骸を!」
「宇宙船? ……上空から見たあの円形の廃棄物のことか?」
「そう、それです!」
 記憶の底をひっくり返すしらねに、ヒュレイカは畳み込む。
「立体映像じゃあ質感がなくて判らなかったけど、ほらあの円部分。あれを錆びさせて、海の中に突き落としたら、遺跡の物とそっくりですよ!」
「……確かに似ているっす」
 側で話を聞いていたロンジーが頷く。
「ただ海の中には、球体部分は無かったっすけど」
「……うん、球体以外はそっくり」
 セネアまでが控えめに同意した。
「でしょう!? 間違い無いわ。あれ、太古の宇宙船のレプリカよ」
 断言したヒュレイカを前に、しらねは顎に手を軽く当て応じた。
「レプリカか。ならばその説を採用するなら、敵は船を乗り換えるつもりだということか?」



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